第1話 桜花の絶望、桃矢の失望

桜花は、関西で生まれた。


最初の悲劇は一つ下の妹、桜子との生まれながらの格差であった。

比較的仲のよかった2人だが、周りから愛されるのは桜子だけだった。

親も例外では無く、桜花は冷たくあしらわれてネグレクトの域に達して放置されていた。

何かにつけて妹は構われていたが、自身はご飯は菓子パンが2日に一つ出ればいい方だった。

それでも…妹は悪くない為、両親への不信感は募るものの、桜子に対して恨みは湧かなかった。


だが、母が病で亡くなり、父もすぐに事故で亡くなってしまった。

桜子は親戚へ、桜花は孤児院へ引き取られることになった。

その時に、聞いた。聞いてしまった。


「桜子ちゃん引き取って欲しいって頼まれたから…ゴメンね。」


桜花はどうでもいいと言わんばかりの言葉に、私は妹の事や家族の事を頭から消すという事で心の安定を保った。

だが、その安定も高校二年生の時に壊れてしまう。


同じ高校に妹が入学してきたのだ。

同じ高校、同じ部活に妹が入ってきて封印してきた幼い頃の記憶の全てを思い出し、妹を避け始めたが、どれだけ距離を取っても妹は幼い頃の様に近づいてきた。


それだけであれば良かった。

だが、私に近づいてきた妹は幼い日の繰り返しのように、周りから愛を集めていく。

そんな妹が怖かった。


何故か妹が愛されていく度に私が比べられて落とされて行くのだ。なにか特別な補正が掛かっているのではないかと思う程に。

そして、事件は起こる。


「佐々木桜子に対する悪質ないじめにより、佐々木桜花を退学処分とする。」


確かに妹が怖いとは思ったが、排除しようとは思っていない。

否定して、証拠の提示を求めたが却下されて往生際が悪いとまで言われた。

桜子も否定してはいたが、「不出来な姉を庇う優しい妹」になった。


明確な証拠もなく、私からは桜子に関わって居ないのに退学処分だ。

口では否定してはいるが、妹が仕向けたのではないかと思うが、その時点ではもう口に出すほどの気力も無くなっていた。

最後に桜子に追いかけられて会ったとき、憎しみが沸いたのはその時だけであった。


「貴女といると疲れるのよ。こっちがどれだけ嫌な思いをしてるかなんて考えた事も無い態度。楽しかった?私が何もしていないのに責められて。誰が私を追い込んだんだろうね?」


桜子の顔が歪んだのを見届けて、思ったよりもスッキリしないまま学校を出た。


そして、そのまま孤児院へは帰らずに遺書を残してビルから飛び降りた。


〝もったいない〟の言葉を聞いたのは死の直前だった。


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桃矢と3歳下の妹である桃華の両親は、桃矢が高校卒業した直後に事故で亡くなった。


2人きりの生活は決して豊かとは言い難いものではあったが、兄妹仲良く暮らしていた。

桃矢がボケて桃華がツッコむ。

定番となっているコントは、見ている人も和んでいた。


そんな2人のささやかな幸せはたった1人の男が壊していった。


桃矢は高校が終わった桃華を迎えに行くために車を走らせていた。

部活が終わり、校門前で待っているであろう妹を思い、事故を起こさないよう慎重に行く。


校門前に付き桃華が居ないため、スマホで連絡を取ろうと鞄から出すと、LINCには桃華から画像が送られている。

その画像と一つ前のメッセージを見て、桃矢は絶句する。


桃華の全裸。それも、乱暴されているとひと目でわかるような。

スクロールすると犯人からの「遅かったな、兄さんww」のメッセージ。


すぐに110番通報を行い、高校の教師にも説明する。


なんで急がなかった、なんで教室で待っているように言わなかった、〝なんで〟が沢山頭に浮かんでは消えていく。


無事でありますようにと天国の両親に祈る。


その祈りは届かなかったが。

桃華は遺体で見つかり、犯人は捕まった。


その男が、たった1人の家族を、妹を、幸せを、奪っていった。

こんなに他人を憎いと思ったのは初めてだった。


葬式なども周りの風景が過ぎていくのに、自分の身体も思考もその速度には追いついては居なかった。


「父さん、母さん、桃華…。やっと、終わったよ。もうすぐで、そっちに行くからな…。墓参り、もう出来そうにねぇや。ごめんな。ごめんなぁ…。」


家族の墓に別れを告げ、近くのビルの屋上から飛び降りた。


〝もったいない〟の言葉を認識したのは、死の直前だった。

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