証明写真

午前8時30分


修学旅行で、みんな出っぱらい、

社長は相変わらず建築撮影に出るし、

掃除を一応して、看板を出したところだった。


1台の車がうちの写真館に横付けされた。


お願いします!

今すぐ撮ってください!!


母親だった、息子はリクルートスーツ着て、

とても焦っていた。


事情を聞くに、面接で写真が必要なのだが、

どうしても10時までに欲しいとのことだった。


うちの写真館は、証明写真用のブースは無いのだ。

撮るお客さんもいないし、そういう時は、

完全なスタジオライティングをしなければいけない。




どうする



カメラのキタムラは開店時間が10時、

どうしても間に合わない、







わかりました、お母さん、大丈夫ですから、車を駐めてくださいね


と。



とにかく初めてのスタジオライティングだった、

メモ帳に書いてあることを必死に思い出し、

テキパキとライト、レフ、トップライト、証明写真用の白バックを下ろす。

ジェネレーターを起動して、安定させる。これまでに5分。

ストロボのパワーを8灯分調整する。数値は覚えていた。

85mmを出して、D700に装着。

絞りは8、ホワイトバランスを5200に設定、シャッターは60。

全部できた。




なすは、やればできるこなんだから




お客さんを誘導する、椅子に座ってもらって、

ネクタイをなおす、スーツの形を整えて、

空シャッターを切って・・・



「じゃあ三枚お撮りしますからね!口角をちょっと上げていただけると

  会社さんにとって好印象ですからね〜!リラックスリラックス〜

   大丈夫ですよ!じゃあ一枚目!」





ダンサイで、サンヨンに写真を切って、

渡した。


お代金を頂いた。



涙が、見えた。


お母さんが、泣いていた。


ありがとう、ありがとう、と何度も言われた。



息子さんには、頑張って、無理せず、自分を出してねって。



見送った。


ありがとうございました、とペコリとお辞儀をした。


車が見えなくなった



震えが止まらなかった。


嬉しさと、怖さを押し殺していたのと、いろんな、

いろんな、

いろんな感情が、一気に押し寄せてきたんだ。





なすは



なすは、ありがとうっていわれた

うれしかった、


なすの写真で おかあさんが、息子さんが、


ありがとうって。

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