第二十二話

第二十二話


 今年から箱寝はこね駅伝のルールが変更された!

 世相を反映し、ええじゃないかの思想を取り入れ、箱根から伊痩いせまでの超長距離レースとなったのだ!!


 しかし、これには衆院選の野望も隠されていた。それぞれの参加者たちは衆院選に出馬する政治家たちに金で雇われた暗殺者たちであり、彼らはお互いに特殊能力とかを駆使して殺し合い、時には助け合いつつも駅伝の区間に設置された仏舎利を集めていたのだ!!


 果たして、仏舎利を集めることにいかほどの意味があるのか。それは駅伝という一大イベントで仏舎利を集めて功徳を得ることで、衆院選に勝つという御祈願を果たす為だったのだ。非情な暗殺者達と雖も、意外と信心深かったのである。


 現在、トップを独走する集団はサイボーグキング団と呼ばれる違法カジノギャングで、彼らは寺や神社を闇討ちし、国宝を強奪して伊痩いせ神宮の周辺を阿波踊りで闊歩していた。


 サイボーグキング団とは、駅伝の超長距離レースを行ううちに、路上で違法カジノを開催したほうが暗殺よりも上がりが良いことに気付いた真面目な大学生達の成れの果てだ。

 前途ある若者だった彼らは殺人に強盗、パチンコや立ち読み、喫煙、読者応募コーナーなどの遊びを覚えてしまい、悪の道に走ってしまった。


 しかし、そこに立ちはだかったのがサトシくんである。


「これ以上の乱暴狼藉はやめるんだお前達。」

「なんだ貴様は。ええじゃないかしてくれる。」


 サトシくんはかつてサイボーグキング団に一度だけ命を助けてもらった事のある15歳の少年で、憧れの大学生達にこれ以上罪を重ねてほしくないと思い、命がけで彼らを止めに来たのだ。


「誰だか知らんが命はないと思え、この高雄様が成敗してくれる。」


 そう言って阿波踊りしながら前に出たのは筋骨隆々とした美丈夫の中年男性である。全身にガーターベルトを巻きつけ、スカート半裸の姿はまさに高雄といった風情であった。


「俺はサトシくんだ!命に代えてもお前達を止めてみせる。くらえ10万ボルトぉ」


 そう言うと、サトシくんはポケットからネズミを取り出した。ネズミには発電所から引っ張ってきたケーブル類が巻かれており、高圧電流を帯びていた。


「はっ馬鹿な!サトシくん、貴様は死ぬ気か!」

「俺の命でお前達を止められるならば安いもんだぜええええピーピカーピー!!」


 思い出と電圧で興奮したサトシくんは過呼吸になり、案の定高圧電流は大爆発を起こした。

 サトシくんは即死したが、この時に大事な国宝達も激しく損傷した。


 さて、肝心のサイボーグキング団達がどうなったかというと、無情にも彼らは無傷であった。

 サイボーグキング団の周囲にはバリアが張られていたのだ。

 だが、サトシくんの近くにいた高雄は重傷を負っていた。


「ふぅ…ビックリさせやがって。しかしこの愛宕様のエネルギーバリアがあれば百人力よ。まったく、自分でもどういう原理でエネルギーバリアを展開しているのか意味がわからなくていつも精神が不安になるぜ。」


