第九話
古来、大和の地に三つの王朝が存在したことはみんな知ってるよね。
三王朝はそれぞれ大和朝廷、
現代に於いて生き残っているのは大和朝廷と
明治維新以後、
対する大和朝廷は旧
しかし、ドリームランド公国の選択はそのどれとも違った。なんと彼らは遊園地経営という生存戦略を練ったのである。
それこそが、言わずと知れた奈落ドリームランド。今は閉園してしまった夢の国である。
10年も前に閉園してしまったドリームランドは、今は地元高校生が部活中に不法侵入するなどして密かに使われている。
だが、彼らは知らないのだ。
ドリームランドは遊園地などではなく、本当の国家であることを。その土地には未だ国民達が隠れ住んでいることを。
そもそもドリームランドが閉園したのも国家財政破綻のためであり、土地を手放さざるを得なくなったドリームランド公国は日本各地に四散したと言われる。
一方で、国家復興を願う一部の勢力は強かに力を蓄えていたのだ。
そんな亡国の人間達が、今まさに西大寺千秋と宝蔵院お春一行の目の前にいる。
その佇まいから人間性は感じられなかった。
彼らは一様にイギリス王室の黒い縦長帽子を被っている。
また、忍者装束を纏っており、腰には刀をぶら下げているではないか。
さらに付け加えると、顔面に般若面を装着していた。
「申し遅れました。拙者共はドリームランド公国の近衛兵団でござる。」
「そんな馬鹿な…ドリームランドが生き残っていただと…」
驚くことに疲れた西大寺千秋はとりあえず驚いてみせた。
なんかもう疲れた、というのが西大寺千秋の感想だ。
だって疲れたもん。
昨日の昼から何も食べてないんだよ?
てっきり叔父さんが蕎麦でも出前してくれると思ってたのに、その機会すら失せたし。
そう考えると、全面的に悪いのはヤクザの抗争に巻き込まれて勝手に死んだ忍杯だ。
千秋とお春殿を巻き込むだけ巻き込んで、争いの火種を二人に撒き散らせた。
いや、そりゃ千秋もイルカショーとかほざきましたよ?
でもなんか、事態はそれだけに留まらない感じじゃないですか?
ていうか寝たい。
家に帰って寝たい。
論理的な思考が出来ないよ、今。
今寝ないとどうするの。
ドリームランドの兵隊さん達には悪いけどさ、今すごく眠い。
風呂入りたい。
風邪ひきそう。
だが、そんな千秋の悲しげな目付きに気付くものは、いなかった。
こんな時に限って、みんながみんな、やたらと真面目な表情をしているのである。
教頭の一人、白虎に至っては顔が青ざめ、驚愕に言葉も出ない様子だった。
「馬鹿な…お前達は10年前の騒動で全員死んだはずだ…」
「あの時の借りを返してもらいに来ました。」
なんか勝手にやり取りを始めた様子なので、千秋は頷くふりをしながら合間を見て寝ることにした。
めっちゃ焼きそば食べたい気分だけど、鉄板とか見当たらないし、今めっちゃ疲れてるし、この状態でガッツイたら確実にお腹壊すので、諦めた。
会話は教頭とドリームランドの兵が勝手にしてくれてるみたいだ。
「…という訳なのです!」
「なんと!それは一大事ではないか!!」
「まさに事態は火急なのですぞ!!」
「千秋殿はどう思われる!?」
適当に頷いていると、なんか話を振られた。
「フゴォッ」
「ちっ千秋殿!?今寝ていたのでは!?」
「えっ!?いや、寝てないですよ!私もそちらの意見に賛成です!!」
「ホラ!千秋殿もそう言ってるではないか!!」
「いや…しかしですな…!!」
それでなんか、気付いたら家に帰る事になった。
流石にみんなも眠たかったらしい。
「じゃあ仮眠とってから集合で。」
致命的な何かを聞き逃した気がしたが、もう眠くて眠くてしかたがないので、とりあえず寝てから考える事にした。
ええ、それが間違いだったんですよ。
千秋の家には、叔父さんも同行する事になった。
家に帰ると、珍しく両親が出迎えてくれた。
