第一話五部 不信
「大丈夫ですか?」
通りかかったエルフの少女はナックスに向かって問いかけた。
「怖い……近づかないで……」
ナックスは誰も信用できなくなっていた。
「こんなことなら、あそこの人狼の一人として生きればよかった」
ナックスは涙した。
寂しさと人に対する恐怖が彼を何よりも小さくしていた。
「怖いことがあったのですね……その傷、銀の武器でやられましたか……?」
ナックスはこくりと頷いた。
「そうですか、あなたからは邪悪な匂いがしません」
鼻をひくりとさせてエルフの少女は言った。
「名前まだでしたね、私はイリアっていいます」
ナックスの心は少しだけ開いた。
「ナックス……人が怖くなったんだ……魔人も人間も」
ナックスは今までのことを話した。
「それでもあなたは、復讐をしないのですね」
イリアは少し微笑んだ。
「わからない、怖いとかならわかるけど……やり返したりなんかしたいと思ったことがない」
ナックスはその点において、恨みよりも恐怖を覚えるタイプであった。
「人狼なのに子犬のような子……」
イリアはナックスを抱いた。
「……お姉ちゃん……?なにしてるの?」
ナックスは恥ずかしい気持ちでいっぱいになったが、それよりも嬉しかった。
「私には守りたいと思えるものも、目的も、夢もないんです」
イリアは言った。
「だけど、あなたを見ていると何かが解けていく……」
ナックスにはわからなかった。
ただ少年はイリアがそばにいてくれて嬉しかったのだ。
「私のそばにいてくれませんか?」
イリアはにこりと笑った。
「いいけど、僕でいいの?」
ナックスは内心安心していた。
イリアと離れるのが恐怖であった。
それくらい二人は何か縁で結ばれていたのである。
イリアとナックスは数時間森でゆっくりと過ごしていた。
「イリアは帰らないといけない場所ないの?」
イリアはナックスより年上とはいえ少女だった。
「そうですね、今はない、でも大丈夫、なんとかなるから」
今、イリアとナックスの放浪の旅路が始まった。
ディザスターチルドレン @rickhm
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