6
「お姉さま。もう時間?」
「違うわ」
「まだ外が明るい」
篠塚は頬に力を入れると、上半身を起こした。高い場所にある窓からは、やはり高い太陽の光が注がれている。
「まだ昼を少し回ったくらいか。こんな時間にここに来てよいものか」
「学園集会よ。わたしは最後に顔を出すだけだから。それよりも、桃花、最近油断しすぎなんじゃない?」
「
「質問に答えなさい。彼は昨日学園に来て、今日から授業を受けているわ」
「お姉さまから見て、甲斐雪人の印象は?」
「なんだか頼りない感じ。回転は速いけど、中の上、てところじゃないかしら。といっても、わたくしも昨日お話しただけですから、まだなんとも」
「油断はわざと。痕跡を残しておけば、わたしを探しやすい」
「危険よ」
「いいえ。それほど賢い人間はここに居ない。残念だけどね。多くが幽霊だと恐れる。お姉さまだって、以前から幽霊の噂は聞いているでしょう?」
「……もう何年も前からだわ。桃花が中等部にいたころからその噂は流れていたし、多分、もっと前からあった」
「図書棟には幽霊がいる。わたしがここに来てから、一度としてその幽霊に会ったことなどないというのに」
上からの光に、篠塚の顔は陰になる。その瞳は、けれども寂しそうに潤んで見える。
「それに甲斐雪人は、わたしが作った問題を正解した数少ない人間だからな。あれなら、きっとここに辿りつく」
「……でも、あなたはここから出ようとしない」
篠塚の瞳が一瞬だけ大きくなる。
「正直に言うと、お姉さま、ラプラスの悪魔をご存知?」
「ラプラスという名前は聞き覚えがあるけど」
「先日読んでいたのは彼のことが書かれたものだった。いたく感銘を受けてね。朝方まで読んでしまっていて。そのせいでほかの本を片付ける余裕がなかった。それも、ラプラスの悪魔が仕組んだことなのだろうけど」
「桃花の話は支離滅裂だわ」
「わたしが心配で来てくれたの?」
「顔が見たくなっただけよ」
「光栄だわ」
「わざとらしい」
芹沢は篠塚の額を軽く触ると、彼女を再び寝かしつけた。すぐに彼女の穏やかな寝息が聞こえ、再びスリーピングビューティーのような、神聖でとても穢してはならないような表情に戻る。起きている時の雰囲気とは、まるで別物だ。
芹沢は立ち上がる。これから学園集会が待っている。あまり遅くなると不審に思われるだろう。芹沢はそのまま部屋を後にした。
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