「おう、遅かったじゃねーか。」
玄関で濡れタオルを渡したのは母親だ。
母親は冬次叔父さんを一瞥すると、いつもより冷たい眼をした。
「そちらさんも随分とお久しぶりじゃあねーか。」
「…どうも。」
さて、濡れタオルを一体何に使えばいいのかいまいちよく分からないままでいると、今度は父親が声をかけてくれた。
「大丈夫か千秋!!とりあえず迎え酒だ!!」
「わあい迎え酒大好き。」
別に二日酔いした覚えは無いのだが。
叔父さんは父を見るや否や、すぐに声を出した。
「兄貴!!」
「冬次、大変なことになったなあ。」
お父さんは叔父さんもお猪口を渡した。
「すまない兄貴、俺がいながら千秋ちゃんをこんなことに巻き込んでしまった。」
「なあに、なるようにしかならねえよ。千秋も千秋でなんとかするさ。」
「出来ればもっと心配とかして欲しいんですけど。」
千秋は意見した。
千秋は父性愛に飢えてる一面があった。
だが、ここで出しゃばったのが宝蔵院お春だ。
「お父さん!マジで千秋のせいで大変なんだからね!!」
「お春殿よ。大事なのは誰が悪いかじゃなくてこれからどう楽しむかだろ?」
「えっ楽しむの?」
「結局どうにもならないのに、楽しみたいことだけ楽しんでも何も悪くならねえよ。」
お父さんは妙に疲れた顔で言った。
その様子を見てとったのか、叔父さんはお父さんを労うように肩を叩いた。
「兄貴。千秋は兄貴の子だ。だから千秋は俺が守る。」
「自分の方こそ大変なのによく言うよ。そうだ、真冬ちゃんからも連絡あったぞ。」
西大寺真冬とは冬次叔父さんの一人娘、つまり西大寺千秋と宝蔵院お春の従姉妹だ。
現在は他府県に暮らしているが、恐らく電話で連絡でもとったのだろう。
そんなことを考えていると、二階の階段から誰かが下りてきた。
「おっ話をしてたら真冬ちゃんだ。」
「えっ真冬来てるの!?」
階段から降りてきたのはロボだった。
「ピーガガガッ!オハヨウ、ゴザイマス!私ハ長州征伐ロボ、シュバリエ一号、デス!よろしくお願いします!」
「真冬!来てたんなら連絡くらいしろよ!」
叔父さんは真冬の勝手な行動に怒った。
大事な一人娘が勝手に危険な外を彷徨いていたのだから、さぞビックリしたろう。
「いや、ロボじゃん。」
「チガイマス、私ハ、長州征伐ロボ、シュバリエ一号、デス!ピーガッガガガ」
長州征伐ロボシュバリエ一号は熱帯低気圧の影響で雨が降る確率を完璧に計算する機能を備えた未来の超高性能型ロボットだ。
「驚かないでくれ、千秋。お春殿。実はこのロボットは去年の秋頃に真冬が拾ってきたんだ。今では真冬の言うことだけを聞き、自分のことを真冬だと勘違いしているんだ。」
「叔父さん疲れてるんだよ。早く寝よう?」
聞くところによると、去年の秋頃、路上で打ち捨てられた長州征伐ロボシュバリエ一号を真冬が拾ってきたらしい。
このことを恩義に感じた長州征伐ロボシュバリエ一号は熱帯低気圧の観測を中断してまで、恩義に報いる為にピンチの従姉妹、つまり千秋殿とお春殿の元へ駆け付けてくれたのだ。
因みに、一人別居して寂しい冬次叔父さんの身の回りの世話も、この長州征伐ロボシュバリエ一号が度々してくれていたらしい。
その為、最近は反抗期真っ只中の実の娘よりも、こちらのロボを西大寺真冬として扱っているようだ。
「今日ノ降水確率ハ、12%デス!ダガ、万一ノ事モ考エラレル!傘ヲ持ッテ、出カケルノ、デス!」
「えっあっはい。」
実は精神的に追い詰められてた叔父さんの悲しい一面を見た千秋とお春殿はもう一つ大人になった。
「じゃあ疲れたから私たち寝るね。もう難しい事とか全部寝てから考えるから。」
「おっ、そうか。じゃあ気を付けて寝るんだぞ!」
「ああ、まあ。物騒だしね。気をつけるよ。」
「そうか。じゃあハイこれ。睡眠セット渡しとくな。」
…?
