【 Ogreval――31~】

第31話 小さな勇者





 仲間の援護射撃と皇国の魔力弾が交差する中、包囲網に風穴が開く。

 ダリーがエリサラと帽子の男を引き連れ突破した。

 一行は進む勢いを加速させ、金網状のレーンを転がるようにして走った。


「あいつら――『貫炎弾レッド・ブレッド』を使ってる。私達をここで確実に始末する気なんだわっ」


 上方からの赤い光線に応戦しながらエリサラが吐き捨てる。

 レーンの物陰を駆使し防ぐ赤い光線『貫炎弾』は、青い魔力弾とは異なり人の肉を焼け焦がし貫通する。


「タオ、どの辺になるっ」


 ダンッと広間の底へ着地したダリーが帽子の男を急かす。

 構造図と照らし合わせ、ぱっ、ぱっ、と周囲の位置が目測されれば、帽子の男の人差し指が場所を示す。


 鉄板を継ぎ接いで張るフロアのすみ


 ダリーは指示された場所へ駆け寄り、背中の荷物を投げ捨てるように下ろす。

 そして、魔導銃を構えた。

 ただしそれは、撃つようにではなく打つようにである。


 ガンっ、ガンっ、と力任せに床板の継ぎ目へ叩きつけられる魔導銃。

 更に魔導銃は、四角い板の角にできた隙間へ押し込められ、ビキビキとたわむ。


「――んんんのっ、くそテッパン野郎るがあああ」


 ダリーが吠えれば、大きな鉄の床板が一枚、ばかんっ吹き飛ぶように外れた。

 その下のむき出しになった狭苦しくも細長い空間には、配管の束が通る。

 すかさず、魔導爆弾を取り出そうとダリーが木箱の蓋を乱暴に開けた――時であった。


「こんな所で何やってんだ、お前はああっ」


 荒げた声の先では、箱の中で子供が器用にうずくまる。


「ごめんな……さい。でも僕も、僕もリアンお兄ちゃんを助けたくて。だって、僕を助けれくれたダリーおじさんをリアンが助けてくれたんだから……」


「だあ、話や説教は後だ」


 そう言ってダリーは、今にも泣き出しそうな少年ニイオの襟首を掴み、太い腕でひょいと木箱から取り上げる。

 次に本題の爆弾を取り出せば、配管が通る穴へと設置する。

 爆弾は剥がれた部分にすっぽりと収まり、配管の上へ固定された。

 ダリーが起動ピンを抜けば、緑色の点滅を放つ。


「あとは――っ」


 赤い光線がダリーの腕を襲った。

 そしてその後、配管のある空間でカンカンと硬い物同士がぶつかり合う音がなる。

 ダリーが確認しようと取り出したその手から、起爆用の遠隔機器がこぼれ落ちた。

 落ちた機器は配管と配管の隙間を滑り落ち、配管用の通路の底で転がった。

 

「なんで離した、このくそったれの手がっ」


 腕の傷など構うことなく、両腕の拳が鉄の床へ打ち付けられた。

 転落した遠隔機器を拾おうにも、配管用の通路にはダリーが入り込めるスペースなどない。また伸ばす手が届く深さでもない。

 ゆえにだからこそ、少年ニイオがダリーへ歩み寄る。


「ダリーおじさん、僕の足をつかんでぶら下げて。僕の大きさならパイプの隙間も入れるから!」


 おそらく木箱の中を本日の寝床としていたのだろう。

 目ヤニが残る目元。

 しかしながら先程までの泣き顔はどこ吹く風で、勇気がみなぎる目元でもあった。



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