第19話 魔とは何か5

2人で唐突な食事をすませ、いよいよオーマと合流する。


リーベスさんの足取りは重かった。


「今から行く所はね、魔法使いの館なの。私達とは別のね。」


ボソボソと教えてくれる。


別の、とはどんな意味なのだろうか。流派が違ったりするのだろうか。


リーベスさんの話し具合から察するに、良好な関係は築けてなさそうだ。


進むにつれ、人の数が多くなる。


周りに荷車や樽が増えだした頃、館の前の到着した。


今まで見てきた民家、店を何軒も足したような立派な館だった。


中庭みたいな場所もある。


家の前では何やら話し合いが行われている。


低姿勢の男を、館の住人だろうか2人が相手をし、1人がその様子を見守っている。


丁度よくオーマが姿を現わす。


手を上げ、呼び止めるように接してくる。


「おお、2人とも先に待っておったか。」


「私達も着いた所よ。……やっぱりやめにしない?」


「ここで分けてくれれば一番楽じゃろに。」


男と話していた2人組がこちらに気付く。


すると突然怒鳴ってきた。


「ここへ何をしにきたのだはぐれ者!?」


唐突な反応をされ、狼狽える。


オーマは気にすることなく、リーベスさんは俯いている。


「ちょっと用があっての、セイウス?」


2人組の後ろに居た人物に話しかける。


 「先生に向かってその口の利き方は何だ!?すぐに立ち去れ!」


後ろから肩に手を置き、怒鳴っている奴を制する。


セイウスと呼ばれた人物が、こちらへゆっくりと近づいてきた。


 「何度も来るなと言ってるだろう、オーマ。」


オーマより若干年上に見える老人が、気だるそうに問いかける。


2人組は納得いかない顔で、こちらをにらんでいる。


俺と低姿勢の男は、なんでこうなったか理解できず、オロオロしている。


 「ちょっとコイツの服が欲しくての、お前ん所の小僧と背丈が似てるじゃろ?」


 「何しに来たかと思えば、フンッ物乞いか卑しい奴らめ……!」


後ろに下がった奴が、話に入ってくる。


 「別にタダでくれとは言っておらん、今から仕立て、となると面倒じゃし、金もかかるしの。」


 「くれてやるからさっさと帰れ、もう二度と来るな。」


 「先生!こんな奴らに慈悲なんて必要ありあせんよ!?」


 「レノー、スノを呼んで来い、服を持たせてな。」


 「ッはい……わかりました、先生。」


散々怒鳴っていた片割れが、館の中に入っていく。


 「慕われておるのう、いくら払えばいい?」


 「要らん、受け取ったら直ぐに帰れ。」


 「おっほ、儲けた儲けた。」


 「デル、後は任せた。」


 「はい先生。」


今まで一言も喋らなかった片割れが、初めて口を開く。


そうしてセイウスも館に入っていった。


 「まさか、そんな使用人を魔術に混ぜるとはな。相変わらず低俗な奴らだ。」


俺に冷たい視線を向け、言葉を続ける。


 「先生に感謝するんだな、はぐれもの。お前らなど、一生泥をこねて遊んでろ。」


言い放つと、こちらの存在を無視するかの様に、低姿勢な男と会話を再開する。


暫くして、こちらに走ってくる人影が。布の塊を持った少年だった。


息を切らし、俺に布を渡してくる。


 「はいこれ!渡したかんな、ありがと!」


何故かお礼を言われる。訳も分からず受け取ると、館の中から大声が聞こえてくる。


 「やべえ、なんか怒ってる。それじゃっ。」


慌ただしく少年は来た道を戻っていく。


 「さてと、要は済んだし帰るか。」


回れ右し、オーマは村の出口へ進んでいく。


増えた荷物を整頓し、オーマの後を続く。


横目でリーベスさんを一瞥する、彼女は小さく震えていた。


帰り道、足取りは重かった。


行きとは違い、大量の荷物を背負っているからだけではないだろう。


畑を抜け、村が小さくなると、オーマが荷物を下すよう指示をし、

地面を杖で軽くつつく。


すると、地面が動き出した。それを確認すると、そのまま進みだす。


荷物が一か所に集まり、地面を耕しながらオーマの後をついて行く。


 「泥をこねるのも、便利なもんじゃろ。」


幾分が帰り道が楽になった。しかし、相変わらず皆口数が少ない。


帰路の半ばを過ぎた頃、再び休憩をする。


水を汲みつつ、思い切って先ほどの出来事を尋ねた。


 「あの……さっきの人達なんですが、何故あんなに敵視されてたんです?」


 「ああ、あの弟子達か、昔セイウス本人とちょっとあっての。その件もあって目の敵にされとるんじゃ。」


水筒を受け取りながら、思い出すように語ってくれる。


 「二度とワシらは村に居住まない、だからよろしくとな。それが歪み伝わってあの態度じゃよ。水や土の技は軽んじられるし余計にの。」


 「水と、土の魔法が?こんなに便利なのに。」


 「……楽、とまでは言わないが、炎は3種の中で一番手軽に、そして強力な力を示せるんじゃ。勿論使い手しだいじゃの。魔法とは本来、戦の道具に過ぎぬ。水筒1つ満たすより、1人の土壁を作るより、1人を吹き飛ばすより、数十の敵を炎で舐めるのが求められる。」


 「そんな……」


 「国も炎とついで風、この2つの技を推奨しておる。混ぜれば数百の敵に跳ね上がるしの。」


次の言葉が見つからない。魔法とはもっと夢のある能力と思っていたのに。


修行の内容が妙に戦闘関連ばかりだったし、納得してしまう自分が居る。


 「だからの、あやつらは言うのじゃ。折角の魔法をそんな勿体ない事に使うな、無駄な事をするな、と。」


 「で、でもっ水や土って工夫すれば充分……!」


充分に相手を傷つける事が出来てしまう、オーマが操っていたゴーレムだって見方を変えれば……


 「そうじゃ、水や土だって役に立つ。ワシも昔はそう思っての、戦った。炎に比べ決して劣ってないと。じゃが……もう戦は嫌じゃ、こりごりじゃ。」


 「……」


 「だからの、魔法を戦以外の使い道を模索したのじゃ。長い時間をかけてな。その結果の一部が小童、オヌシじゃよ。」


バシバシと俺の肩を叩き、オーマは立ち上がる。休憩は終りのようだ。


荷物をまとた所でふと気になった。


 「でしたら何で、師匠は俺に魔法と武器の扱いを?」


 「……さあ、なんでじゃろうな。」


再び風車小屋に向かって歩き出す。それから会話は無かった。


目的地に着いた頃には、辺りが夕暮れに染まりかけていた。

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