人格解剖実験で満点のコツ

ちびまるフォイ

最高峰に優秀な生徒

「最近の人はみんな感情が希薄になっていますが、

 だからといって安心していいわけではありません。

 感情あってこその人間だからこそ今日の授業があるんです」


特別授業『性格解剖実験』


教室にはイスに縛り付けられた人が運び込まれた。

あわせて各テーブルにぬいぐるみや写真などのものが運ばれる。


「先生、これはなんですか?」


「これは被験者の一番大切にしている思い出です。

 今からこれを被験者の前で壊してください」


声はイスに縛られた被験者にも聞こえている。

先生の言葉を意味を理解するなり、全員が叫び始めた。


「お願いやめて!! 大事な家族の写真なの!!」

「てめぇ! ふざけんじゃねぇぞ!! ぶっ殺してやる!!!!」

「こんなの聞いてない! 話が違うじゃない!」


「みなさん、被験者をよく見てください。しっかり勉強してくださいね」


各テーブルの生徒はみな物を燃やしたり壊し始める。

より怒り出す被験者もいれば、諦めて放心する人、泣いてしまう人など反応もさまざま。


生徒はノートやメモをすることなく、じっとその有様を見ていた。


そんな中、テーブルの一席で顔を曇らせている生徒がいた。


「どうしたんですか? 具合が悪いんですか?」


「先生、そんなことあるわけないです。冗談止めてください。

 すごく……気分が悪いんです」


「これは性格解剖実験です。

 普段、表に出ない感情や性格を引き出してそれを勉強する授業ですよ。

 それに被験者は望んでこの授業に参加してくれたんです」


「だからといって……」


「まさか、気の毒になったんですか?」


「先生はなにも感じないんですか!?

 こんなにも嫌がっているのに!」


「……すばらしい!!」


先生は生徒をゴンと叩き気絶させた。

次に目を覚ました時には生徒は被験者が座っていたイスに縛られていた。


「先生……いったいなにを!?」


「みなさん、よく見てくださいね! この中で一番感情が揺れていた人です!

 みなさんと同じ生徒なのにこれは快挙ですよ!!」


先ほどまでイスに縛られていた被験者のひとりは解放されている。

立場が完全に逆転している。


「語学のために、もっといろんな性格を引き出していきましょう」


先生はさきほどの被験者によりひどい仕打ちをしはじめる。

イスに縛られている生徒はふたたび感情を爆発させた。


「先生やめてください!! もういいじゃないですか!!」


「いいえダメです。大事なのは被験者の性格を解剖することよりも

 あなたから引き出される感情を解剖することのほうが有益なんです」


「私はもう十分に怒ってます!! 十分でしょう!」


「それは怒りだけではありません。

 あなたの心には相手に対する共感や思いやりが含まれています。

 その感情はここで引き出されるどんな教材よりも尊いです」


ほかの生徒はじっと見ているだけで助けることはない。

先生は入れ替わりに解放した被験者に尋ねる。


「さて、どうしますか?

 あなたと入れ替わりに感情解剖の教材となった生徒を解放しますか?」


「えっ……?」


「生徒を解放すれば、あなたがあのイスに座ります。

 今度はなにされるかわかりませんよ。

 でもこのまま帰ってもいいです。お金は支払われます。どうしますか?」


「……俺は……」


被験者は言葉を詰まらせた。

もうすでにボロボロの生徒に目を合わせる。


「俺は……戻りません!」


被験者の言葉にイスに縛られた生徒はがく然とした。


「なんで俺がそんな知らない奴のためにひどい目に合わないといけないんだ!!

 それにここまでの仕打ちされるなんて聞いてなかった!!

 金はもらえるんだろ!? だったら戻る理由なんてない!!」


被験者は出口に向かって走り去った。

一度も生徒を振り返ることはなかった。


「そんな……」


「あなたが助けた人はあんなろくでなしなんですよ。

 少しは自分を気の毒に思ってくれると思いましたか?

 あれがあの人の本質です」


「もう……いいです……」


「いい勉強になりましたね。これが絶望という感情です。

 そうそう出るものではありません。

 よく心に刻んで勉強してくださいね」


やがてチャイムがなって生徒は教室を出た。

しばられていた生徒も解放されて教室を後にした。


去り際に先生は生徒を呼び止めた。


「今日の授業であなたは誰よりも感情をあらわにしていた。

 あなたが最高点の満点ですよ」


「そうですか……」


生徒は嬉しくなさそうに出て行った。






誰もいなくなった教室に別の先生が入ってきた。


「新しいアンドロイドの感情OSはどうでしたか?」


「1つだけ素晴らしい成果を上げたのがありました。

 12番の感情OSをベースにしてまた組み直しましょう」


研究者2人はさらなる分析をはじめた。

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