第四十話
松平信成、前総理大臣。
六十年代の生まれ。
四十五歳の若さで総理大臣に就任したのも驚きだが、その正体は内閣特殊諜報局を統率する、裏社会の総理大臣でもある。
昨年度に謎の死を遂げたが、これは現総理大臣の手によるものとの暗黙の了解が国民全体に知れ渡っている。
松平薬師。信成の息子。
九十年代の生まれ。
十代という異例の若さで内閣特殊諜報局電子組に所属し、現在は特殊諜報局の局長を務める。
内閣特殊諜報局の、局長を務める。
局長を。
内閣特殊諜報局の、局長を。
「…おい。」
「えっなんですか。」
伝説の
そこで宝蔵院お春は唐突に気がついたのだ。
内閣特殊諜報局とは、総理大臣が統括する組織であることに。
なので、内閣特殊諜報局の局長とは総理大臣ということになる。
「薬師博士。今からお前に幾つか質問をする。答えられたら拷問をする。答えられなくても拷問をする。」
「あの、先に謝らせてください。マジですみませんでした。」
お春は自転車と化した自らのハンドルを薬師博士の右眼に近づけた。
「お前は総理大臣なのか?」
「…いえ、正確には総理大臣の影の代行役ですね。現総理大臣のマックス函館は昏睡状態になってますからあふんっ」
薬師博士はそこら辺で雇ったアメリカ人バスケプレイヤーに鞭でしばかれた。
「なんでそんな重要な情報を先に言わねんだよっ!あと俺はジョン。」
「あれっ言わなかったっけ?あれっ?」
薬師博士はわりと重要職に就いていたのだ。
「そしてお前はアレか?更になんか北朝とも繋がりがあったりするのか?西軍か?東軍か?」
「両方ですあうちっ」
薬師博士はアメリカ人バスケプレイヤーに鞭でしばかれた。
「痛いじゃ無いですか!!私は裏から手を回しまくって色々やってたんですよ!?全ては西大寺衆に取り込ませ、より巨大な組織にするためです!!」
「生意気言ってんじゃねーよ。俺の名はジョン。」
「なんで私たちに黙ってそんなことをしてるんだよぉー?」
「それは私たちの中に裏切り者がうわあっ」
薬師博士はジョンに鞭でしばかれた。
「裏切り者はテメーだろ。」
「違うんです!!これには深い訳があるんです!!お春殿と千秋殿の復活に失敗したのも偶然なんです!!本当は成功する確率は三〇%以上の公算だったんだ!!」
「低確率じゃねーか!!お陰でこっちは死んでるんだよ!!ていうかマックス函館が昏睡状態ってなんなんだよ!!」
「マックス函館が昏睡状態になったので、政府が真っ二つに分裂したんですよ。簡単な話じゃないですか。」
簡単だった。
内憂内患。まさにこの国はそういう状況だったのだ。
つまるところ政府の争いに、千秋とお春は巻き込まれたのである。
いや。もちろん発端となったのは千秋とお春のせいなのだが。
「ぶっちゃけお春殿と千秋殿が関わらずとも、こっちの問題はこっちの問題で、結局はこうなってた話なんですよ。だから太乃長官もすんなり受け入れたじゃないですか。」
「ああ、成る程な。色々と陰謀を張り巡らせてたのは、最初からだったのか。」
「まあ言っちゃったので更にアレですけどね。本当はお春殿も千秋殿も、安全な場所へ隔離するつもりだったんです。ところが二人は忍杯戦争に関わってしまい、西日本全体が危機的状況に陥った。なら、色々と不都合はあるものの二人を連れ回すしかない。それが一番安全ですからね。おおうっ」
「何良い人ぶろうとしてんだテメー。結局は自分の都合で他人を振り回してるだけじゃねーか。」
薬師博士はジョンに鞭でしばかれた。
「薬師博士よお。策士ぶるのもいいが、お陰でこちとら大迷惑なんでい。」
コンスタンティンを倒し、薬師博士を見つけたが、それで全てが解決するわけでは無い。
西大寺衆は戦闘要員を四名も失った。
しかも、宴の祭器達はここに来て東軍側の者だと発覚したのである。
彼らが探している胡姫様とやらも見つからなかったらしく、かなり焦っているのが分かる。
それだけならまだしも、西軍の謎のスケスケ忍者を取り逃がしてしまったのだ。
謎のスケスケ忍者は隠密に長けた忍者らしい忍者なので、取り逃がしたのは痛い。
更には、よくよく考えてみれば、藤武蔵の契約一般人であるニャースが、コンスタンティンに一度敗北しており、その時点で藤武蔵は忍杯戦争を敗退していたのだ。
これは意外な盲点だった。
これで、西大寺衆の忍杯戦争参加忍者は
これも宴の祭器達の共同名義のようなものらしく、そもそも彼らがどこまで話を理解しているのか。
「そうですか。大ピンチですねえ。
