パート6:2000文字_トラック運転手は異世界転生願望者にキレているようです
異世界行く人ってとりあえず前座でトラックに轢かれてるじゃん。
もうね、トラックの運転手が当たり屋ばっかりじゃねえかってメッチャブチ切れていたよ。
今回は、トラック運転手を主人公にして、異世界転生したがる人に対して説教をすることにしたよ。
尺がないから2000文字で簡潔にね。
▼下記から本編(2000文字)
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俺はトラックの運転手をしている坂上という者だ。
最近、重要な悩みがある。
それは、やたら高校二年生でニートっぽい中肉中背の少年が、俺のトラックの前に出くわしてくることだ。
ここ一、二年……どういうことだか、数日に一度は必ず目の前に色んな高校二年生っぽいニートが沸いて出るように出現する。
しかも決まってなんか飛び出してきた女の子を救おうと身代わりになって俺のトラックの前に立ち尽くすパターン。
なんやかんやで事故を負わせたら、風評的に俺が悪者になってしまうやつ。
幼い子供が交通のルールを知らずに飛び出してしまうことは決してゼロとは言えないし、むしろそれに気づいて後追いをする勇気ある行動は賞賛の域だ。
でもな、そういう誰かを急に救ってあげることが出来る本当の勇者っていうのは、自分も最終的に事故に遭わないで上手に身体を回避させるくらいの人間じゃなきゃ駄目だと思う。
結局は女の子の代わりに高校二年生っぽいニートが死んじまってるわけだし、むしろ助けられた側的には罪悪感が残るパターンになるんだぜ。
割と微妙な空気というか、誰をどう責めたら良いのか濁されるやつ。
困るんだよなぁ本当に。
いや、意図的じゃないっていうのは様々なケースで実体験した俺が一番よく分かっている。
でもな……さすがに俺だって常時マックスで注意を払い切れているわけじゃないし、ましてや毎回事故を回避するためにトラックのハンドルを大きく切って田んぼに落下するのはたくさんなんだ。
トラックの修理費用が発生する上に、洗浄代だってバカにならない。
しかも職場で毎回田んぼに突っ込むお馬鹿キャラみたいな視線で見られてしまい、踏んだり蹴ったり。
一体、運送業界に何が起きているんだ……。
気になった俺は、数日後にトラックの前に立ち尽くした一人の高校二年生っぽいニートを捕まえて質問してみることにした。
キョドりながらでよく分からない発言を繰り返していたが、彼の言葉を要約するとこうだ。
現在の高校生達は現実の世界に嫌気を指していて、この世から去りたいという願望を持っている。
しかし、ただ死んで楽になりたいというわけではなく、事故をきっかけにとある場所に行きたいという目的があるらしい。
それが、異世界という場所だ。
なんでも、仕事をしなくても都合よく生活できるし、若くて綺麗な女の子たちに無条件にモテまくった挙句、少し努力をするだけで多くの人々からたくさんの賞賛を得られやすいという環境で、かつ目的意識を持たずとも、ズルズルと長らく行き続けられるという場所らしい。
――そんな都合の良い宗教は聞いたことが無い。
どんな薬を摂取すれば、そんなに出来栄えの良い世界観を想像することが出来るんだ。
俺は異世界という場所に疑問を抱きつつも、本質である俺の疑問を思い出し、それを彼にぶつけることにした。
そう、どうしてトラックに立ちはだかるのか――と。
彼はこう返答した。
トラックは異世界に行くための重要なキーなのだ、と。
事情は分からんが、どうやらトラック=異世界転生という情報は現在の若者たちにとってのメジャーな情報源らしい。
しかし――
異世界とやらに行きたいからと言っても、むやみに人を死なせるわけにはいかない。
学校という窮屈で閉塞的な環境に嫌気をさすこともあるだろうが、それでも、せっかくこの世界に生まれてきたのだから、この世界の環境下なりに、自分の楽しいや幸せを求め続けても良いのではないか?
自分の足で世界を歩いたことはあるか?
世の中の様々な人と話をしたことはあるか?
お前の閉塞的な世界が全てだと感じてしまうのは、お前が自分の殻を自ら突き破ろうとしない弱さがあるのかもしれん。
世界をより多く知り、多くの体験をした者こそが、自らの望む自由を選択できる権利にある。
お前はまだ若い。
世界を知る前に、自分の可能性に気づく前に異世界とやらに行ってしまうのは、いささか時期尚早と言えないだろうか?
まだこの世界に対する可能性は残っているのではないか?
――可能性、若いというだけで無限の力を引き出す希望がある。
歩みだせ青年よ、自らの足で、新たなる可能性を切り開け!
俺がそう強く説得をすると、高校二年生っぽいニートは言葉に共感できたのか、涙を流して感動していた。
そして『頑張ってみるよ』と力強く言葉を残し、力いっぱい高校二年生っぽいニートは走り出していった。
それでいい……君は未来を見続けていれば。
俺はそう心の中でつぶやいて、一本のタバコに火をつけた。
彼とは二度と会うことは無いだろうが、何かの縁だ――ぜひ幸せになって欲しい。
そう願っていたのだが――
ドドーンっ!!
俺の願いも悲しく、かなりの不運に見舞われた高校二年生っぽいニートは、直径一メートルほどの隕石が直撃してしまい、即死となってしまった。
あぁ……あわよくば、彼の求めた異世界とやらに行けていることを、俺はただ願うだけになってしまったようだ。
おわり
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