第8話 翌週

 翌週、朝から気分のすぐれない私は、出社後も憂鬱さにまとわり続かれていた。

 お決まりである掃除も書類の整理も、なにか引っかかるものがあり思うようにはかどらない。

 そんな朝が昼にと代わる頃、聞きたくなかった声がドアーの向こうからしたのです。


「こんにちわぁ」


 元凶が訪れたのです。


 小さな風呂敷包みを抱えたあの男が、乱杭歯を覗かせてにたりと笑いながらドアーをくぐる。


「ゆりこくぅん………伊之助君はいるのかなぁ?約束の品をぉ………こうして持参したのだけれどぉ」

 嫌らしく間延びし、ねっとりした独特な声がさらなる悪寒を呼ぶ。


「しゃ、社長でしたら、奥に…」


「よかったらぁ………きみにも見せてあげようかぁ」


「…許可があればですけど」

 そのねばねばさを打ち消すように私は、無表情に応えていました。


 それに臆する事もなく、男は粘つく余韻をべっとりと残し、奥の部屋へと消えてゆく。

 奥の部屋からは驚きの声や物音が途切れ途切れに聞こえていましたが、明らかに奥のドアーが開く音がした後に伊之助の声が聞こえたのです。

「沢田くん、ちょっと来たまえ!」


 やはり今日は欠勤すればよかったと思い悩んでいるところに、伊之助の声は残酷に響きました。


「…はい…」

 それでもなんとか返事を出せた私は、欠勤しなかった事を何度も後悔したのでした。




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