第二十五話
第二十五話
他の敵と遭遇したので相手をしている暇は無いのだが、死刑囚たち三人と再会したことはそれなりに驚きだ。
竜田川龍之介や妙法寺太郎、そして名前は知らないがもう一人の死刑囚の三人。
彼らは千秋たちの味方である根来忍者、外道一群斎を殺害した下手人である。
騒ぎに乗じていつの間にか居なくなっていた彼らであるが、シャンヤーハイアンの連中と同行していることはなんとなく把握していた。
彼らは死刑を望んでいたのに、自分たちを無理やり脱獄させた外道一群斎を恨んでいたのだが、ではシャンヤーハイアンと同行している理由はなんだろう。
「おお、西大寺衆の連中じゃねーか。久しぶりだなあ。実は俺たちは警察に逮捕されずに海外犯罪組織に連れられているんだ。すまねえなあ。」
「えっあっ世は諸行無常だね。」
まことに世は諸行無常であり、千秋は今はもう一群斎が死刑囚たちに殺られたことをそこまで恨もうとは思っていなかった。
一群斎は忍者であり、遅れをとった彼の責もある。
死刑囚たちなので成敗はするが、努めて感情を抱かずにいたのだ。
「済まねえっ!一群斎のお辞儀を殺したのは間違いだった。早く俺たちを逮捕してくれ。」
「私たち警察じゃ無いけど。」
「馬鹿野郎。現行犯逮捕は一般市民でも権利があるのさ。さあ早く違法賭博をしている俺たちを現行犯逮捕してくれえ。」
西大寺千秋は悟った。彼ら死刑囚たちは自らの罪を悔い、罰を望むがゆえに短絡的な犯罪を行ってきたのだ。
なんという破滅主義者。破綻した悪魔どもである。
そして逮捕されるためにシャンヤーハイアンについてきていたという事実に驚いたのは、根来忍者でありながらシャンヤーハイアンとつながりの深い、摩利香之介だった。
「馬鹿な。まさか貴様らその為にシャンヤーハイアンに同行していたのか。」
「ああ、お前たちシャンヤーハイアンとの犯罪旅行はあまり楽しくなかったぜえ。」
この事実に怒った摩利香之介は死刑囚たちを蹴り飛ばした。
「いい度胸だゴミども。楽しみは後でとっておこうと思ったが、今この場で大忍法の生贄となってもらう。」
そう言うと摩利香之介は抜刀し、自分の右腕を切った。
彼の右腕からは夥しい量の血液が迸る。
この異様な光景に、さしもの西大寺千秋や宝蔵院お春もすごく忍法っぽい光景だと思った。
それにしても異様な光景だ。自らの血液を噴出させるとは。
これは如何なる忍法の呼び水なのだろうか。
「お前たち、俺が何をしているのわかるか。」
「分からないわ。」
「俺はなあ。頭に血が上りやすい性格でな。嫌なことがあるとリストカットしてしまうんだよ。」
「大変だね。」
だが、ここからが更に異様な光景だった。
なんとシャンヤーハイアンの構成員のシャオイェンさんが摩利香之介の血液を飲み始めたのである。
「なんということだ…まさか血液を飲むとは。まさかこれこそがシャンヤーハイアンが企んでいた偽の神器による大忍法なのでは。」
その時、手を挙げたのは宴の祭器の一人、眼鏡橋光器だ。
彼は争いによる決着を好まず、せっかくなので賭け事で勝敗を決めようと提案をした。
でもみんな忙しいので無視された。
「ちょっと良いですか。私たち宴の祭器達は南北朝時代にこの地を訪れておりましてね。その時に我々は人の身でご神体として扱われていたのですが、つまりそれで神器を名乗ることが許されたのですよ。」
「そうか。」
「そうなんですよ。でもご神体と認められたのは当時の南朝ですが、自分たちを器と定義したのはまた別の方でしてねえ。それが胡姫様なのですが、我々が仕えるのはあくまで胡姫様なのですよ。」
「そうか。」
「皆さんその辺を勘違いなされることが多くてですねえ。まあ不老不死の我々と比べて、あなた達は若いので勘違いなされるのでしょうね。」
「そうか。」
「さあ、では賭け事で決着をつけましょうか。ゲームは何にしますか?私はアレが得意なのですよ。そう、あなた達の時代ではバックギャモンと呼ぶそうですねえ。ではバックギャモンをしましょうか。」
「あいつら何か変な儀式してるけど。」
千秋が言うと、眼鏡橋さんは驚いてシャンヤーハイアン達を見た。
なんと藤武蔵人魚がシャオイェンさんと肉弾戦を繰り広げているのである。
「大忍法は阻止させてもらうぞシャンヤーハイアンよ。」
「邪魔するんじゃねえ!俺たち四人の僭称帝は全員が強化サイボーグなのさ。」
藤武蔵は無刀で
流石はサイボーグと言おうか。
しかし、何と拳を受け止めたまま、藤武蔵がひとりでに後ろへ飛ばされたのだ。
これこそは中国拳法でいう発勁というのだろうか。
千秋は当初、発勁のことを内気功と呼んでいたが、後でウィキで調べたとろ、気功とは健康法のことらしいので、これはおそらく発勁というのだろう。
よくわからないが、高度な武術戦である。
しかし、弾き飛ばされた藤武蔵は空中で座禅を組み、浮遊することでダメージを逃れた。
「ちょっと、あの人たち戦ってるじゃないですか。」
眼鏡橋は千秋に文句を言った。
