パート4:2000文字_異世界に盗賊がいる理由

 異世界って、なんか普通に盗賊いんじゃん。

 武器持ってて程々に強いんだし、それでなんか仕事貰えばいいじゃんって思うことが多々あるけど、もしかしたらこれから書く2000文字のような理由でダークサイドに落ちてしまったのかもしれないね。


▼下記から本編(2000文字)

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「ひゃっはぁ〜! なんか主人公っぽい男に捕まっちまったぜぇ〜!」

「こら騒ぐんじゃない、盗賊め」


 主人公はロープで縛られた男を連れ、地下の尋問室へと移動している。

 これから盗賊を痛めつけ、残りの仲間がどこにいるのか取り調べをするのだ。


「どうして盗賊になったんだ。捕まったらひどい目にあうのは目に見えていただろう……」

「ひゃはっ! それは人を襲えば楽して金と食糧が……」

「何を言っている?」

「ひゃは?」


「この世界ではギルドでミッションを受注し、無事に仕事をこなせば報酬をもらえる都合のいい設定があるだろうが! なんで殺してもいいと許可されている魔物じゃなくて、傷つけたら重罪になる人を狙うんだ」

「そ、それは……オレ様は綺麗事が大嫌いで……」

「魔物を殺すことだって、広く捉えれば生物殺しだからね。残虐なことをしている分、人を殺すことと同意義なことをしているからね」

「確かに……」


「猟奇的な野生本能を持っていたとしても、魔物を殺してストレス発散だって出来るだろう。更にキレイな金を貰えて、人からも賞賛を受ける仕事だっていうのに、何が不満なんだ?」

「ま、魔物じゃなくて、人を殺したいという衝動がオレ様の中に……」

「……人を殺めた殺人者を移送する仕事は俺の仕事だ。何十人と殺人者を地下牢へとぶち込んできた。奴らを尋問した時、なんと供述しているか知ってるか……?」

「…………?」

「『誰でも良かった』と発言するんだ」

「……っ!」


「つまり、結果として人を傷つけてしまったとしても、根本の目的意識としては必ずしも人を傷つけたかったという結論には至らないんだ」

「ひゃ、ひゃはぁ〜!」

「更に貴様は、人からお金と食糧を奪いたいという明確な目的まで存在している。無差別に人を傷つけるような衝動的な殺人者じゃないことが証明できる……」

「……ぐ、ぐぬぬ」

「金と家と安定した生活があれば、貴様には、まともな人間として普通に生活できる素質があるということだ……!」

「ひゃはぁぁぁ……!」


「一つ話をしよう。人は生命活動が低下している時、まず最初にどんな本能が疼くと思う?」

「し、知らねえよそんなもん」

「食事をすることだ」

「……っ!」


「人の生命活動が低下する理由は二つ……病気、そして空腹だ。時間が経つにつれて、人はハラが減ってくる。何か食わないと死んでしまう。何かを食べなくてはと、危機を最初に覚えるんだ」

「……オレ様もよく空腹を凌いでいたひゃは」


「貴様は何を食べていた? 人を殺したいという衝動があるなら、人肉を食すところだろうが……人から奪った肉や野菜を食べていたんだろう?」

「…………」

「随分とまともな人間じゃないか。なぜ盗賊をしていた……?」

「ひゃ、ひゃひゃひゃ……」


「言葉が出ない……か。分かるぞ……俺も逆の立場だったら絶対に言葉が詰まる自信がある。だって、この世界って、戦うだけでなんかお金もらえて生活できる都合のいい設定だもんな。あえて盗賊って仕事を選ぶ必要性なんて無いもんな」

「……ひゃひぃぃぃ!」


「……数年前、闇市で盗賊の求人誌がばらまかれていたのを知っている。明るくアットホームな職場で、先輩がOJTで指導、成功報酬を毎月の給料に乗せて、フレックスタイム制だとか胡散臭い言葉が羅列したクソみたいな求人誌をな」

「そ、それは……」


「どうせ甘い言葉に言葉に引っかかったんだろう。実際に働いてみて、なんか書いていることと違うじゃんとか、先輩がドンドン辞めていくじゃんとか、少しずつ不満を感じるような出来事が続いて、ほんのり不安を抱きながら仕事をしていたんだろう?」

「……何故それを! ひゃは」


「お前の仕事にはどこか雑さを感じていたんだ。成功報酬なんて大したことないから、適当にカウント稼いでりゃいいやって香りがプンプンしたぜ」

「……随分と具体的に分析しやがったな」


「どうだ、これを気に盗賊を辞めてギルドの戦士にならないか?」

「な、オレ様を……だと?」

「貴様の武器には動物を切ったような痕跡しか残っていない。人を殺していないやつを長く牢屋に閉じ込めておくことは出来ないだろう。出所したら俺が斡旋してやる」

「ば、馬鹿なことを……」


「残業代は一分単位で支給」

「……っ!」

「完全週休二日制……もちろん土日だ」

「な、なんだとっ……!」

「六月と十二月にボーナスを支給」

「ぎょぇ!」


「家賃補助……勤続報酬……子ども手当……」

「や、やめろぉぉぉぉ……!」

「そして更に――」

「ご、ごくり……」

「…………」

「…………」

「続きは、ギルドの戦士として内定をしてからのお楽しみだ……」

「な、なんだとひゃはぁぁっぁ……!」


「どうだ、答えろ。罪を償い、仲間の居場所を吐けば内定は確約してやる……」

「ぐ、ぐぐぐ……」

「……内定祝いで引っ越し代金支給」

「……コロリ」

「ふふふ、落ちたな……”元”盗賊よ。世界観設定の薄い異世界の盗賊なんて、ちょっと捻ればこんなもんよ」


 終わり

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