11話:未熟な青年達
「よけろォーーーー!」
シモンはジャンに気を取られ、急所を外してしまう。そして、着地と同時に仲間がやられる光景を覚悟して目をつぶった。
鬼の目に何かが刺さる。
鬼の動きが鈍り、咄嗟にレイが術式を発動して火球を飛ばす。火球は鬼の腕に直撃し、反動で鬼はよろけた。
「ジャン! 無事か!」
「大丈夫! ごめん······」
鬼の目に刺さっているのはナイフである。投じたのはシドであった。
「気にすんな! 反撃するぞ!」
シドの言葉と同時に、拳を食らった鬼が体勢を整え始める。
「マッドスネーク! そっちを頼む!」
レイはもう一体の鬼へと走り出し、剣を抜いて飛び上がる。鬼の攻撃を避け、脇腹を切りつける作戦。
しかし、鬼が狙っていたのはレイではなかった。レイの持つ剣を鷲掴みにしたのだ。鬼の力に敵うはずもなく、レイの剣はあっけなく持っていかれてしまう。
反動で空中へと投げ出されたが、レイはそのまま腕に付けた頑丈な属性強化を頭上から叩き付ける。
鬼は気を失い、倒れこむ。そしてジャンがとどめを刺した。
「お前、めちゃくちゃだろ······」
シドは、鬼に持っていかれた剣を拾いに行くレイを、呆然と眺めていた。
「この属性強化は特製だ。元々近接用に作られてる」
レイは剣をしまうと、もう一方の鬼を見る。
マッドスネークの一撃『真星』を受けた鬼は、とどめを刺されていないのにもかかわらず倒れていた。
「突然倒れたの、なんで!?」
シモンは鬼に近づくが、死んでいるようだった。その様子を見たマッドスネークが説明する。
「真星は破壊力を拡散しないように一点に集中させてるカラ、内臓が破壊されル。始めの致命傷が効いたって訳サ!」
「なんて技······」
シモンはマッドスネークの経験とパワーに圧倒されていた。
新人達とは、そもそも魔物との馴染みが違う。なおかつ彼は自分の技に改良を入れている。彼が過去に優れた冒険者だったということはたった今証明された。
「ササ! 素材を頂戴することにするカ!」
マッドスネークの言葉に、ジャンが顔をしかめる。
「また解体か······」
* * *
素材を手に入れたマッドスネークの顔は、満足している様ではなかった。
まだ、鬼を探すつもりなのだろう。そんな彼にレイが声をかける。
「僕達はこのままクエストを続けてもいいのか?」
「ムウ。それに関しては実は、迷っていたのだヨ。やはりまだ、全体の機動力を出し切ってる感じがしないんダ。個人個人の、樹海に対する不慣れが原因ダロウ」
「やっぱりオレ、足引っ張っちゃったよね······」
マッドスネークの後ろを歩くジャンが声を発する。先程の戦いを気にしているのか、声のトーンが低い。
「確かに、お前の反応速度は鈍イ。だが、シド、お前がフォローしただろウ? 欠点は個人だけじゃ補えるものじゃなイ、どうしようもないときは仲間を頼レ! それは経験によって解決されることダ!」
そう言い、彼はジャンに笑いかけた。だが、ジャンはまだ苦虫を噛み潰した様な表情をしている。
シドがジャンの頭を叩きながら「肉奢るから気にすんなよ!」と慰める。
今度は、レイの方に顔を向ける。
「レイ。お前、武器が合ってないナ?」
質問の内容にレイは心底驚いた。
なぜなら、剣は彼の得意武器ではなかったからだ。
「······なぜ分かった?」
「当たり前ダ! 熟練の目から見たらそりゃ分かル! それにさっき、その属性強化を鬼の頭に叩きつけたダロウ? そっちの方が無駄がナイ! 逆に聞くが、なんで使うンダ?」
「これは、あくまで護身用だ。もし、属性強化が使い物にならなくなったときの」
「じゃあ、もっと得意な武器を持てばいいじゃない」
話に割り込むように、シモンが前かがみになってレイを見る。
「もしかして槍、カ?」
マッドスネークは微笑を浮かべた。
「なぜそれを」
「ハッハッハ! これとばかりは勘ダ!」
図星を付かれたレイは、理由を話し始める。
「僕は錬金術より槍の方が優れているかもしれないと師匠に言われた。だけど、槍を使うとあまりに攻撃に集中してしまう。守りに入らないから危険とされて、禁じられた」
「なるほどナ。一度槍を使う姿を見てみたいものダ」
マッドスネークは納得していたが、シモンはレイの師匠の意図に理解出来ないところがあるようだ。
「そういう理由で、ふつう禁止までするかしら······?」
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