千秋はお父さんから寝袋とパジャマを渡された。
「お早うございます。西大寺千秋殿をお迎えに上がりました。」
不意に玄関の扉が開き、ガッチリとした体型の黒服が数人やってきた。
…?
…アレっ
「さあ睡眠会場へ向かいましょう。」
黒服は千秋たお春殿を引っ張って黒いリムジンに連れ込んでしまった。
「話は聞いているよ。大した覚悟だよ。ウチの娘たちは。」
「案外眠くて話半分しか聞いてなかっただけじゃねーの。」
お父さんとお母さんは何故か誇らしげだった。
アレっ
これもしかして、大事なこと聞き逃しちゃった…?
困惑する千秋が隣のお春殿を見ると、お春殿も困惑していた。
どうやら二人揃って重大な話を聞き逃していたようだ。
二人の感情はいつの間にか置き去りにされており、睡眠セットを抱えた肉体だけが何処かへ護送されてしまった。
一体どこへ。
そこは菅原さんの家だった。
「あっこれ菅原さんの家だ。」
「菅原さんの家だ。マジで菅原さんの家だ。」
菅原さんの家とは、千秋やお春殿達の友人の間で「本気でヤバイ事」の暗喩的表現だが、この場合は文字どおりの菅原さんの家だった。
まさに菅原さんの家というわけである。
菅原さんの家はかなり敷地が広く、はっきり言って豪邸である。
そして、ちょっとしたスーパーマーケットくらいある駐車場には仮設された体育館のような建物が急ピッチで建設されていた。
「やあ待ってたよお春殿、千秋殿。二人の要請どおりに事は進んでいるよ。」
出迎えてくれたのは、わざわざさっきとは別のジャージに着替えた菅原さんだ。
菅原さんはトランシーバー片手に何処かと通信を取り合い、建設の指示を出していた。
「あの、えっと…?」
「あっ大丈夫、大丈夫。敵チームもちゃんと呼んであるから。あっ来たみたいだ。」
菅原さんが手を振った方角から、三人の男達が歩いてきた。
「わざわざ敵方から誘い込んでくれるとはな。今日の試合はこの根来チームが勝たせてもらう。」
「えっあのっえっ」
「お前が西大寺千秋か。俺は
千秋が困惑していると、次から次へと胡乱な連中が集まってくる。
気がつけば、結構な人数が揃っていた。
「お集まり頂いた皆様、ではこれより西大寺千秋主催の一大睡眠大会を開催します。」
菅原さんがなんかメガホンで司会をし始めた。
「西大寺千秋は錦城高校の生徒ですが、今回の忍杯戦争に巻き込まれ、まともに睡眠も取れてない次第です。他の皆様も同様かと思われます。
そこで、西大寺千秋と宝蔵院お春殿の『仮眠と戦闘両方やったら良いんじゃないの』という提案を受け入れ、このような催しを開催する事になりました。」
千秋はあたりを見渡した。確かに皆一様に睡眠セットを備えている。
「なお、今回のイベント開催にあたり、我々菅原グループが警察権力を買収、忍杯戦争の監督役の権限は以降菅原グループに以降します。」
「あっこれダメな奴だ。」
千秋はうっかりわすれていたのだ。
菅原さんがお人好しなことを。
菅原さんがかなりのお嬢様なことを。
そして、菅原さんが危険人物なことを。
つづく
☆【伊勢編】忍杯戦争関係者一覧☆
・千秋とお春一行
西大寺千秋
宝蔵院お春
西大寺冬次
薬師博士
太乃
十津川勇蔵
・錦城高校
博多青龍
西川朱雀
森永玄武
尼崎白虎
・根来衆
???
???
以下不明
・東突厥高校
以下不明
・ドリームランド公国
???
???
???
以下不明
・その他勢力不明
忍杯戦争参加者一覧
お
以上十四名
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