双子のピエロ

@Yukinaga

金曜日は

【昨日未明、東京都渋谷区で35歳の男性が殺害されました。警察によりますと、男性は刃物で心臓をひと突きされた状態で見つかり、即死したもようです。また、男性の友人らによると男性は暴力団から多額の借金を抱えており―】



「・・・ばっかみたい」


「え~?何が~?」



土曜日の、朝というには少し遅い朝。潰れたパチンコ屋のその地下の、その奥の、またその地下。

兄は朝御飯を作りながら、妹はソファで洗濯物を畳みながらニュースを眺めていた。



「あぁ、昨日の男のやつのか~。これで何人目だっけ~?」


「6人目だ!それぐらいは覚えときなよ!全くお兄は・・・」


「あはは・・・ごめんごめん~」



双子の妹―楓に怒られ兄である颯は「申し訳ない・・・」と謝った。



「でもさぁ、楓」


「何よ?」



颯がニュースを横目にチラリと見ながら言った。



「―の数なんて、覚える必要ある?」



「はぁ?」と楓が間抜けな声を出してキッチンの方へドカドカと音を立てて歩いていく。

そして、キッチンのレンジの上に置いてあるオカズをカウンターにドン!!と勢い良く置いた。



「当たり前でしょ!始末した数が多ければ多いほど、仕事が増えるじゃない!」


「ご飯持ってって~」


「その時に始末した正確な数を覚えていれば尚良し!」


「味噌汁も~」


「と・に・か・く!覚えてて損なことはないの!」


「はい椅子に座って~はい、頂きます」


「頂きます!」



日本の中心都市の更に賑やかな場所といえど、全く穏やかな所がないわけでもなく双子の住むこの寂れた場所も、渋谷区の中で最も人通りが少なく、お互いに無言で過ごしていると何も聞こえないくらいには静かだ。



朝御飯を食べているとテレビからアナウンサーの声が聞こえる。昨日男を殺した場所から中継しているようだ。


【これまでに金曜日の犠牲者となった死者は六人に及び目撃情報、証拠などは依然として見つかっていません。】



「目撃情報がでないように殺ってるんだから」


「目撃情報がないのは当たり前だよね~」



颯が作ったご飯を食べながら、二人はアナウンサーに毒づいた。



「てか、【金曜日の犠牲者】って何よwww」


「即死なんて当然でしょ(笑)」


「だって・・・」


「僕らは・・・」


『殺し屋だから!』



地下に二人の笑い声とテレビから流れる音が響く。

とても、普通の人間が、兄妹がする話ではない。

きっと一生することのない話題だ。

だか、双子にとってはなんてことのない会話なのだ。当たり前の日常なのだ。

何故なら、この二人が―












―金曜日に現れる双子の殺人鬼ピエロだから。

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