12話:消えた少女

木々の間から山吹色の光が差し込んでくる。夕方の春日ノ樹海は変わらず異様な静けさを保っていた。そんな中、彼らの表情は朝方とは違い、深刻な面持ちをしていた。


「そっちはどうだ?」


レイとマッドスネークが、シドとジャンの元へ駆け寄ってくる。彼らはあちこちを走り回り、体力のほとんどを消耗していた。


「いなかったよ······」


ジャンは両手を膝に当て呼吸を整えながら、レイの質問に答える。


「このままだと、日が暮れるな······」


レイは木々から差し込む光がだんだんと弱くなっていくのを確認し、そう呟いた。


一体何があったのか。


その問いの答えは、ほんの少し前、空が色づき始めた頃にある。





* * *





彼らは最初の鬼を倒した後、鬼の動きに慣れてきたのか順調に倒していっていた。既に十体以上を討伐しており、町に帰れば新米冒険者を守った、ちょっとした英雄になるところであった。


「おりゃぁぁ!」


ジャンの剣が巨体の中心を貫く。シドのフォローもあり、彼はすっかり自分の技に自信を取り戻していた。巨体は呆気なく、ズドンと倒れる。


順調な雰囲気の中、突然、シドが慌てた様子で声を荒げた。


「おい! シモンはどこいった!?」


その言葉に、彼らは倒れた鬼の事も忘れて辺りを見回す。


────しかし、薄紅の衣装をまとった小柄な少女は、何処にもいなかった。


レイが最後に彼女の姿を確認したのは、この鬼が現れる前である。すなわち、彼女はそう遠くには行ってないことになり、周辺を探せば見つかると考えられる。


そう判断したレイは皆に伝え、二手に分かれて彼女を探すことにした。





* * *





「······あいつ、さっきまでいたよな。俺達、名前呼びながら探したのになんで出てこないんだ?」


シドは白衣を整えながら、若干不信な表情を浮かべてそう言う。


「マッドスネークの声、こっちまで聞こえてきたよ。その変な······じゃなくて大きい声が聞こえないはずがないよね」


ジャンが彼の疑問に補足するように言った。


────確かに、変だ。


もし、自分達の声が聞こえているとしたら。シモンはその声を無視してどこかへ行ったということになる。


レイは消えつつある山吹色の光に目を落としながら、更に思考を巡らす。


集団行動をしているうちは、余程の事がない限り離れて行動することはないだろう。では、何か余程の事があったのだろうか?


シモンが集団を離脱せざるを得ない、何か重大な事────


「······!」


レイは閃いたかのように、目を見開いた。


「ザンクトの石······」


独り言で発した言葉によって、三人の目線がレイに集まる。


「ザンクトの石だ。シモンは手がかりか何か見つけたのかもしれない」


「なんだそのザンクトの石って?」


シドが聞いてきたので、シモンから聞いた使命について説明する。


シモンが桜ノ巫女であることとその使命。暗黒ノ扉の封印にザンクトの石が七つ必要なこと。そのうちの一つが春日ノ樹海にあること。······そして、早く集めなければ世界が滅ぶということ。


「······なるほどな。あいつ、何か焦ってる感じあったもんな······」


シモンが使命に追われていることを知り、シドは複雑そうな顔をする。


「じゃあ、そのザンクトの石のありかが分かればシモンも見つかるということカ?」


「その可能性が高い」


レイがそう返すと、マッドスネークは「ウーン」とうなり始める。


「石っつてもなナァ。そのへんに転がってるかもしれないだ······」


「俺、その石知ってるよ」


ジャンがやっと話すタイミングを見つけたと言わんばかりに、マッドスネークの話を遮る。


「ザンクトの石は俺の村でも使われてる。儀式に使うような神聖な石だから、そのへんに転がってることはないと思う。でも、この樹海にそんな意味あり気な場所とかないよね······」


「いや、気になるところがある」


シドはそう言うと、後ろを向き上を見上げる。


そこにあるのは、そびえ立つ大きな崖。


「崖の上は未開の地だ。いかにもって感じだよな」



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