第18話 魔とは何か4
「ちょっイー君それ邪魔よ!」
リーベスさんと一緒に朝食を作る、いつもと違って腰に剣を携えているが。
「え?そうですか?カッコいいじゃないですか。」
「いやだから邪魔だって、外してきなさい!」
「えー。」
金策の芽が無くなったのは痛いが、オーマから剣を貰えた事を考えれば、まあいいかと納得してしまう。
いよいよ冒険の始まりかと期待に胸が躍る。
刃物を携えるだけで魅了されてしまいそうだ。
結局刀は外さずに準備が終わる、腹ごしらえをしてさあ出発だ!
「ごはん食べるときぐらい外しなさいよ……」
気にしない気にしない。
出発の前に、大きな袋を数枚、それと外套を渡される。
最初の門の前で、2人が着てたような代物だ。
思えば懐かしい、引きずりこまれてこんな事になったんだっけ。
3人とも外套を身にまとい、準備をする。
「水筒は持ったな?小童、ちゃんと袋を縄で縛れよ。……では行くか。」
杖で軽く地面を叩き、オーマが合図する。村へ遠足の始まりだ。
「何も、起こらん。」
「どうした小童?腹でも痛いんか?」
ただひたすら川沿いの道を歩き続ける。最初こそは丘や木々の木漏れ日、広大な土地に感動したが、そればかりでは流石に飽きる。
しかも道がとんでもなく悪い。石がゴロゴロと転がっており、辛うじて草の生えてない道らしき物と格闘している。
今は休憩中で、川から水を汲んでいる。
直接口に付けようとした所で、リーベスさんに止められた。
「ちょっと待ってイー君、魔力を流さなきゃ?」
「どういうことです?」
「何もしないで水を飲むと、毒で苦しむ事があるわ、しっかり魔力を通さないと。」
「……初耳なんですけど。」
いままで散々訓練の後に川の水を飲んでいる。水浴びだって派手にしている。
「水の中に潜んでいる毒をな、魔力で浄化するんじゃよ。」
「そんな事聞いてませんよ!?」
「そういや言ってなかったの、今まで大丈夫じゃったしうん。」
人をなんだと思ってるのかこのジジイは。
毒、とは言っていたけど細菌とかの事か?天然の水は飲んじゃいけないとは何かで聞いた様な。
「てかリズや、ちゃんと教えてなかったのか?」
「ごめんなさい、食事を作れたりしてたから、知ってると思って……」
「いやいいですよ、知らなかったこっちが悪いし。」
リーベスさんだって忘れる事もある、仕方ない。
「魔力を流すって、いつもやってるあんな感じでいいんですか?それで毒が無くなると?」
「そうよ、魔力はそこらじゅうに存在しているけど、一定以上の量に触れさせると毒が無くなるのよ。」
「なるほど……」
水を水筒に移し、魔力を流す。変化は分からないがこんなものだろうか。
休憩が終わり、再び歩き出す。日が昇り切り、足が痛くなってきた。
オーマとの魔法訓練?が無かったら根を上げていただろう。
足元の悪い下ばかり見ていると、リーベスさんが指をさす。
「ほらもう少しよイー君、見えてきたわ。」
首を持ち上げると、茶色い塊が見えてくる。どうやら目的地はもうすぐらしい。
畑の大群を抜けると、村の概要がうかがえる。
村と聞かされていたので、小さな集落と想像していたが、かなり異なっていた。
回りを丸太で囲まれ、ちょっとした砦みたいな雰囲気だった。
外周には屋根しかない小屋みたいな施設があり、そこに……あれは何だ?
4足歩行で首が少し長い動物がいる。体毛はびっしりと生え、色が白い。
「リーベスさん、アレは何です?」
恐る恐る謎の動物を示す。
「え?アレは馬よ。」
「えぇ!アレが馬ァ!?」
近づくと、体毛は鳥とそっくりなフワフワで、顔にクチバシが付いている。
「おいお前!なにをしている!」
突然大声が聞こえる、声の方向から武器を携えた人がこちらに向かってくる。
「馬から離れろ!はやくしないか!」
慌てて馬らしき動物から飛びのく。
オーマが駆け寄り、大声の主と何やら話し合っている。
暫く話し合った後、軽く引っ張られ、オーマに連れていかれる。
「余計な事はするな、入るぞ。」
黙って連れていかれると、門に到着した、小屋程ある立派な門だ。
門の隅に小さな人の列があり、3人でそこに並ぶ。
列が順調に捌けていき、俺達の番になった。
「名を名乗れ。」
「風車小屋のオーマ、後ろはリーベスとイー。」
何やら小さな木片を差し出し淡々と答える。
「……いいだろう、通れ。」
あっさりと通され、拍子抜けながら進んでいく。
思っていたより人が多く、活気があった。
一瞬周りが静かになる。辺りを見回すと、どうやら俺達を見ているようだ。
2人とも慣れた様子で、気にしていない。
「ワシは別で回る、小童、袋を一枚よこせ。」
「ああ、うん。」
背中に背負っていた袋の束を解き手渡す。
「リズ達は食い物でも買い込んでおくれ、終ったらあの館で会おう。」
「……分かったわ。」
そうして別行動になった、リーベスさんに疑問をぶつけてみる。
「あの……小さい村じゃなかったんですか?なんだかすごく賑やかなんですけど。」
あの視線はなんだったのかと、流石に聞く勇気は無かった。
「大きさ自体はそこまでじゃないの、ただ隊商が寄りだしてから、人の出入りが多くなったんだって。お爺ちゃんが言ってた。」
「そうなんですか、確かに。人の割には建物が少ない様な……」
先ほどからすれ違う人にジロジロ見られてる気がする。
食料を集めてる時も、対応が冷ややかに思えた。
背中の袋が大きく膨れてか、運ぶのに苦労していると、リーベスさんが明るく励ましてくれる。
「さ、頑張って。次で最後だから。」
今度はパン屋らしい。重い荷物を運びながら、ゆっくりと入店した。
「いらっしゃい!あら、リーベスちゃんじゃない。いつものでいいの?」
「こんにちはおばさん、今日はいつもより多くお願いしたいの。」
先ほどとは裏腹に、店の対応は明るかった。
「そちらの方は?」
「今うちで面倒みている、弟弟子かな?」
「あらまあ彼氏?もうそんな年になったのねぇ~」
「違います。まあ1人分多くしてください。」
「んもう照れちゃって。そうねえ…………金の半貨かしら。」
「この前より値上がりしてない?もうちょっとなんとしてよ。」
「最近物騒でねぇ、ちらほら出るらしいのよ。これつけてあげるから許して。」
大きなパンの塊複数と、小さなパンを1つ渡される。
「焼きたての奴だからね、美味しいわよ~」
「おばさんにはかなわないなぁ……」
渋々と銀貨の袋から、かなりの枚数を渡す。おばさんが時間をかけ、確認すると笑顔になる。
「はい、ありがとね。また彼氏さんと一緒にね~」
「おばさんありがとね~」
さっさと出ていくリーベスさん、急いで袋にパンを詰めていると、おばさんに話しかけられる。」
「リーベスちゃんを、よろしくね。」
声の明るさが抜け、真面目な雰囲気でお願いされる。
「?はあ、わかりました。」
荷物をまとめ、店を後にする。外ではパンを片手に待っていてくれた。
「さあ、行きましょうか。その前に。」
半分に割ったパンを口に突っ込まれる。
いつもの硬いパンとは違い、香りが豊かで美味しい味だった。
「はい、荷物持ち代。おじいちゃん先にの方も終わっているといいんだけど。」
もごもごと返事をし、後に続いた。
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