8話:マッドスネーク
「お前ラァ、その話聞かしてくれねぇカァ?」
後ろへ流した白髪と、白い顎髭。タンクトップに長ズボンというラフな格好からはみ出た筋肉は、かなり鍛えられているようである。
ゴツい見た目とは裏腹、素っ頓狂な声は人々の笑いのツボを呼び覚ます要素があった。
「...ぶっ!!」
シドが始めに吹き出し、続いてジャンも笑いを堪えている。その様子を見たシモンは、「失礼でしょ!」と二人を睨みつけた。
三人の微妙な空気を破ったのは、レイの声だった。
「僕達に何か」
白髭男はレイを、足のつま先から頭のてっぺんにかけて、なぞるように見る。そして、レイに目を合わせ、ニッと笑った。
「...細男で頼りないと思ったガァ、冒険者は見た目じゃなイ。こう見えてモォ、俺は『強い者』を見極められる自信がアル」
そういうと、彼は満面の笑みを浮かべた。どうやら、シドとジャンに声を笑われたことは気にしていないようだ。
「マッドスネークさん、あなたがこのクエストの依頼主ね。あなたからも、彼らを止めるよう言って欲しいの」
酒場娘は断固として譲らず、マッドスネークと呼ばれる白髭男に頼み込んだ。
「悪いがジョウチャン。俺はァ、逆の事を言おうとしてたんだヨォ」
マッドスネークはレイ達に向き直ると、先程までの陽気な笑みはなく、真剣な目つきをしていた。
「お前らの話、実は最初っから聞いてたんダ。ひよっこらが調子こいて、そのクエストを受けようとしてたのかと最初は思っちまったヨ。ダガ、そのちっちゃい女のコの正体が分かリ、俺の気が変わっタァ。コイツらはァただもんじゃあねぇってナ、俺の中で何かが囁いタ!」
「そこでダ!!!」
マッドスネークは、酒場中に響き渡るほど大声で叫んだ。距離の近い酒場娘は、真っ先に耳を塞いだ。もはや、マッドスネークとレイ達は酒場の客の注目の的となっている。
「お前達にィ、このクエストを受ける事を許可スル!がしかしィ!条件付きダ。一回、お前らの探索に俺が同行してェ実力をはかル!場合によっては強制破棄してもらウ。問題アルカ!?」
マッドスネークは、クエストを受ける以外の選択肢を与えないような、凄まじい声で言った。
酒場娘はカウンターを叩き、身を乗り出した。
「問題大ありよ!だいたいあなた一般人よね、尚更ダメよ!彼らがあなたをかばって戦ったら、全滅してしまうわ!」
「ジョウチャン、これでもカァ?」
マッドスネークは、酒場娘の怒りをものともせず、ポケットから何かを取り出す。
クシャクシャに丸められた紙。マッドスネークはそれを広げようとしたが、大きな手ではなかなか上手くいかず、そのまま酒場娘に渡した。
「な、何よ...」
酒場娘はしかめっ面で受け取り、紙を器用に広げる。すると、顔つきが大きく変化した。
「これは...、認定証!しかも、S級冒険者!?あなたは、いったい...」
「俺はァ、武器職人のマッドスネーク。娘のレベッカと一緒に、移動販売のよろず屋をやっていル!『レベッカ工房』をよろしくナ!そのクエストを出したのも、素材が欲しいばかりにダ。それに新米冒険者への被害も抑えられると思ってナ。アア、S級冒険者の話だったナ。俺はよろず屋をする前、冒険者をちょいとやってたんダ」
「あなた......娘がいるの!?」
「そこじゃない!」
酒場娘の驚くところがズレていることに、シモンはツッコミを入れる。
「そういうこったァ!お前らァ、明日の朝九時に東門で待ってるからなァ!絶対こいヨ!そろそろ新商品出さないと赤字...ジャナクテ、他の新米冒険者が危ないからナー!」
マッドスネークはそう言うと、酒場娘から認定証を返してもらい、入口から出ていく。
酒場は妙に静かになり、酒場娘はどっと疲れが出たかのように深いため息をついた。そして、すぐに背を伸ばし、何か決意がついたかのような表情になる。
「赤字だって。全くしょうがないわね。行ってあげてね」
酒場娘は依頼掲示板から一際目立つ紙を外し、レイに渡した。
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