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 翌日、私は父さんと一緒に聖堂と呼ばれる場所に来ていた。

 魔法を使える者はそこへいかなければならないらしい。


 行きたくないなぁ…


 聖堂から仕われている馬車に揺られながら、私はそんな事を考えていた。


「まさかマリーナに魔法の才能があるとは思わなかった! とても嬉しいよ!」


 父さんが嬉しそうに笑ってそう言う。

 ごめんなさい、父さん。私はちっとも嬉しくない。死亡フラグが確立しつつあるんだもの。


「そうね、まさか私が魔法を使えるなんて……最初に見せたのが母さんでよかった」


 心の中とは違うことを父さんに言う。


私みたいな庶民が魔法を使えるなんて!!くっそー!!と思うところはあるが、これが物語のきっかけとして必要なので、私がなげいても仕方ない。


「着きました」


 馬車を動かしていた、聖堂の人が、私と父さんにそう声をかける。


「あ、はい」


 父さんはそれに応え、私も一緒に馬車を降りた。


 聖堂、という名前で予想はしていたけど教会のような建物だった。

 建物を見上げ、すごい白いなぁ、どうやって掃除してるんだろう? なんて馬鹿なことを考えながら父さんに続いて、中に入っていく。


「ようこそおいでくださいました、アディソン様。

わざわざここまでご足労いただきありがとうございます」


 そう笑いながら言うこの人は、きっとここの代表者なのだろう。父さんは、いえいえこちらこそわざわざ馬車をだしていただきありがとうございます、と場に圧倒されながらも受け答えしていく。私はというと……


「いやすみません、うちの娘が。こんなことは初めてなので緊張しているようで」


 ガッチゴチに緊張していた。

 前世でも今世でもこんなかしこまった場所に来たことないし!! 私元高校生だし!! 一般市民だったし!! こんなすごいところ初めてだし!!


 緊張しないわけないじゃない!!

 私、10歳だよ!? まだ10歳なの!!


「いえいえ、そうでしょう。大丈夫ですよ。今日は魔法に関しての書類を書いていただき、お嬢さんとは少し、別行動になるのですが、よろしいですか?」


 私はコクリとうなずき、よろしくお願いしますと言う。父さんも、大丈夫ですとうなずいていた。


「ああ、うっかり忘れていました。改めまして、ここの聖職代表を務めております。アイール・サンモアと申します。どうぞよろしくお願いします」


 優雅にお辞儀し、そう言うアイールさん。


「私はカル・アディソンです。こちらの娘はマリーナ。よろしくお願いします」


 父もお辞儀をしていたので、私もそれにならってお辞儀する。


「では早速、うつってもよろしいですか?」


「はい」


 父さんのその言葉で行動が開始された。……ぶっちゃけ何をするのかわからないんだけど。


 父さんは書類を書きにほかの人たちと別室へ、私はマイールさんと奥へ進み、魔法の陣の前に来た。


「これはなに?」


とりあえず子供っぽく聞いてみた。すると、アイールさんは笑顔で答えてくれた。


「これは魔法陣。子供の間は魔力を扱うのは難しくて制御しきれないから、一度魔法で封をするんだ。よっぽどのことがない限りこれが解けることはないよ。そしてこれが解かれるのは、学院に入った時だ……わかるかな?」


 すごい、わかりやすい。子どもの扱い慣れてるなぁ。


「うん。わかった」


 子どもっぽくそう言った私に、アイールさんはよかったと嬉しそうに笑った。


 くっ!

 笑顔がまぶしい!


 この人……よく見たらイケメンの部類に入る人だ!!

 すっごいキラキラが舞ってるよ!! ……私の幻覚だけど!!


「じゃあ、魔法陣の上に立ってくれるかな?」


 アイールさんにそう言われ、魔法陣の上まで歩き出す。


 普通に考えて、真ん中…だよね?


 おそるおそる私は陣の真ん中に立つ。

 そして、それを見たアイールさんが他の聖堂にいる人たちに一言二言ほど話し、私の方へ顔を向けた。


「では、魔封じを行います」


 丁寧にそう言って、他の人たちを陣の周りに囲ませる。


 え、なにこれ、怖い。っていうか魔封じっていうの。初めて聞いた。


 キョロキョロと周りを見て私は緊張で体を強張らせる。


「じゃあ、力を抜いて。そこでいてね。何もしなくていいから」


 私の心を知ってか知らずが、アイールさんはそんなことを言う。


 いや、こんなに囲まれて力を抜けと!?


 そう叫びたいのを我慢し、うん、と押しとどめた。


 そして、周りの人たちが魔封じの呪文を唱えはじめた。

 すると、魔法陣が淡く光りだす。


 とりあえず、力を抜くために、私は目をつむって深呼吸をする。


 すー、はー…すー、はー…


 深呼吸をしていると、体の中に何かが消えるような、使えなくなるようななんとも不思議な感じがしてくる。多分、これが魔封じなのだろう。


 私はそう思いながらも深呼吸を続けていると、詠唱が終わった。


 ゆっくりと目を開けると、アイールさんがこちらに向かってきていた。


「成功したよ。これで終わりだからお父さんのところへ行こうか」


 こっちだよ、とアイールさんは促してくれる。私はそれに着いていき、お父さんの所へ向かった。




 私が父さんのところへ行くと、ちょうど書類を書き終わったようだ。


「あ、マリーナ」


 父さんは私を見るなり、嬉しそうに笑い、私の名を呼ぶ。


「これで、すべて終了しました。わざわざありがとうございました」


 アイールさんが私と父さんに向かってそう言う。


「ではもう家に?」


「はい、帰っていただいて大丈夫です」


 父さんにそう言って、私たちを最初に来たところと同じ場所へ連れて行った。


「どうぞ」


 私と父さんは、アイールさんに促され、馬車に乗る。


「今日はありがとうございました。次に魔法を使えるのは魔法学院になります」


 馬車に乗った私たち、主に父さんにアイールさんはそう言う。


「いえいえ、こちらこそわざわざ馬車まで出してくださってありがとうございました」


 父さんも座ったままお礼を言う。


「将来、魔法学院で有意義な性格ができることを祈っています」


 アイールさんは笑ってそう言い、馬車を動かす使いに、行け、と命じていた。


 こうして私の魔封じは終わり、家に帰った




 ……疲れた……。

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