「血の気が多いんだよ。きっと。」
「みんなあああ愚かな争いはやめるんだあああ」
錯乱した眼鏡橋は懐から小判を出してあたりに投げつけ始めた。
すると、どうであろうか。金に目が眩んだ愚者達は争いを止めたのである。
「ぐへへへへ金だ。金だ。」
「隙ありいいいい」
ここで宝蔵院お春の怒りの一撃が炸裂した。
だが、
背骨を砕かれたお春は血を吐き出しながらその場に崩れ落ちた。
「馬鹿な…発勁とは中国拳法の特殊な技術とはいえ、発するにはタメがいるとウィキに書いてあったのに…
お春にも初対面の人をさん付けで呼ぶ礼儀があったことに冬次叔父さんは感動した。
「お春殿ってちゃんとした言葉遣いとか出来るんだ。」
「叔父さん、戦闘スーツがあるから死なないのが分かったからわりと余裕があるね。」
だが冬次叔父さんは流石に両手に死者の手がまとわりついてたので、精神的に疲れていたのだ。
「ところでなんで
「まさかサイボーグの体が関係してるのではないか。」
気になったお春殿は背骨が折れた状態で
「ああっ何をする。」
「なんだと…こいつの体は。」
上着を破かれて露わになった
それは四肢や胴体に滑車が取り付けられ、中でおっさんが走ってるサイボーグ体だった。
「こいつ…おっさん型エンジンで動いていたのか。」
「ばれてしまっては仕方ないな。俺はなあ、そこの薬師博士によって全身に滑車を取り付けられ、中で小さいおっさん型サイボーグが走り回る体にされてしまったんだよ。」
お春は理解した。先程の一撃は
つまりこれが、ノーモーションから発勁を行える秘密である。
「勝てない…こいつは常に複数の力を合わせて戦ってたんだ。」
お春は絶望した。千秋も絶望した。屈強なる中国拳法の鍛錬とサイボーグ技術、そしておっさん型エンジン。これらが高度に統合された
「諦めないで下さいお春殿。実は一年前にお春殿がサイボーグだった時も内臓型の同じタイプのエンジンで動いていたんですよ。」
「えっ…」
薬師博士はすごいことを言った。
「
「薬師博士…」
その後三十秒くらい頑張ってお春は戦ったが普通に負けた。
「流石に可哀想だから背骨以外は折らないであげる。」
「ありがてえ…」
背骨は折られたが、二人の間には同情心から奇妙な友情が生まれていた。
さて、一方ストレスからリストカットしていた摩利香之介だが、どこから取り出したのか、錆びた古びた円盤を地面に置いて、自らの血液を垂らしていた。
「ふふふふふ。お前達が馬鹿をやっている間に儀式の準備は整った。これより南北朝に伝わる大秘儀を執り行います。」
「お待ちなさい。それは偽の神器ではありませんか。」
目ざとく気付いたのは宴の祭器、眼鏡橋。
「私の目は特別製だ。胡姫様にも認められた我が審美眼は真実を理解している。間違いなくそれは私が"作った"偽の神器の贋作"だと。」
「贋作…だとぉ。」
「如何にも。偽の神器自体はただの偽物の神器。それ自体に特殊な力はない。ただ、その贋作は私が南朝の依頼で作ったものだ。その素材は宇宙から飛来した隕石で作ったから大分ヤバイ。」
「また随分と自信家ですなあ。だが、この大秘儀は私と根来蘇生殿が生涯をかけて研究した忍法。その成果を見せて差し上げましょう。」
「お待ちなさい。それはあなたの思っているようなものではないのです。そもそも贋作と雖も南朝に帰属する宝物ならば、南朝の許可がなければ使ってはいけない。」
眼鏡橋がなんか難しいことを言うと、
「えへんえへん。少しいいかな、そこの老人様。南朝と言ったが、俺こそが南朝の四人の継承者の一人。尊燕王さ。尊の自は間違いなく俺がやんごとなき血を引くことの証左。俺の存在こそが、大秘儀の実在を示す。」
「何を言っているのです。」
「南朝は滅んでいない。後南朝の自天王様は、記憶だけを四人の娘に継承された。それこそが南朝に伝わる大秘儀。血とともに記憶を承継させることで、王朝は永遠に存続する。」
「記憶の承継だと。それは陰陽術の領域ではないですか!?」
薬師博士がなんか難しい感じで驚いた。
つづく
つづく
☆【紀州編】忍杯戦争関係者一覧☆
○西大寺衆
・千秋とお春一行
西大寺千秋
宝蔵院お春
西大寺冬次
薬師博士
太乃
十津川勇蔵
・根来衆
×
・伊賀組
・胡姫禁中宴の祭器達
・ドリームランド公国
・南郎組傘下忍道会
・南郎組傘下鶴詠会
・神兵衛南郎組傘下有門組
・裏正倉院
○和歌病県警刀狩署無刀課刀係
ニャース
川上
×林克明
○シャンヤーハイアン
織衛不要人
山田金烏
×根来蘇生
西堂尾汽笛
コンスタンティン・龍(尊龍王)
ヨハン・ソン(尊孫王)
ジェット・
シャオ・イェン(小燕)(尊燕王)
・死刑囚
竜田川龍之介
妙法寺太郎
他一名
忍杯戦争参加者一覧
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お
以上十四名
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