第20話 魔とは何か6
やっと風車小屋に戻って来た、今日一日だけで結構歩いた気がする。
リーベスさんと一緒に荷物を収納しようとした時、ふと違和感を覚えた。
周りが妙におかしかったのだ、小屋の周りが耕されている。
出発時はいつもと変わりなかったのに。
2人も気づいていたらしく、顔を見合している。
「とりあえずリズと小童は荷物を整頓しといておれ。ああそうだ小童、終わったら刀とガラス玉を持って外に来い。」
こんな時間から訓練だろうか。今日はかなり疲れたし、休憩の話を思い出す。
正直あまり気乗りしない。
とりあえず考えるのを辞め、荷物の整理をしないと。
薄々感じていたが、こちらの世界と元の世界、色々と差異がある。
魔法は置いておき、物の名前が同じでも、別のものだったりするのだ。
昼間に見た、鳥を四足歩行にし、大きくしたみたいな動物が馬と呼ばれてるし、野菜の形や色が元の世界と一致しない。
味見か名前を聞かなければ、どんな食べ物か想像がつかない。
謎の食材達をとりあえず整とんし、ガラス玉を一握りしてオーマの元へ向かう。
オーマは杖で地面をつつきながら、何やら調べている。
「師匠、持ってきましたよ。これだけでいいです?」
「そんなに要らんわい、全く……1つでええ。」
余ったガラス玉を地面に放り、もう一度訪ねる。
「今から訓練するんですか?もう歩き疲れたんですけど。」
「ちゃんと毎日、体を動かさねば駄目じゃ、何、もう遅いし簡単な事しかせん。それかもう武具を扱っての特訓は嫌か?」
「……最初は訳も分からずやっていましたが、最近は、結構楽しいです。自分が成長していくのも実感出来るし、なんか勇者にでもなった気分ですよ。」
少しおどけながら語る、だが偽りのない本心でもある。
魔法は戦いの為の技、この訓練も魔法とは切っても切れない繋がりがあるのだろう。
戦いの為の魔法ではなく、違う道はいくらでもある。
オーマの存在もそれを証明しているじゃないか。
「なら楽しめなくなるまで質と量を増やすか、まあこのやり方しか教え方知らんしの。」
「そんなぁ師匠ォ!?」
本当に台無しである。尊敬して損した。
「しかし小童、忘れるでないぞ?力…」 「力に溺れない、自分で見つめろ、でしょ?」
「……大体そんな感じじゃ。覚えてるならいい。」
「んで何するんです?刀でガラス玉切るととか。」
「そんな事せんわい、刀の使い方じゃ。ちょっとかしてみ。」
帯革から苦労して刀を外し、オーマに手渡す。
「こいつはの、魔力を通しやすい変わった刀なんじゃよ。そしてな、ほれッ」
鞘と峰を擦り合わせながら刀を引き抜く、すると刀身に炎がまとわり、メラメラと燃えている。
「うわっ大丈夫ですか師匠!?」
「平気じゃ。魔力を刀に流し、小さな火花を散らしながら引き抜く。そして炎をまとわせる、想像してな。」
「し、師匠、あんたの得意属性って水と土じゃ……!」
「得意じゃないから出来ないとは一言もいっておらんぞ?これが魔法刀の使い方、【付与】じゃ。」
刀を横なぎに振る。刃の軌道と共に炎が宙を舞う。
まさしくこれ、これぞ魔法剣士って感じだ。凄い素晴らしいカッコいい。
「うわースゲー!!!師匠凄い!!!」
語録が頭から抜け落ちる、それ程魔法刀は輝いて見えた。
「いきなり出来るようになれとは流石に言わん、まずは基本じゃの。」
炎が消え元の状態に戻る。それを地面に突き刺した。
「こいつは柄に工夫がしてあっての、中に触媒を入れる事が出来るのじゃよ。」
柄を何やら弄る、どうやらネジの蓋が付いているようだ。
「そしてこの中に砂を入れ、小童ガラス玉。……こうやって触媒を入れる、もう一度砂を入れ、最後に蓋をして絞める。これで完成じゃ。」
刀身に手をかざし、鞘に戻す。再び刀を返される。
「んじゃやってみ、まず最初は触媒に【備蓄】するんじゃ。」
「い、いきなりですか!?……よしッ」
右手で柄を握り、左手を添える。出来る限り魔力を込める。
「とりあえずそんなもんじゃ、次は引き抜きながらから魔力を引き出し炎を付ける。水を操る時と似た感じでの。」
とにかく炎の事を思う。さっき見せて貰ったアレ、刀身にまとわりつく力、輝き、全て!
「出ろ、炎ォ!」
勢いよく剣を引き抜く、刀身はうっすらと光を放ち、パチパチと音が鳴る。
「ウワア!??」
なんかさっき見た奴と違う、驚いて刀を捨ててしまった。
というかまさか一発で成功?するとは予想してなかった。
「刃物を不用心に手放すな愚か者が!自分を切りつける事になるぞ!」
オーマの叱咤が飛ぶ、慌てて刀を拾いあげる。
「もう一度、今度は離すなよ。」
こちらを睨み警告する。
深呼吸3回、気持ちを整えて再度挑戦する。
炎、明るくて、熱く、強い力、刀にまとわりつかせ、圧倒する!
「フンッ」
勢いよく刃が飛び出す。刀身は眩く光り、弾ける音が響く。
「こ、これって……!」
どう見ても炎じゃなく、雷が纏っていた。
その光はすぐに消えた、音も聞こえなくなる。
「違う、雷じゃない。炎じゃ。」
それから芽吹きの種の時と同じ流れだった。
何度も繰り返すが、雷を纏うか何も出ない。水や土、風も試したが結果は変わらなかった。
【備蓄】と【付与】を繰り返しどんどん消耗していく、息が荒くなってきた。
「はあ、はあ、はあ、フウッ炎ォ!」
刀が熱を持ち、手ごたえを感じる。
「や、やったでkあちちちち”!?」
右手が燃えだした剣を手放し振り回すが火は消えない。
オーマが水魔法で消化してくれた。
「こ、怖かった……すっごく怖かった……!」
「自分の手まで燃やす奴がおるか愚か者が。……まあ、最初でここまで出来たなら良い方じゃ。」
「あの、雷を纏うのは……?」
「もちろん禁止じゃ。」
「そっそんなぁ、それはあんまりだ師匠ぉぉぉ。絶対、絶対に外で使わないから!それだけはァ……」
地面に突っ伏しながら懇願する。
「……仕方ないのう、魔法刀は雷で訓練するか。」
「ホントに?やったぁ!」
顔だけガバリと起こし笑顔になる。魔力を使い過ぎて体が重い。
「今日は終りじゃ、リズの飯を食う前に【治療】してもらえ。」
オーマが肩を貸してくれて、掴まる。
「そういや、準備手伝ってなかったなぁ。大丈夫かな。」
ズルズルと引きずられながら玄関に向かった。
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