第15話 魔とは何か
雷に似た現象を起こしてしまった。
何度も種に魔力を流したが、眩い閃光が手のひらに生まれ弾ける音が聞こえた。
四種の基礎とは別の魔法、すなわち未知の魔法の分類だとわかった。
オーム達はうんうんと悩んでいる。
一方俺は、とても喜んでいた。
まさか自分の能力が異能の中の異能、特別な能力であるのが嬉しかったのだ。
もしかして選ばれた人間じゃないのかという気持ちが生まれつつあった。
「うむ……とりあえず、小童の得意魔法は雷というのがわかった。しかし残念ながら前例が無い、小童の長所を伸ばしてやる事は出来ぬかもしれぬ。」
いきなり新種の技が見つかったのだ、それは仕方ないだろう。
「それともう一つ、その魔法を外で絶対に使うな。どうしようもない事態、例えば命に関わる事以外ではな。」
「なっなんで!?これが俺の得意魔法なんでしょ!もったいないって話じゃないですよ、これ未知の魔法なんでしょ!?」
いきなり制限しろとは酷すぎる、せっかく特別な力を手に入れたのに使わない方がおかしい。
「よいか、これはオヌシの為でもあるのだ。未知の魔法とは、小童が考えてる程簡単な問題じゃない。世界の法則が、これまであった決まり事が意味をなさなくなるかも知れん危険な技なんじゃ。」
「だったら門だって危険な存在じゃないんですか!?」
どうしても納得出来ない。
「ワシは特別、とまでは言わん。じゃが、歳のおかげかの、分別は今の小童よりはある。それに最初に誓いを忘れたか?力に溺れる事成らず。もう一度胸に刻め。」
そういえば弟子入りの時、何か言われた気がする。
「もう一度いうぞ、魔の技の信徒となりて、末席に加わり、理を見つめよ。力に溺れる事成らず、誰によるべぞ、己で見よ。」
「……」
「今小童が感じてるソレは、魔法使いなら誰でも経験するもんじゃ、悪い事じゃない。だが教訓を常に意識しろ、とても大切な事じゃ。」
「わかり、ました。」
完全には納得出来ない、でも納得しようとする努力は出来る。
さっきまで調子に乗っていたと自覚し、少しだけ顔が熱くなる。
「何も魔法を全く使うなとは言わん。まあ見せびらかすのは、はばかられるがの。それに未知だけが魔法では無い。これから様々な魔法を操る修練が始まる、心してかかれよ。」
いつもより柔らかい物腰でオーマは諭してくれた。
今日から新しい段階に進むのだ。それに外では使うなって言われても、そもそもこの小屋から離れた所は全く知らない、つまり今までと何も変わらないのだ。
オーマは最初に忠告しておきたかったのだろう、いつもはクソジジイに思えるがやはり師匠なのだ。
「そうだ、リーベスさん。」
「何かしら。」
「食事の片付けましょう、放っておくと汚れがこびりついてしまうかも。」
「……そうね、さっさと終わらせましょうか、片付いたら早速新しい訓練しましょう。」
「宜しくです姉弟子。」
「さっ、行きましょうか。」
2人でいつもの仕事に向かう、その後姿をオーマは満足そうに見守っていた。
遅めの後片付けを済ませたのち、ついに魔法の実習訓練に取り掛かる。
珍しくオーマも教える事があると授業に参加してくれた。
何やらリーベスさんとやり取りをしたが、そのまま後ろで見学をするらしい。
「では、始めようかしら。芽吹きの種で得意な魔法を調べ、最初はそれを延ばすのだけど……イー君は特殊な例だから、私達が得意とする水系統の魔法から訓練しようかしら。水は応用の幅が広いしオススメよ。」
少し強張った顔でリーベスさんが説明してくれる。
俺は黙って首を縦に動かした。
「まずは、これね。」
テーブルの上に置いてあった2つのコップを示す。
1つは水がなみなみと注がれ、もう1つは空になっている。
「最初の課題はコップの水を移し替える事、見ててね。」
リーベスさんは水入りのコップに手をかざし、ゆっくりと上に持ち上げる。
すると水が手の動きに合わせて持ち上がったのだ。コップに入っていた状態まま固まり、宙に浮いている。
息を飲んでいると、そのまま別の空のコップに水を差し込む様に入れた。
リーベスさんが手をかざすのを止めたので慌ててコップ達を覗き込む。
少しだけ水は残っているが、最初に入れてあった容器は空になり、見事に移し替えられている。
「すご……」
「とりあえずこれを目標に頑張りましょうか。」
得意げに胸を張るリーベスさん。
「まずはコップに手をかざして、最初は両手ね、包み込む様に、一度に全部の水を移すんじゃなくて少しずつよ。」
言われた通りコップに手をかざす。暫くその姿勢を保ったが次の指示が来ない。
疑問になってリーベスさんを見つめると、慌てて付け足す。
「ああ!ああそうね、えっと……水を動かそうと集中して。いつもの瞑想みたいに魔力を流すの。手の間にも流れを作る感じで。そして水を意識して、透明な透き通る、どんな形にもなる。無くてはならない存在……」
両肩に手を当てらて驚いたが、気にしないようにひたすら水に意識する。
すると水面が少し動いた、気がしたが。
「その調子よ、流すだけじゃ水が零れてしまう、細い一本の管を想像して、その中で循環させるのよ。狭く細長い場所でグルグル、グルグル……」
グルグル、グルグル、念じていると、確かに水面に動きが見える。
「ゆっくりと手を上に、管を壊しちゃダメよ、グルグル、グルグル……」
水面が上に引っ張られる、ゆっくり、ゆっくりと管を持ち上げる。
本当に小さな、小さな滴が水面から生まれた。
「ウオッホン!」
突然オーマが大きく咳払いをする。
水の世界に没頭してた意識が切り離され、滴が水に戻る。
「突然なんだよ爺さん!?」
「何が爺さんじゃガキがァ!?そんなに引っ付く必要もないじゃろリズ。」
「え?」 「え?」
2人で気の抜けた声を発する、振り向くと予想以上にリーベスさんの頭が近かった、一緒になって水面を凝視してたらしい。
「えっ、あっゴメンナサイッ。」
弾けた様に離れるリーベスさん、そして全力で元の水面に視線を戻す俺。
「あ、え、と、水滴が持ち上がりました!これは俺が動かしたんですよね!?」
「ええ、そうね、確かに私も見てたわ。おめでとうイー君、初めての魔術行使よ!」
わずかの水をちょっと持ち上げる、それが今俺の能力。
それでもこんなに嬉しいのは何故だろうか。
コップ全てを持ち上げてしまったらどうなってしまうのか。
何度も何度も挑戦した、時間を忘れ行った。
この世界に俺と水しか存在しないくらい想いをぶつけた。
そして遂に、
俺は意識を失った。
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