恋の予感?
今年もあの季節がやってきた。なぜだかリア充発生率が爆発的に増える恋の祭典――そう文化祭。
去年の文化祭はネオぼっちを遺憾無く発揮して1人で看板ぶら下げながらまわってたよ。そうすれば宣伝だと思われて友達いないと思われなくて済むから……
「放課後文化祭委員は会議があります」
めんどくさい。なんで俺がカップル成立のお手伝いをしなければならないんだ。まあリア充と話すチャンスが出来て嬉しいので良しとしよう。
俺は4月の委員会決めで新聞委員に手を挙げたのだ。集まりなどはなく週1回職員室まで新聞を取りに行くだけの簡単な仕事内容。その上あまり人気がない。
それなのに手を上げる奴がいた。そして俺はジャンケンで負け、気づいたら文化祭委員になっていた。神のいたづらか。
「これより文化祭委員の会議を始めます」
しまった、神宮寺も委員だったとは。すごい嬉しいんだけど話が続かないので辛いです。いや、これは神が俺に与えたもうたリア充になる最高の機会だ。神様やっと動いてくれたか。これが神の見えざる手というやつか。違うな。
集まった顔ぶれを確認する。男子は俺と神宮寺、女子は橘さん、遠藤さん、
遠藤さんは橘さん率いるリア充グループの一人だ。恋草はよく知らんけど誰とでも仲のいい明るいイメージの子だ。たまに話しかけてくれたりもする。
神宮寺の司会のもと打ち合わせは円滑に進んでいく。やっぱりコイツは何やらせても出来るな。
「黒っちはどう思う?」
来た。変なミスを避けるために出てきた意見に相槌だけで答え続けていた俺だが、それを見逃すような神宮寺では無かった。
「売る担当は五、六人でいいと思うけど」
「でもそれだと少し多いから四人くらいがいいと思うんだけどどうかな」
返答早! 最初から決めてたなら聞くなよ。周りの女子達も新宮寺の意見にうなづいている。これだから発言したくねえんだよ。これだからリア充はやなんだよ。当の本人は悪気はないんだろうけど。
「誰かポスターの用紙を職員室に貰ってきてくれないかな」
「俺が行くよ」
ここに居ると気まずいだけだからな。仕事という大義名分で抜け出せるのだから。その上印象も良い。
すると座っていた恋草が手を挙げる。
「私も行くよ」
「了解。じゃあこっちで少し進めているけど良いかな?」
「うん」
待て待て待て、なぜお前が来るんだ。気まずいから抜けたのに意味無いじゃないか。
教室を出ると無言で恋草に付いていく。先に取りに行くと言ったのは俺なのだが人に付いて行くことに慣れているので後ろを歩いていく。
恋草は歩くスピードを俺に合わせてきた。
「実はさ、私――」
来たああああ!告白!
「居づらかったんだよね」
「え?」
まあ告白じゃないことは知ってたんですけどね。全然期待なんかしてねーから。ホントだし!
「やっぱり私ダメなんだって思わされちゃって」
弱いところを見られたくないのか目は床を向いている。
「失礼かもだけど黒川も私と同じだよね」
そう言うと立ち止まり、今度はハッキリと俺の目を見つめている。流石に見つめられると恥ずかしいので目を逸らす。
「誰とでも同じくらい話せて、それでいて本当は居場所がない」
首筋が痺れるのを感じる。初めて仲間を見つけたという興奮とその悲痛な顔に感じる哀愁、その二つが混ざり合い胸を揺する。
俺は無言でうなづく。
「恋草も同じだったのか」
「黒川がどうやって乗り切ってきたか聞きたいんだ」
乗り切れてないからこうなっているわけなんだが……
「後で話そうぜ」
俺にしては随分と積極的だ。普段は女子と話すことすら緊張するのに今は言葉が次から次へと出てくる。それに、これは恋の始まりでは? と舐めてたことすら思い浮かぶ。
その日の夜、氷河期だった俺のLINEに春が訪れた。
『明日の朝会わない?』
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