パート2:2000文字_異世界転生マニュアル!
異世界に転生する主人公ってメッチャ増えてるじゃん。
もはや日本の人口が減少する危機になるほどに。
どうしてこんな怪奇現象が頻繁に発生しているのだろうか?
今回は、最近異世界に転生した「僕くん」をターゲットにして、
異世界に転生した方法を調べてみたよ。
▼下記から本編(2000文字)
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僕は異世界に行きたい。
いつも心の中で切望している。
仲が良かったヨッちゃんや、密かに恋心を抱いていたミヨちゃんも、みな異世界へと転生してしまった。
このところ、誰も彼もが異世界に転生されっぱなしだ。
普段から学校に来ないでネトゲばかりしているアッシーも突然異世界に転生したし、人生が嫌になったからと電車に身を投げたシンちゃんも異世界に転生した。
将棋が得意なモッチーも異世界に転生したし、100円ショップが大好きな花ちゃんも異世界に転生した。
食堂をしているワッキーは、自宅ごと転生したらしい。
転生転生の連続で、三十数人在籍していたはずの僕のクラスには、もう数人しか学友が残っていない。
先生も、仕事疲れを引きずりながら帰宅した翌日には異世界に転生したらしい。
人間が普通に生活をしているだけなのに、どうしてこう突拍子もなく異世界に転生する人ばかりなのだろうか?
本来、こういう事例は日本で数年に一人か二人発生する可能性があるというような希少性が高い超常現象であるにも関わらず、何故だか身近に起きる日常現象まで価値が減少している。
テレビのニュースでも、今日の異世界転生予報なんてものをお天気キャスターのお姉さんがついでに報告してしまっているくらいだ――というか、その後お姉さんも異世界に転生したよ。
政府も人が行方不明になる事例が大量発生して大混乱となっていたが、異世界に転生した何割かの人々は、なぜだか途中で帰ってきてはまた異世界に行くという自由過ぎるライフスタイルを送っている。
目をつぶって朝起きたら異世界へ行き来できるものや、そのへんの通路の裏を通るだけでピカッと光って異世界にワープできるものもいる。
平日は仕事をこなしつつ、土日は異世界でダンジョン攻略をする者もいるそうだ。
何だこれ? 異世界というのは、どこかの夢の国のような行きたい時にいけるような場所になったのだろうか?
剣と魔法の力があり、限りなく広がる世界を駆け巡ることが出来るような夢のような世界は、もはや気が向いた時にいける時代になったのだろうか?
異世界に行けない身としては、何とも羨ましい限りである。
かくいう僕も、異世界へと行きたい一人の青年だ。
異世界にいつでもいけるように様々なフラグを建設しているのだが、神様も駄女神様も僕の気持ちに気づいてくれない。
年齢は十六歳と、異世界に行く可能性が最も高い年齢基準は満たしているし、どこにでもいる普通の男子高校生で、普通科帰宅部中肉中背趣味なし妹ありという最高の条件を満たしている。
妹には毎月お小遣いを与えて、僕のことを「お兄ちゃん」と呼ばせるように買収したし、となりの家のお姉さんとは二年かけて朝の挨拶をするまでに顔なじみになったというのに……。
試しに一週間だけニートになったり、ネトゲで世界を目指そうとしたり、普段行きなれない森の中で虫が多いのを我慢しながら昼寝して目醒めるを繰り返したが、全て無駄に終わってしまった。
そんな努力をする中で、元の世界に帰ってこられるパターンの奴らは充実した表情でエルフやら巨乳の騎士やらとのラブラブした話を自慢げにしている。
元々モテなかった奴らだというのに、異世界に行ったというだけで特別扱いされてモテてしまう。
もはやこれは、忌々しさを超えて、殺意が湧いてきてしまう。
しかし、彼らに危害を加えたところで僕が異世界にいけるわけではない。
別の閉鎖的異世界に幽閉されるだけだ。
僕は考えた――
そして、一つの可能性を見出した。
そうか、行きたいと切望するからいけないのだ。
行かない努力をするほど、反作用的に異世界から寄ってくるのだと。
その考えに至った僕は、すぐさま異世界フラグを全てへし折って回った。
スポーツを始めて筋肉を付けたし、妹の買収をやめて、呼び名を「クソ野郎」に戻してもらった。
勉強も普段より頑張って、得意な英語を飛躍的に伸ばしていった。
彼女は残念ながらできなかったが、冗談が言い合えるような女友だちができた。
異世界について考えることを止して、毎日を純粋に生きることに精一杯に注力した。
そうしていくうちに、僕は段々と異世界へと興味がなくなっていった。
異世界へと行かなくても、この世界で毎日を充実できるようになったからだ。
生き方を変えれば、影が薄い僕でも毎日が楽しくなれる。
努力して気づいた。
結局は、自分がどう行動することで満足できるか――その全てにかかっている。
異世界に行きたいというのは、結局のところ何も出来ない自分自身に対する「逃げ」があったのだろう。
それに気づいた僕は、もう異世界という言葉に一切の未練がなくなっていた。
これから、この世界で自分なりの充実した人生を、努力しながら掴んでいこう。
大変なこともあるかもしれないけれど、苦労も楽しみながら乗り越えるのが人生だ。
僕はそうまっすぐ心に決めて、部屋の電気を消して床につく。
………
……
…
――次の日、目覚めたら僕は異世界に転生していた。
終わり
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