ネオぼっち

『好きな人同士でグループを組む』

これ考えたやつ出てこい。

好きな人がいない人はどうすればいいんですか!


無言の圧力。

突き刺さる視線のレーザービーム。

生徒という名の観衆は好奇の眼差しで公開処刑を取り囲む。そして、先生という名の処刑人が手を差しのべることによって刑が執行される。


正確に言えば俺にも組みたい人はいるのだ。

ただ、そういう人達は俺なんか見向きもしない。

おかげで俺はよく独りでいる。もちろん独りでも良いと言う奴もいるがそれはぼっちの種類が違うだけだ。


ぼっち、それは――


ラノベでは俺TUEEEEと並ぶ、最強の主人公要素。

そして、必ずハーレム。

現実ではそんなことは有り得ないが、好きで一人でいる奴や本当は皆といたい奴など様々だ。

そして、俺は『ネオぼっち』だ。


ネオぼっち、それは――


どのカースト層にも属さない、 どのカースト層とも普通に話せる。

故に特定の友達がいない。但し、話せば話せるので一見ぼっちに見えない新世代ぼっちである。


実は特定の仲間がいないというのは致命傷だ。人間、グループを組み生活するものだ。ましてや学生なんてグループ分け大好きじゃん。

そのグループに属さないものこそがあぶれ者。カーストが上位なら『浮いてるやつ』、カーストが下位なら『ぼっち』。そして学校のヒエラルキーに属さない存在こそが『ネオぼっち』となる。

まあ、俺が勝手に名付けんだけどね……



「なあ、どうしたら友達出来ると思う? 」

「お前まださっきの事気にしてんのか」

「そりゃ気にするだろうよ」

俺は先刻の授業でのグループ分けに溢れた。

「まだ、一ヶ月ちょっとしか立ってねぇんだからよ。ポジティブシンキン! 」

俺の嘆きを楽しそうに聞いてい体の大きな男子生徒は、元島 岳。

昨年も同じクラスで唯一俺が話せるである。

2年に上がってからはや1ヶ月。

一方はカーストトップ層とも仲が良く、他方はぼっちに学校生活を歩んでいる。



「けど、岳もあのグループだろ」

俺は軽く皮肉を込めて言う。

「誘われたから断われなくてよ」

ますます、何で最後まで孤立していた俺とつるんでいるのか分からん。

まさか俺の事好きなのか? そんな事は無いな。


屋上へと続く階段は埃まみれで昼食の場所に選ぶやつはいない。

なぜこんな場所で食べるかだって?

屋上へ扉のの鍵がかかっているからだよ。

中学生の時に読んだラノベの屋上での昼食に憧れた俺を待っていたのは、屋上の出入り禁止の校則だった。

ラノベとはあくまでフィクション。主人公の都合のいいように作られているのだと知った瞬間だった。


「現実は甘くない」

「どうした、急に」

独り言のつもりが聞かれていたようだ。いと恥ずかし。

「まあ、そんな心配すんな。俺が――」

最後の言葉は予鈴のチャイムでかき消された。

岳は立ち上がるとニカッと白い歯を見せて足早に階段を降りていく。

その笑顔はどこか歪に感じられ、 岳の去った廊下には昼休みの終わりをつげるチャイムだけが鳴り響いていた。



「あぢィ」

時は初夏。今日も学校の奴隷たちは朝早くの登校を強要されている。

林立するビルの隙間をぬう通学路には陽炎が立ち込め、ビル風が夏の暑さを纏って襲いかかる。

俺の通う淀木高等学校は駅から遠く、一時間近く歩く。そして電車の時間も含めると家から二時間近く掛かる。毎度学校にたどり着く頃には汗だくになっている。


夏だ、海だ、ぼっちだ!

もちろん、夏だからといってムフフなイベントが起こるわけもない。今年もゲームの水着イベントを周回するだけだな。あと部活。

そんな事を考えていると、少し前にいる男女の話が聞こえてきた。

「夏祭りどうしようか」

「着物きたーい」

「じゃあ、忙しいけど今年も行こうか」

「きゃー、徹くん優しいー」

朝からイチャつくな。

しかもブサイクと美女のカップル。

最近流行りの美女と野獣のカップルってやつか。つーか、野獣のどこが良いんだよ。俺の方が良いだろ。油断してると睡眠薬入れられるぞ!

俺は呪詛を頭の中で復唱しながら二人の横を足早に通り越していった。



おはようの弾幕が飛び交う教室に入ると、俺の机の周りに女子が沢山いた。

「こ、これは……! 」

モテ期というやつか?

『黒川君カッコイイ、机でいいからくっついていたい』

『ずるい、私のよ』

『私のよ! 』


無論、そんな事は無い。今のは俺の妄想なので忘れてください。

原因は俺の前の席にある。

神宮寺 晴貴はるき

クラスカーストのトップに君臨する男だ。

バスケ部のエース。頭脳明晰、運動神経抜群、イケメンでコミュ力も高い万能人である。つまり俺の敵。そもそも同じステージに立ってすらいねぇが……

「おはよう」

女子にどいて下さい、とも言えずに立ち尽くしていると神宮寺が声をかけてきた。

「お、おほぅ」

イケメンの号令で女子たちは俺の席から離れ始める。

いや、もっと座っててもいいんだぞ。 というか、もっと座ってください。

「黒っちさ、週末課題終わった? 」

神宮寺が『黒っち』と呼び始めたせいでクラスの大半が『黒っち』と呼ぶようになってしまった。別に嬉しくなんかないんだからね!

「う、うん。2時までやって終わらせた」

「え? そんなやってたのかよ。強っ!」

毎度思うんだがなぜリア充はこんなにグイグイ来れるのだろうか。

オラはコミュ障だから絶対ムリだお。

もちろん、ネオぼっちは伊達じゃない。

話し掛けられれば一応返す。これで一見普通に馴染めているように見える。

「……」

「……」

気まづい。話すことがない。

「じゃ、少し寝るわ」

「おう、おやすみ」

しまったァー、折角のチャンスを不意にしたー! リア充に近づく俺の夢が……

これだからコミュ障は駄目なんだな。朝から経験値、ゲットだぜ。

眠く無いので寝るのを諦めイヤホンを付けてゲーム体制に入る。

毎日学校ではゲーム。話しかけられれば話せるが自分からは話せない。本当はもっと話したいのに!ネオぼっちは語りたい。


突然扉が開き、熊野先生が巨体を揺らしながら入ってくる。

「おはよう諸君。突然だが席替えをしようと思う」








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