第21話 魔とは何か7
小さく息を飲み、間合いを測る。
相手との距離、丁度振り下ろせば当たる間合い。刀をゆっくりと振り上げる。
【備蓄】から【付与】、刀身に纏わせる。発光も気づけない程弱く、音も無く纏わせる。
右足を前に、刃と並行に構え、狙いを定める。鋭く息を吐き振り下ろす。
下した瞬間、【付与】を最大限まで刀身に宿す、激光と雷鳴が刃に追従する!
乾いた音が鳴り響く。狙った獲物が両断されはじけ飛ぶ。
「こらー!そのやり方ダメって言ったでしょ!?」
「へへへ、つい……」
イーは魔法刀で薪を割っていた。
「てか、こんな使い方していいのかよ……」
ブツブツ言いながら作業を進める。
薪に刀を食いこませ、一緒に地面を叩く。綺麗に割れ破片も少ない。
まさか刀を貰い、最初に切るのが薪とは思わなかった。淡々と続ける。
オーマいわく、丈夫で刃も厚いからこんな作業に向いてるだとか。
それでいいのか魔法刀、もっとこう……繊細に使わないとダメとか?
初めて【付与】の訓練から暫く経つ、ゴーレムとの訓練も少し変わった。
てっきり魔法刀で戦うと思ってたのだが、まだ使ってない。
木刀と盾を持ち、腰に魔法刀を付けて挑んでいた。
鞘の長さと刀の重さは、予想以上に動きにくく、面倒だった。
何度も転び、その度に泥団子を投げつけられる。
魔法刀は今の所素振りだけだ。上下左右色々振らされている。
【付与】の使い方も詳しく教えて貰った。
魔法刀には常に魔力を流し続けるのではなく、当たる瞬間に多く流すらしい。
確かにそのやり方を実践したら、随分と長く刀を振れるようになった。
「これぐらいなら、研ぐ必要はないかな?」
薪割りが終わり、片づけていると、来訪者が現れた。
何か食べ物でも探して来たのだろう、鳥が地面を啄んでいる。
「……!」
なるべく刺激しないように、ゆっくりと急いで小屋に戻る。
「よし、今日こそ……!」
訓練の合間にスリングショットの練習はしていた。
的にもかなり当たるようになってきた。
狩りを禁じられているし遠くには行けないが、小屋の周りなら大丈夫だろう。
何度か機会はあったのだが、外したり逃げられたりと悔しい思いをしてきた。
道具を手に取り、さっきの場所に戻る。まだ鳥は遠くに行っていない。
「落ち着け、落ち着け、距離を詰めて当てる……」
小石を数個拾い、慎重に間合いを詰める。未だに飛び立つ気配はない。
鳥はこちらを見ようともしない、小石を挟み顎まで伸ばす。
狙いを定め、小石を飛ばした。
風邪切音と共に獲物へ小石が吸い込まれる。
「やった!」
急いで駆け寄る、しかしまだ鳥は動けるようだ、羽をばたつかせ飛ぼうとする。
慌てて2射目を放つ、狙いも適当に放ったそれは首に命中した。
もう飛べないのか鳥はもがいている。
獲物を両手で掴み小屋に転がりこんだ。
「やったよリーベスさん鳥だ!」
鳥を突き出し高らかと宣言する。それを合図に激しく鳥がもがきだした。
「ちょっイー君それッ」 「何をしておる首!首を折れ!」
「へぇ!?あっハイッ!」
言われたとおり首を掴み曲げる。
体験した事もない感触と共に、鳥から力が抜け、痙攣している。
自分が何をしたのかを自覚し、急激に冷めていく。
「よくやったの小童、早いとこ捌いてこい。」
「……えっ、あっぅ……はい……」
オーマの声で我に返る。先ほどまでの高揚感がすっかりなりを潜めていた。
「えっと、どうやって……やり方が……」
「……リズ、任せた。」
「えぇ!私ィ!?うーん……とりあえず血抜き、かしら?」
台所が血だらけになるのは避けたいので、川で捌く事になった。
何故この事を考えていなかったのだろう。
鳥を食べるには、殺して、バラバラにしなければいけない、そんな当たり前の事を。
ただ俺は狩りをする、そんな行為がしたいだけだったのか。
食べる為の行為をすっかり忘れていた。
落ち込みながら指示を仰ぐ、鳥なんて捌いた経験は無い。
「えーっと……首を切って血を出すのかな?」
言われるままに包丁で首を裂く。血がポタポタと川の中に落ち、混じり合う。
急に心がざわつき始める。驚いてる事を知らないでか、彼女は言葉を繫げる。
「んー……私も分かんないや、内臓とかも捨てるんじゃない?」
今度は腹を裂く、上手く包丁が入らず苦労したが、なんとか割る事が出来た。
中に手を入れる、気持ちが悪いハズなのに自然と手が伸びた。
まだ暖かい、柔らかな感触を噛みしめ、引き抜く。
内臓が外に現れ手の平から零れる。
その様子から目が離せない。なんだろう、この気分は、なんというか、とても
「綺麗だ……」
「え、何か言った?」
「俺今喋ってました?」
内臓を切り離し、川に捨てる。そのままゆらゆらと遠くへ流れていった。
「とりあえず、血と内臓はなんとかしましたが……羽は……」
「むしっておいて。ちょっと思い出しちゃった、後はよろしくね。」
「え、ちょっとリーベスさん!?」
そのまま小屋の中に戻ってしまう。
仕方ないので1人でむしる、中々に骨の折れる作業だった。
川に沈めながら羽をむしっていく、しかし、さっきの気分は……
「一体何だったんだ。」
調理した鳥は、少し臭いがきつかったが、とても美味しかった。
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