 エネルギーバリアを張っていたのは愛宕と名乗る巨漢の半裸のおっさんだった。彼は海パン一丁に金髪ロングヘアのプロレスラーで、頭部にベレー帽を被っていた。


「ふぅ…いったい科学では解明できない自分のエネルギーバリアのことを考えたらメンタルが不安定になってきやがった。やばいなあ。薬の量を増やそうかなあ。」

「そんなことより安室奈美恵ってクレヨンしんちゃんみたいな声じゃないか。」


 そう言ったのは西大寺千秋という謎の少女だった。


「おお、そう言われてみればそうだなあ。しかし、誰でもいいから殺したくなってきちまった。」


 しかし、その時奇跡が起こった。全身を黒い甲冑に身を包んだ将軍が、黒焦げになった高雄を抱きかかえて煙の中から現れたのだ。


「…この惨状を作ったのは貴様らか。」


 この黒い甲冑は只者ではなかった。全身に闘気を纏っていた。否、泣いていた。この男は泣いていたのだ。

 黒い甲冑の男は瀕死の高雄を地面に降ろすと、静かに抜刀した。


「その乱暴狼藉、身にあまる。」

「構わねえ、やっちめえ。」


 こうしてネオ南朝将軍とサイボーグキング団の全面戦争が切って落とされた。

 彼らは阿波踊りを踊りながら伊痩いせ神宮を南下、五時間後には浅魔あさま山の周辺で踊り狂っていた。


「ええじゃないか、ええじゃないか。」

「ええじゃないか、ええじゃないか。」


 踊り狂ううちに彼らに友情が芽生えたのかというとそうではなく、ネオ南朝将軍はいたいけな民を虐げる乱暴者達を許せなかった。

 ここで黒焦げのまま踊っていた高雄がニヤリと笑みを浮かべた。


「馬鹿め、ここまでくれば貴様は体力を消耗し、孤立無援というわけだ。」

「くっ!卑怯者が!」


 こうしてネオ南朝将軍はサイボーグキング団にボコボコにされ、動かなくなってしまった。

 リンチしていた相手が痙攣以外の反応をしなくなれば、流石にサイボーグキング団達と雖も恐怖心が芽生えてこようものである。


「おい…やべえよ。俺たちやっちまったよ。」

「焦るんじゃねえ!まだ生きてる!」


 しかし、ここでサイボーグキング団に悪の心が芽生えた。生きてネオ南朝将軍を帰してしまったら、自分達が逮捕されるのではないかという恐怖心だ。


「…こいつはここに置いておこう。」

「何言ってるんだよお愛宕、そんなことしたらこいつ死んじまうよお。」


 愛宕は駄々をこねる高雄を殴り飛ばした。


「馬鹿、野郎ッ!こいつを生かしたらあ!俺たちが逮捕されるのではないか!?」

「うげえっ!頭の打ちどころがヤバいところだ。」


 愛宕に殴り飛ばされた高雄は岩に頭をぶつけて即死した。


「おい!?高雄?高雄、高雄ー!!」


 恐怖心に支配された愛宕は策を練ることにした。

 まずネオ南朝将軍を手厚く看護し、目覚めたところを高雄殺人の犯人に仕立て上げるのだ。

 この作戦はわりと上手くいき、目が覚めたネオ南朝将軍は記憶を失っていたが、それ故に高雄殺しの罪を都合よく押し付けることができた。


「だからよお、車が通りがかったところに、高雄の死体をぶつけるのさ。」


 自分が人を殺してしまったと吹き込まれたネオ南朝将軍は泣いていたが、死体を車にぶつけて罪を逃れようとする行為には激しく抵抗した。

 愛宕は駄々をこねるネオ南朝将軍を殴り飛ばした。


「馬っ鹿野郎うぉ!?ここで死体を車にぶつけないと、罪から逃れられねーぞ!?」

「なんと…」


 だがこれは、ネオ南朝将軍に死体を処理させ、その上で愛宕が通報して全ての主犯をネオ南朝将軍とするための策だったのだ。


  愛宕に殴り飛ばされたネオ南朝将軍は岩に頭をぶつけて頭から血を流して動かなくなった。


「えっ?おい…」

「ピクピク」


「ネオ南朝将軍?ネオ南朝将軍ー!!」

「キャアアアーっ!」


 まったく予期せぬ方向から悲鳴が上がった。愛宕は忘れていたのだ。謎の少女が勝手についてきていたことに。

 この謎の少女は西大寺千秋という名前で、いったいなぜ西大寺千秋がこんなところにいるのか。


 実は『干ばつ屋』の崩壊から脱出した千秋は、その後シャンヤーハイアンの追っ手に追われることになったのだ。


 追っ手の名前はコンスタンティンロン。屈強な総髪の中国系男性である。

 迎撃しようと思った千秋だが、このコンスタンティンロンは一言も喋らずにただだだ殴ってくるだけだった。

 何か喋ったかと思えば、それは自分の名前を一言だけだ。


 しかもこのコンスタンティンロンは死ぬほど強かった。身体一体型特殊戦闘スーツで対抗しようと思った千秋だが、コンスタンティンロンは内気功の達人であった。

 運動エネルギーを直接体内に叩き込む内気功の前には、戦闘スーツの防御力は意味をなさなかったのだ。


 戦闘スーツから刀とかを精製してみたが、これも折られてしまい、ついでに両腕の骨も普通に折られてしまった。普通に。

 その直後に腹を思いっきりグーパンされてなんかが破裂したあたりで、千秋はこれはアカン奴だとついに悟り、ほうほうの体で逃げ出すに至ったのである。


 ついでに逃げるときに普通に右腕を握り潰されて千切られた時には痛みでショック死したかと思ったが、ここは戦闘スーツの機能がなんとかしてくれた。

 本当に右腕を千切られた時には本当に泣くとかそんなレベルではなかったが、どうも戦闘スーツの内部調整機能がショック死とかを許してはくれないようだった。


 そして恐るべきことに、戦闘スーツがアメーバ状に傷口に入り込み、千切られた右腕をなんか修復してくれたのだ。これには千秋もビックリしたが、おそらく戦闘スーツの機能なのだろう。折れた肋骨も治ったし。

