4話:共闘
白い衣。その姿を見た瞬間に、弓の青年の顔つきが和らいだ。
「あぁ······助かった······」
「もう安心していいぜ、すぐ済むからな」
金髪の青年は手馴れた手つきで布を使い、止血していく。そして、傷の上に両手をかざす。
手から白い暖かみのある光が発生し、傷が治り始める。
「シド危ない!」
赤髪の青年が叫んだ瞬間、金髪の青年の方に太い枝が飛んできた。
「!」
────ッカン!
金髪の青年は、短剣で素早く枝を弾いた。
「あぶね······おい! ジャンとその······黒髪野郎! 前衛しっかりしろ!」
「すまねー!」
赤髪の青年は片手で謝るポーズをとる。
「やるぞ! えっと······黒髪野郎!」
赤髪の青年はレイにそう言う。
「レイだ」
鬼の鋭い爪が襲いかかってくる。レイは攻撃を横流し、距離をとった。
「俺の名前はジャン・ホルト! よろしくな!」
ジャンはそう言うと、鬼の後ろへ回り込む。鬼が彼の方に振り向き、レイに背を向ける形となる。その瞬間を逃さず、術式を発動させる。
放たれた大火球は、鬼の背中へと直撃した。鬼の動きが鈍くなる。
ジャンはその隙を逃さず、鬼の真上へと大きく飛び上がった。
「うおおお!」
体重任せに、鬼の真上から剣を振り下ろした。
────グォォォォォゥオオオオオオオ!
断末魔の叫びは森中に響き渡るほどであった。鬼の巨体があっけなく崩れていく。
ジャンはひと息吹くとすぐに、レイの元へ目を輝かせて寄ってくる。
「さっきの火のワザ、すげーな! ナイスだったよ!」
レイは弓の青年の方へ見やる。ジャンもつられてそちらを見る。
弓の青年の傷は回復し、鬼の倒れた姿をぼうっと眺めている。
草影のそばから、先程の青年が飛び出してきた。
「アイザック! よかったぁ······」
弓の青年に抱きつき、子供のように泣き出した。
「一件落着だな」
腕組みをした金髪の青年は、二人を見てそう言った。
弓の青年は立ち上がり、三人に頭を下げる。慌てて涙をぬぐった青年も続けて頭を下げる。
「本当に助かった、ありがとう。後でお礼をしたいところだが、あいにく金欠で。これで満足してくれないか」
弓の青年は布袋をレイに渡した。
「今日の収穫物だ。ささやかなものですまない」
レイは、袋の中身も見ずに弓の青年に返した。
「なっ······」
「礼には及ばない。鬼の魔物からはおそらく珍しい素材がとれる。それで十分だ」
「金欠の奴から貰いたくねーよ」
金髪の青年が補足をするように言う。弓の青年は驚いた顔をするばかりである。
「あんたら、素材が欲しくないのか?」
「その辺の連中とは一緒にすんなよ、俺達が狙うのはオオモノだからな! なっ!」
金髪の青年はレイに肩を組む。レイはしばらく放置していたが、ゆっくりと彼の腕を肩から剥がし、弱々しい青年に問う。
「そういえばお前から、仲間は三人と聞いていたが。もう一人はどうした」
「もしかして、さっき逃げてった赤っぽい鎧の奴か?」
ジャンが話に割り込む。
「間違いない。町の方に逃げたみたいだな······」
弓の青年は少し呆れた顔で返事をした。
「とりあえず町の方に戻る。本当にありがとう!」
弓の青年は一例すると、弱々しい青年を連れて三人の前から去っていった。「じゃーなー」と金髪の青年が手を振る。
ジャンがレイの方に視線を向けた。
「そういえば、コイツのこと紹介してなかったね。やぶ医術師のシド・ルーファシス」
「やぶ医術師なのか」
レイはシドを見て、納得した。金髪にピアス、軽薄そうなたれ目。間違いない。
「いやいや、違うってば! こう見えてまともな医術師だし、ちゃんと免許持ってるからな。見た目で決めつけるなよ」
「そうか」
「お前、ほんとに信じてる······?」
医術師と剣士。先程の戦いで、二人が来なければ手こずっただろう。レイは傷薬は持っているが、戦闘中治療する暇があるはずはなかった。
「シド、ちょっとちょっと」
ジャンがシを呼び、ヒソヒソと話始める。やがて、二人はレイに向き直る。
「さっきの大火球、俺も見てたんだ。それを見込んでの話がある。ここでもなんだから、町の方で昼メシ食いながらでも。奢るからさ!」
「そうそう!」
二人はレイに迫る。どうしても話がしたいようだ。レイは表情を変えずに答える。
「分かった。とりあえず鬼から素材をとってからでいいか?」
倒れた鬼の方へ近寄る。動く気配は全くない。
「おう、俺も手伝うぜ」
「え、解体するの······?」
グロテスクなものが苦手なのか、ジャンは自身の手で両目を覆い隠した。
* * *
シドとジャンの行きつけの、町外れの酒場。昼間だが既に賑わっており、酒を呑む者もいた。
三人が入ってくると、向かい側に座っている若い女性陣が「あの三人けっこうイケてない?」と話し始めた。彼女らに対し、シドがすかさずウインクをすると、キャーキャーと盛り上がった。ジャンがシドを細目で睨み、口を尖らせる。
「つい昨日ナンパは控えるって言ったのに、まったく······」
三人は、入り口近くの席につく。
「突然なんだけど······」
シドが改まってレイに向き合う。
「お前、俺達と共に行動しないか?」
レイはあながち話の内容に予想がついていたため、決断は既にしていた。
「それは、僕も考えていたところだ」
良い返事に、シドとジャンは目を輝かせる。
「ほんとか! いやー、マジで助かるよ。コイツ、前衛が守りきれないことが多くてさ、しょっちゅう俺の方に攻撃が飛んでくるんだ」
シドは薄目でジャンを睨む。それにジャンはむっとしたようである。
「仕方無いだろ、全部の攻撃を弾き返せるワケじゃないんだし。それにシド、けっこう強いじゃんか。すばしっこいし」
ジャンはそれだけ言うと、レイに向き直る。
「とにかく、俺達は戦力不足なんだよ。雑魚なら倒せるんだけど、さっきの鬼みたいな強い敵と戦う時が問題なんだ。レイ、君は主力にもなるし、援護もできるよね?」
レイは、二人の状況を理解した。
「出来る限りのことはやろう」
シドはレイに握手を求める。レイはそれに応じ、続けてジャンと握手をする。
「よろしく」
「ああ」
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