3

 家に帰ると、キッチンの方から料理をする音が聞こえてきた。


 私と父さんは顔を見合わせ、すぐにキッチンへ向かう。


 すると、案の定母さんが料理をしていた。


 「母さん!」


 私が母さんの名前を呼ぶと、振り返り、私と父さんを見て


「おかえり」


 と笑って言った。


「あ、うん、ただいまー…ってそうじゃない! ど、どうしてキッチンにいるの!?」


 母さんは体力がなく、体が弱いため、病気になることが多い。

 そのため、あまり動かず寝たきりになるのだ。


 …そんな母がキッチンに、しかも料理を作っている。


「どうして…って、今日はとてもいい日でしょう? ごちそうを作ろうと思って。これぐらいは動けるわ」


 イタズラに笑いながらそう言う母さん。


 あああ! かわいい!! というか美人!


「全く……それじゃあ疲れたらすぐ言うんだよ」


 複雑な顔をしながら父さんは言った。


 フフッと妖しく笑う母さんは、それはもう美しかった。

 そして呟いた。


「勝った♪」



 ある意味恐ろしい…。



ーーーーーーーーーーーーー


 食卓にはいろいろな料理が並んでいた。


 基本的には和食が多いが、中華やイタリアン、たくさんの料理が……


「え、母さん、さすがに多くない?」


 私は頬を引きつらせながらそう言う。


「あら、そう? 今日は気分が良かったから動きすぎちゃったかしら?」


 色々作っちゃった、なんて可愛く言う母さんはすごくあざとい。


「ま、まぁ食べ残ったら明日食べれば……明後日もいきそうだな…」


 料理を見て困ったようにそう言った。


「ま、まぁとりあえず食べよう!」


 私は席に着き、次いで父さんと母さんも座り始める。


「「「いただきます」」」


 料理を見回して、私が最初に目を付けたのはピーマンの肉詰め。


 前世のころから好きだったんだよなぁ!


 スプーン、フォーク、ナイフにお箸が揃っている。


 ふんふん、これはお箸で食べよう。


 るんるんな気持ちでピーマンを頬張る。


 んー! おいしい!!

 母さんは料理がうまいんだったっけ!


 「マリーナ…」


 驚いた顔で父さんが私の名を呼ぶ。

 母さんも驚いているようだ。


「え? なに?」


 私は首をかしげながら、母さんと父さんを見る。


「あなた……ピーマン苦手じゃなかった?」


 ……え?

 いやいや、苦手どころか一番好きなのですが。

 世界どころか宇宙で一番好きですが。


「いや……嫌いじゃないけど…」


「でも前までは視界に入れるのも嫌なくらい嫌ってたじゃないか」


 私が!?

 あ、記憶が戻る前か……なるほど、前の私はピーマンが嫌いだったのか……


「あー…、嫌いだったんだけど好きになったの! ピーマンも結構美味しいなって思って」


 とりあえず笑ってごまかすことにする。


「ああ、マリーナは食わず嫌いが激しいからなぁ」


 これからも色々食べてみたらどうだ?と父さんが勧める。


「うん、そうしてみようかな」


 あははーと笑いながらそう返した。



ーーーーーーーーーーーーー


 あー、ちょっと失敗したかなぁ……


 食事が終わり、自室に戻った私は一人反省会を行っていた。


 まさか、こんなところに落とし穴があろうとは。


 今の私と前の私の食い違い。


 それは、食べ物に限らず他にも出てくる可能性はある。


 日本で暮らしてきた私にとってこの世界とはまず文化も違う。



 この世界の文化はゲームの中でしか知らない。

 学園でもゲームでは登場しなかったルールや文化があるかもしれない。

 それも貴族もいる。


 これは対策を練る必要があるなぁ……。


 この世界の文化や常識はとりあえず町を歩きながら覚えればいい…かな。

 貴族のマナーは、こんな庶民の町では絶対わからないし…かといって貴族の屋敷に行って頼んでも教えてくれるようなものじゃないし……


 うーん……



 前世ではこの場合学校で勉強とかしたよなぁ…まぁ貴族の勉強はしてないけど。


 あとは、本屋さん? いや、お金はあんまり使わない方向で、本屋さんは最終手段……


 あとは、図書館とか……あ!!


 図書館!!


 その手があった!


 たしか近くの図書館は大きかったはず……


 うーーん、記憶がないってことは前の私は行ったことがないのか?



 だが行ってみる価値は大いにある。


 ついでに小説とかも借りたいなぁ!

 恋愛とかミステリーとかあと、ファンタジー…は今体験してるんだった。


 とりあえず、勉強もしたいし、ノートとペンも持って行っておこう。

 机の引き出しから、乙女ゲームについて書いたノートを出す。

 まだ空いてるページはあるし、学院の事を書いた本があるならそれも見たいなぁ


 そうと決まればさっそく明日の用意をしよう!


 ノートと、ペンと、図書カード…は持ってないっぽいな、作ってないのか、あるいはカード自体がないのか、まああったらすぐに作ろう!


 あとはー…日本は普通に無料だけど図書館に入るのにお金とかっているのかな……まぁ、とりあえず持って行っておこう、結構持ってるし。


 ノートも使ってるこのノートしかないし、新しく買っておこうか……


 私自身のこの世界の探索は初めてだし、楽しみだなぁ!


 あとはー、いろいろ探索してー、あー、すっごく楽しみだなぁ。



 夜も更けてきたころ、私はベッドにもぐりこみ、明日に備えて早めに寝ることにした。





 あー、本当に楽しみ!!

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