「黄門様からコンスタンティンに一撃貰ってショックで
しかし、それらよりももっと重要なことを千秋は黙っていた。
エビとカニのミュージアムで取り残された西大寺千秋、及び
どう考えてもヤバイ事態だ。
そもそもあのコンスタンティンが無碍に千秋を置き去りにしたとも思えない。
そんなことをしたからには、当然何がしか手立てがあったはずである。
「…お春殿、千秋殿は。」
「実は連絡がつかない。」
その時である。石舞台古墳の入り口を見張っていた、ドリームランド柳生の生き残りの一人が声を発したのは。
「お春殿。客人だ。」
「おうおう。元気ねーなお春殿。」
客人はなんと千秋の母、西大寺千晴だった。
西大寺千晴は木刀を背負っていた。
「お母さん。一体どうしてここに。」
「車飛ばしてきたんだよ。」
ドリームランド柳生は千秋の母に頭を垂れた。
「お久しぶりです。」
「おう。一人死んだらしいな。」
「奴も実力不足。この時代、戦いの中で死ねたのは幸せと考えるべきか。」
「戦好きだなあ。すまねえな、こいつの為によ。」
母はドリームランド柳生と知り合いのようだった。
「えっ…お母さん。どういうことなの?」
「うん?ああ、おお。親戚だ。親戚。ウチの父方の祖父が十兵衛なんだよ。十兵衛。こいつら三人はまあアタシの従兄弟さ。」
「は?初めて聞いたけど。」
「言ってなかったからな。影からお前らを守った方がかっこいいだろう。」
「じゃあドリームランド柳生さん達が誰かの命令で私を守るとか言ってたのって。」
「アタシの命令だよ。こいつらは強いからな。」
千秋の母は邪悪な笑い方をした。
その時、ドリームランド柳生の人が般若面を外した。
「この人はカタギですが、我ら柳生は人にあらず。この際、全てをお話ししましょう。」
「あっ」
柳生の人が露わにした素顔は、右眼が刀傷で潰れた精悍な顔つきだった。
「柳生!」
「十兵衛!」
その顔がなぜ柳生十兵衛だと分かったのか。
そもそも歴史上の人物、柳生十兵衛が隻眼だったというのは後世の創作という説が一般的である。
にもかかわらず、柳生十兵衛という男が誰の目にも一目でそれとわかるのは、明らかなミーム汚染です。
柳生十兵衛は日本各地を行脚し、一説ではスパイだったとの話も、柳生十兵衛の伝説化に一役買っていますが、そもそもこの事実自体、かれらがイメージ操作を図ったものであると考えるべきです。
例えば、狐や狸の類が変化して人に悪さするという類型の話は日本各地で見られますが、それと同じことと考えられます。
人を化かす狐や狸が実在するかはともかく、彼らは実在することは、歴史が明らかにしています。
彼らとは柳生十兵衛です。
柳生十兵衛という種族は、古来より人を化かして、その圧倒的な剣の才能で創作物に登場することで、文化遺伝子の存続を図ってきた妖怪の類です。
柳生十兵衛が初めて歴史上に登場するのは江戸時代。江戸柳生の達人だった柳生十兵衛は、己の実力のみで後世に名を残し、これは後の柳生十兵衛達がさらなる文化遺伝子の発展を遂げる土台となりました。
その後、様々な柳生十兵衛達は剣の才能のみで日本各地を回り、様々な創作者達と結託し、講談や小説などに柳生十兵衛を登場させました。
近年で最も有名な個体は、山田風太郎の柳生十兵衛三部作にも登場した、三人の柳生十兵衛です。
彼らがそれぞれ別個体の柳生十兵衛で、それぞれが創作者に影響を与えたことは、想像に難くないと思われます。
つづく
☆【大和編】忍杯戦争関係者一覧☆
○西大寺衆
・千秋とお春一行
西大寺千秋
宝蔵院お春
西大寺冬次
薬師博士
太乃
十津川勇蔵
・根来衆
・伊賀組
・胡姫禁中宴の祭器達
(のこり四名)
・ドリームランド公国
(のこり二名)
・裏正倉院
・和歌病県警刀狩署無刀課刀係
ニャース
川上
・シャンヤーハイアン
×織衛不要人
山田金烏
×西堂尾汽笛
ヨハン・ソン(尊孫王)
ジェット・
○忍法西軍
謎のスケスケ忍者
×コンスタンティン・龍(尊龍王)
×シャオ・イェン(小燕)(尊燕王)
・神兵衛南郎組傘下有門組
×壺阪鬼勝
×前裁金之助
×二階堂三四郎
○忍法東軍
・南郎組傘下忍道会
鬼子母妖子
岡寺マリオ
犬飼万葉
・南郎組傘下鶴詠会
平端華文
畿央いそみ
天理雲中丸
忍杯戦争参加者一覧
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お
以上十四名
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