 あと血とかは止まらないが、あまり痛みはない。


 そんなわけで、孤立無援の状況で敵に追われる中、千秋が思いついた策がええじゃないかの集団に身を隠してやり過ごすというその場しのぎだったのだ。

 これは千秋が選んだええじゃないかの集団がサイボーグキング団だったあたりがくじ運の悪さだ。


 しかし、サトシくんが自爆したあたりでコンスタンティンロンもドン引きして遠巻きにしか千秋を見てこなくなった。

 こうして何も考えてないゴロツキ達が本気でヤバい行為に手を染めていく中、遠巻きにドン引きしながら見つめてくるコンスタンティンロンの恐怖に怯えつつも、ことの成り行きを見守るしかなかったのである。


 そんな千秋がついに叫んだのは、遠巻きに見つめていたコンスタンティンロンが道路の真ん中に立っていたため、車に撥ねられたからだ。


「何い、目撃者がいたのか。お前も凝らしめてやる。」

「ひいっ!」


 恐怖に駆られた千秋は逃げ出した。阿波踊りを踊り狂いながら逃げ出した。

 それを追ってくるのは愛宕やコンスタンティンロン、そしてネオ南朝将軍である。

 コンスタンティンロンは車に撥ねられた筈だが、額から血を噴出しつつも普通に追ってきていた。


 これに気を悪くしたのが愛宕であり、なんか知らない怪我人が追ってくると、自分が犯罪者であることが露呈しそうなので嫌だったのだ。

 ムカついた愛宕はコンスタンティンロンを殴り飛ばした。


 すると、どうであろうか。コンスタンティンロンは口からビームを出したのである。

 これはコンスタンティンロンの肉体が一部サイボーグ化していることを意味していた。


 しかし、愛宕は瞬間的にエネルギーバリアを展開、跳ね返ったエネルギーバリアは、コンスタンティンロンの胴体を貫いた。


 コンスタンティンロンは口から血を吐いて崩れ落ちた。

 愛宕はこのことをSNSに報告したら炎上してしまい、家に引きこもった。


 そうしている内に、千秋とネオ南朝将軍は命からがら魔の山から脱出したのである。

 そして、菅原さんや宝蔵院お春、橘さんと合流して事なきを得たのである。


 しかし、これでコンスタンティンロンが死んだかというとそうではなく、ごく普通に生きており、西大寺衆を遠巻きに見つめて殺気を放ってくるのである。

 まこと、浅魔あさま山は魔の山である事だなあ。

 つづく





☆【紀州編】忍杯戦争関係者一覧☆


○西大寺衆

・千秋とお春一行

西大寺千秋

宝蔵院お春

西大寺冬次

薬師博士

太乃悧巧りこう

十津川勇蔵


・根来衆

×外道げどう一群斎 いちぐんさい

愚蘭坊グランぼう

乳出ちちで御児兵衛おごべえ


・伊賀組


・胡姫禁中宴の祭器達

別業なりどころ胡瓶こへい


・ドリームランド公国


・南郎組傘下忍道会

・南郎組傘下鶴詠会

・神兵衛南郎組傘下有門組


・裏正倉院



○和歌病県警刀狩署無刀課刀係

藤武蔵ふじむさし人魚にんぎょ

川上黄爺こうや

摩利まり香之介こうのすけ

×林克明




○シャンヤーハイアン

織衛不要人

山田金烏

×根来蘇生

西堂尾汽笛

コンスタンティン・龍(尊龍王)

ヨハン・ソン(尊孫王)

ジェット・ポー(尊武王)

シャオ・イェン(小燕)(尊燕王)


・死刑囚

竜田川龍之介

妙法寺太郎

他一名






忍杯戦争参加者一覧

×外道げどう 一群斎いちぐんさい

藤武蔵ふじむさし人魚にんぎょ

濃尾のうび透助ノ介すけすけのすけ

本堂ほんどう兵庫ひょうご

織衛おりえ不要人いらすと

未知判丸みちわかまる

×芒手のぎす血樽子ちだるこ

猿紅葉えてもみじ母宗ははむね

ゆき初蓮それん鎌槌かまつち

諸兄もろえ盤也たらいや

海蛍うみほたる

福雷ふくらい茶釜ちゃがま

すわり

別業なりどころ胡瓶こへい

     以上十四名

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