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純正芹沢学園高等部第一学習棟、一階。甲斐雪人は教室の扉の前で待っていた。転入自体初めてだし、これから自己紹介をするわけだが、得意ではない。一応簡単な自己紹介の文は考えてきているが、すでに半分以上忘れている。
どうしようかと思っていると、教室の扉が横にスライドした。担任の
「ようこそ、甲斐くん」
甲斐の肩に香川が手を置く。
「一年二組へ。緊張しているようだね。うん、まあそんなもんだろう。あらかじめみんなには伝えてあるが、自己紹介はできるかい?」
「か、甲斐雪人です。えっと、今日から、こちらの学園の入学することに、なりまして、えっと……」
駄目だ、思い出せない。
「よろしく、お願いします」
頭を下げてごまかす。予定の十分の一ほどの短さにまとめられた自己紹介だったが、拍手のおかげで緊張は少し和らいだ。頭を上げてクラスを見渡すと、後方の座席に神田隆志と夢宮さやかがいる。二人とも口元にわざとらしい笑顔を浮かべている。神田の左手の窓側の席が空いていて、そこに座るように香川に言われる。甲斐は何度かぺこぺこと頭を下げながら席に着いた。
「はい、皆さん静かに。甲斐くんは昨日こちらに来たばかりでまだ右も左も分からないと思うから、皆さんで教えてあげるように。それから、いつものように今日の午後は学園集会がありますので、昼食後は体育館に集合となります」
いつもの?
「ああ、この学園の学園集会の多さは異常だよ」
甲斐が疑問に感じたのに気がついたのか、神田が耳打ちをしてくれる。その奥から、夢宮が机に顔を近づけながら付け足す。
「でも私は芹沢お姉さまを拝めるから歓迎なんだけど」
「それでは授業に移る」
香川のその言葉と同時に、教室内は静かになった。神田を見るが、彼の表情も真剣そのもので、すでに教科書が机の上にある。
「仙道、昨日の宿題を板書して。栗原は提出課題がまだ出せていないようだが、今日提出できるか?」
「は、い、いえ。まだ、終わっていません」
「なら授業を受ける必要はない。まずは課題をやって来い」
栗原と呼ばれた生徒は立ち上がり、鞄に荷物をまとめると教室を出ていく。その間に仙道が黒板に数式を書き並べていく。
「まぁ、正解だな」
黒板に右手で○と書きながら香川は続ける。
「だが、エレガントじゃない。これ以外の方法で答えを導き出したものはいるか?」
「先生、わたしはXに代入してみたのですが」
「本質的に同じだな、エレガントじゃない」
教室がピンと張りつめている。こんな雰囲気の授業は初めてだ。前の学校だと、授業中でも生徒のおしゃべりが聞こえていたし、時には携帯が鳴ることさえあった。その度に先生が怒り、授業は中断だ。
「甲斐、これが何の式が分かるか?」
とっさに立ち上がると、甲斐は黒板の数式を睨んだ。一方の式はXとYそれぞれの自乗が分数で足しあわされていて、1とイコールで結ばれている。
「接線を求めているのだと思いますが、元の式が楕円の公式になっています。グラフを書いたほうが、見た目的にも明確になると、思います」
「楕円の公式は前の学校でもう習っていたか?」
「いいえ」
「では、今日の課題は楕円の公式を理解してくること、以上。それでは本題に入る」
授業は、今までにないほど刺激的だった。緊迫はしているが、心地がいい。甲斐はまだ教科書を持っていなかったが、それでも香川の授業、いや、おそらくはこの学園の授業のスタイルがとても気に入った。
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