7話:上級クエスト

いきなり、色んなことがあってあたしは正直戸惑っていた。


お金は尽きて飢え死にしかける。


変な三人組に助けられる。


────まあ、一人を除けば十分まともなんだけど。


おまけにクエストを一緒に受けることになる。


クエストの事は全く知らなかったが、大体どういうものなのか予測はついた。


念のためレイに確認すると、どうやら『一般人が冒険者に出す依頼』だそうだ。達成すればもちろん、働きに見合った報酬が貰える。


でも、あまり興味が湧かないわ。


それに、あたしには世界を救う使命というものがある。


本当はこんなことしてる場合じゃないのにな。······なんて事を正直思うけど。ここで死んでしまっては元も子もない。


しかも······


────原因が餓死! 先代が聞いて苦笑いするわ! 鏡ノ桜家として恥ずかしすぎる。


「······どうしたんだ? そんなに眉間にしわ寄せたらかわいい顔が台無しだぜ」


若干の下心を交えつつ、深刻そうに考え込むシモンをシドが心配した。


「あっ、アンタには関係ないことよ」


「つれねぇなぁ、ほら、着いたぞ」


「······酒場?」


四人らは大きな酒場の前で足を止めた。中からは、ワイワイと賑わう声が聞こえてくる。


「ここは冒険者が最も多く集まる酒場だ。依頼掲示板もここにあるぜ!」


ジャンはそう言うと、酒場の方に先に入っていった。続けてレイとシドも入っていく。


シモンも慌ててついて行った。


「あら! この間の! いらっしゃい」


ブロンドの髪の酒場娘がシドとジャンを見ると、笑顔を浮かべて迎えた。


「あら? 増えてるわね〜。クール系の男の子と、あららかわいい!」


酒場娘は彼らの後ろにいるシモンを見つけると、目を輝かせた。


「小さくてかわいいわね〜!」


「なっ······! こっ、子供じゃないわよ!」


酒場娘に子供扱いを受けたシモンは、顔を真っ赤にしてあわてふためいた。酒場娘はシモンの腰に提げてある刀を見ると少し驚き申し訳なさそうな顔をした。


「ごめんなさいね〜、あなたも冒険者だったのね。で、あなた達今日はどうしたのかしら? クエスト?」


どうやら彼女は、彼らがクエスト目的だということを察したようだ。


昼間に訪れる冒険者は大抵、クエストを受けに来るからだ。特に朝方が多い。


「おう! 鬼の魔物のやつがあるって聞いたもんでよ」


ジャンはどこか得意げに言う。


しかし、酒場娘の表情が少し曇った。


「あれはだめよ」


「······どうしてだ?」


意外な返答に疑問を抱いたレイは、彼女に質問する。その答えははっきりとしたものだった。


「そのクエストはね、上級冒険者協会に認定された人しか受けられないの。あなた達、認定証は持ってる?」


「上級冒険者協会?」


真っ先にシモンが聞き返す。


「お前そんな事も知らないのか!?」


「し、知らないものは知らないわよ······」


シドが驚くが、シモンは冒険者というものをよほど知らないようだ。


「シュタルカーという熟練の冒険者が集まる町があるんだ。そこでは上級冒険者協会企画の、上級冒険者試験というものがある。認定証はそれに合格すれば取得できる。上級冒険者は、その試験によってD、C、B、A、S、SS級に区別される」


「つまり、そのクエストは上級冒険者しか受けられないということだ」


レイの説明に、シドが補足した。


シモンは軽く相槌を打っており、彼らの説明に納得した様子であった。


「そういう事なの。ごめんなさいね」


酒場娘は申し訳なさそうに謝った。だが、四人の表情はまだ煮え切らない表情をしている。


「では、彼女を知ってるか?」


レイはシモンを見ながら、話を切り出した。酒場娘はきょとんとしている。


「言い方を変える。薄紅の小人戦姫ローザクラインを知ってるか?」


レイのその言葉に、酒場娘は驚いたように目を見開いた。


「うそ! この子が!?」


「え、ちょっとレイいきなり何。確かにあたしはそう呼ばれてるみたいだけど······」


突然通り名で言われたシモンは驚いていた。


「でも、これはルールだし······」


酒場娘が譲ることはなかった。上級クエストは冒険者を死に追いやる危険性があるため、絶対に譲らなかった。


四人は流石に諦めかけ始めた頃、不意に後ろから素っ頓狂な声がかかる。


「お前ラァ、その話聞かしてくれねぇカァ?」


振り返ると、そこには白髪の筋肉質なオジサンが立っていた。



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