14話:崖城の番人

通路をしばらく歩くと、巨大なホールに開けた。遠い天井の中心から、きらびやかなシャンデリアが下げられている。真ん中には大階段があり、ホールの半部分は二階になっていた。


「すげえな······」


シドはシャンデリアの真下まで行き、その高すぎる天井を見上げる。その横を通り抜けたジャンは「すごい!」とはしゃぎながら階段を上り、上から見下ろしたり壁の装飾を眺めたりしていた。


「遊びで来てるんじゃないぞ······」


「まあ、ジャンは生まれてからずっと田舎の村にいたからな。こういう豪華なところは初めてなんだろ」


レイの呆れた言葉にシドがそう言った。


「すごイ! これを売れば赤字が解消できるゾ!」


ホールの端にある、豪華なイスをまじまじと眺めるマッドスネークに、レイは更に呆れる。


────そもそもあんたは武器屋だし、赤字ばかりだったらやばいだろうが。


はぁ、とレイは軽くため息をつく。


「レイー! これどこのドアに進めばいいの?」


ジャンの声が上から降ってくる。二階を見上げると大きなドアが真ん中、それより小さいドアが左右に二つあり、確かにどこのドアにシモンが進んだのか検討もつかない。一階にも右、左の壁にドアがあり、階段の奥にも通路があるようだ。


どうするか。四人それぞれ手分けして探すか。いや、この崖城には何があるか分からないから一人になるのは危険だろう。


「ん······? なんだ」


シドが小さく声を上げる。レイが「どうした」と声をかけると、彼は真っ直ぐ階段を見つめていた。


「奥に何かいるぞ」


「奥?」


「階段の奥。気配がする」


シドにそう言われ、レイも階段の方を見る。気配なんてものは感じられない。シドの気のせいか、もしくは彼の察知能力が優れているか。


シドの方を再度見る。目は真剣そのものだ。どうやらいい加減に言っている訳では無さそうだ。


レイは階段の裏側へと回り込んだ。若干ホコリっぽくて、軽く咳き込む。目の前には大きな扉があり、それに手を触れる。その瞬間だった。


────!


強烈な殺気。瞬間的に扉から手を離し、一歩引き下がる。途端に嫌な冷や汗が背中を伝った。


扉のすぐ向こうに何かいる。どうやらシドの察知能力が優れていたことに間違いはないようだ。


ドンッ!


扉を何者かが突き破ろうとしている。レイは慌てて扉の正面からずれた。刹那、扉は凄まじい音と共に粉砕される。


「オイ! 大丈夫カ!」


レイはマッドスネークの元へ走り寄る。皆、既に武器を構えていた。


────グォォォォォ!


階段の裏側から、聞き覚えのある咆哮が聞こえてくる。間違いない、あの鬼の魔物だ。


地響きのする足音と共に、鬼の魔物は姿を現す。ただ一つ今までと違うのは、鬼は鎧を纏っていたことだった。


レイは今までと違うその姿に警戒し、鬼と十分な距離をとった。鬼が完全に開けたホールに出たところで、2階にいたジャンが首を狙い奇襲をかける。


案の定、ジャンの剣は分厚い鎧にはじき返された。直後、上手くバランスをとり着地した。


「剣が、効かない······!?」


「大丈夫、他に何か手はあるはずだ」


シドはそう言い、鬼の後ろへ回り込み弱点を探し始める。


「オレの攻撃は効くかもしれなイ。やってみるゾ!」


マッドスネークが鬼に向かって走り出す。彼の攻撃は衝撃を一点に集中させて内部を破壊する。もしかしたら攻撃が鎧を通り抜けるかもしれない。


鬼は武器を持っておらず、そのままマッドスネークに向けて拳を振り下ろす。マッドスネークはそれを軽くジャンプして避ける。素早く懐に入り、腹に強烈な真星をかました。鎧の鬼は一瞬ふらついたが、すぐに体制を整えた。


「手応えはあまりナイ! どうやら鎧と本体の間に隙間があるみたいダ!」


なるほど、その隙間で攻撃が分散してしまうというわけか。鎧のせいで物理攻撃が効かない。鎧。これを上手く利用出来たりしないだろうか。


レイは自身の腕に付けた属性強化を見る。


────思いついた。


「シド、攻撃が入りそうなところはあるか!」


レイはいつもより大きな声を出した。


「ああ、腰に繋ぎ目がある。だけど剣は入らなさそうだ!」


レイは「十分だ」と言うと、ジャンに「気をそらしててくれ」と指示する。ジャンは頷くと、派手に正面から斬りかかろうとした。鬼はそちらに気が向く。


その間に、レイは鬼の後ろへ回り込む。シドの言う通り腰には僅かに隙間があった。


よし、手の届く位置だ。


レイは繋ぎ目に手を当てる。


「発動······」


腕に付いた機械に、赤い文字が流れるように浮かび上がる。流れが止まると、手先から津波のように炎が流れ出す。


炎は鬼と鎧との間の隙間に流れ込み、鎧の中は火の海状態となった。赤い文字がふっと消えると同時に、鬼は叫び声もあげずに倒れ込んだ。


盛大な金属音だけがホールに響き渡り、しばらく沈黙が続いた。


「お、お前、けっこうえぐいな」


沈黙を破ったのはシドで、引きつった顔をしていた。「そういうの真顔でやるのは怖いぜ?」とレイに一言言うと「笑顔でやるよりマシだろう」と返され、「確かにな」とすぐに会話が終わった。


そのうちにマッドスネークは階段の後ろ側にある、先程鬼が粉砕した扉があった場所に歩いて行った。レイ、シド、ジャンも自然とそれについて行った。


「とりあえズ、ここが一番怪しいから行ってみるゾォ!」


マッドスネークはそう言い、粉砕された木くずをバキバキ踏んで足早に進んだ。


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