7



 黒い風が、空を駆け抜けた。


「そろそろ終わりにするか?」


 その言葉は冷たい笑みで消える。

 鳥達はその風の冷たさに、脅えた。


 









 夢。


 一番最初の頃の記憶を彼は見ていた。

 右手には一振りの剣。左手にはか細い少女の手が握られている。


 この剣にかけて。

 守るべきものがココにある。


 








 夢?

 萌はそのぬくもりに全てを委ねた。


 安心して、眠りに落ちる。彼はいつも傍にいてくれる。怖がる事は何もない。恐れる事は何もない。


 夢の中で夢を見る。何もかも安心のはずなのに。そうあの戦はおきず、父と母は健在で、彼女の騎士が全てを守ってくれている。でも欠落しているもの。


(なに?)


 そ──

 言葉が喉元まででている。夢はそれを拒んだ。


 ──そ──う──い──ち?


 炎。その言葉を蝕んでいく。過去も未来も今ある場所も何もかも。萌の存在そのものを燃やしていく。


 (イヤ、イヤ、イヤ!)


 闇が残る。灰が舞う。漆黒が降る。 

 黒い手が萌に手招きした。


 オイデ。

 オイデ。

 オイデ。


 ぬっと灰から生まれた人影が、萌の目の前にすくっと立ち、その顎を掴む。黒い目が萌を冷たく見据える。その唇が萌の口を奪う。抵抗できず痺れるように倒れる。灰から生まれた男は、萌の意志とは無関係にその体を愛撫していく。闇は終わらない。萌は焼かれた名前を何度も叫んだ。その声すら闇に奪われ、そして灰になる。


 









 夢??


 聡一は唖然と、城が燃えるのを目の当たりにしていた。萌が話してくれた夢の通りに、一字一句違わずに、事態は進んでゆく。


 炎。燃える。全てを焼き尽くす。


 最後の最後まで、呆然とそれを見た。


 全てを焼くその炎が、最後の最後を焼くまで。


 萌の体を炎が焼いた。その瞬間、聡一の体の中の何かが弾けた。ヤメロ。萌の体を抱き寄せる。流れる血。ヤメロ。萌。ヤメロ、オマエハココデサマヨエ。萌、大丈夫か? レキシニクルシメ。シネナイコトヲクルシメ。萌、萌、萌! ホノオニヤカレテシンデシマエ。萌! 目を開けろ!! 萌!! カノジョニフレルナ。カノジョニアイサレルノハボクダケダ。フレルナ。フレルナ、フレルナフレルナ――萌!


 









 窓から見えたのは幻影でも夢でもない──目を覚ました聡一の視界に飛び込んだのは、炎に包まれた萌の家だった。


 

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