10話:鬼狩り

「さあ〜て、行くとするか! おいジャン、剣忘れてないだろうな?」


「流石に忘れてないよ。前に一回あったけどさ」


先頭にシドとジャン、そして後ろからレイとシモンが続く。宿を出て、東門へ向かうところである。この場所から見える時計塔の針は、九時前をさしており、待ち合わせ時間ぎりぎりだった。


昨日の事もあり、レイとシモンは気まずい様子である。


「きっ、昨日はごめんね、あんな言い方して。ほんとは言わないつもりでいたんだけど。あなたには関係ない事だから、忘れて」


シモンは合わせる顔が無く、うつむきながら謝った。


レイが言葉を発す前に、シモンの話を聞いていたのか、シドが振り返る。


「えっ、なに!? お前ら、昨日の夜なにしてたんだ!? おいレイ!」


何やら誤解したシドは、レイに詰め寄る。


「別に、何も」


「なんだよー!? 隠し事はナシだぜ! そういう事ならそう言えば言いのに······」


「誤解だ」


「いわゆる夜這いってやつじゃ······」


「誤解だ」

「変態ね、違うわよ!」


シモンは黙っていられず、レイとシドの間に割り込んだ。


「あっ、見えてきたよ」


ジャンは呑気に言い、前を指さした。その先には門があり、門の下に、がたいの良い男が手を振っている。


「オーーイ!」


その素っ頓狂な声は間違いなくマッドスネークであり、レイ達は慌てて走り出す。


走り着くと、マッドスネークは昨日のタンクトップ姿ではなかった。鎧を全く身につけておらず、布を重ね着したような身軽な服装だった。


「なんか、アチョーとか言いそうね」


シモンが手で口を隠し、シドにヒソヒソと話す。


「お前らァ、オソイ! どんだけ待ったと思ってんだァ!? 二時間だぞ、二時間!!」


二時間。この男、早く来すぎである。


「悪い。ちょっとしたシドの誤解があったもので、遅れてしまった」


レイは流し目でシドを見る。その表情は少し楽しそうである。


「ええちょっ、オレのせい!? お前性格悪いな······」


レイによる不意打ちに、がっくり肩を落とすシドも見ずに、マッドスネークは足早に歩き出した。





* * *





春日ノ樹海。前と同じく、異常な静けさが不気味であった。


「ンーー、確かに様子が変だネ。皆、鬼の魔物に怯えて出て来ないのだろウ。お前ら出来るだけ離れるなヨ、いつ出てくるか分からないからナ」


マッドスネークの言葉に、レイ達は緊張を覚える。


鬼はターゲットを見つけると暴れ狂うが、見つけないうちは静かである。まるで、門番であるかのように。


先頭を歩くマッドスネークが足を止める。


「······いるゾ。こちらに気づいていないうちに、背中を狙ウ。お前らのやり方で援護してくレ」


マッドスネークは忍び足かつ足早に、茂みを利用して鬼の背中へと近づく。鬼は気づく様子もなく、岩のようにピクリとも動かない。


背中に一撃を食らわし、体勢を崩した隙に包囲する作戦なのだろうとレイ達は悟る。


それぞれ武器の構えをとったとき、マッドスネークは動き出した。


「真星ィ!」


その図体から予想も出来ない速さで、マッドスネークは鬼の背中の一点を正確に狙った。


────グゥオオオ!


鬼は悲鳴をあげ、前のめりになり体勢を崩す。拳の一撃はかなりのダメージであり、鬼は血を吐いた。


その隙に、シモンが真っ先に鬼の首を狙う。


「ジャン! 危ない!」


レイが突然声をあげた。


ジャンの後ろには、もう一体の鬼。


鬼は腕を振り上げており、鬼の爪は既にジャンの真上にあった。


「よけろォーーーー!」

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