第16話 魔とは何か2
頬の冷たい感触で気付く、いつの間にか顔に水がかかっていたらしい。
そんなに高く上げたつもりはなかったのだが、気持ちを切り替えて挑戦すると色々とおかしい。
机に向かっていたハズなのに突っ伏している、顔に水が跳ねたのではなくコップが倒れ水がかかっていたのだ。
慌てて座り直そうとしたが体に力が入らない、オマケに目眩や吐き気、頭痛に冷や汗、体調が滅茶苦茶に酷い。
突然降りかかった自身の状態が理解出来ず、呻き声を発していると、上から話声が聞こえる。
「その調子じゃ、もう少し強くしても大丈夫かの。」
「うん、やってみる……!」
首に誰かの手の感触、不思議と不快な気分にはならない、むしろもっと触って欲しい。
少し呼吸が楽になり、息をゆっくり吐き出す。
「おお気付いたか小童、初の魔法酔いはどんな気分じゃ?」
「……最悪です。」
大分マシにはなったが相変わらず気分が悪い、不機嫌を隠さずオームに目で訴える。
「魔法を使うと魔力が減る、魔力が底をついたら魔法は使えない。」
リーベスさんの授業で習った通りだ。この状態が魔力切れなのだろうか。
「じゃが実はの、魔力を使いきっても魔法は使えるんじゃ、気力や命を使っての。」
絶句した、空いた口がふさがらない。
「まあ、寿命が削れるって事は無い、多分。それに魔力切れになったら兆候が表れるんじゃがの。力が入らなくなったり視界が狭くなったり、疲労と似ているから見分けが難しいが……よっぽど集中していたんじゃな、そこは褒めてやる。」
「なら、今リーベスさんがしてくれてるのは、魔力を分けて貰ってるんですか?」
会話中も首から手を離さず、集中している。ちょっと恥ずかしくなってきた。
「正確には違う、小僧に魔法をかけているんじゃ。ワシらは【治療】と呼んでるの。」
「【治療】ですか、病気や傷とか治すんです?」
「そんな便利な魔法ありゃせんわい、魔力を流すと同時に体の流れを主に水魔法で助けるんじゃ。気や体の調子を整えやすくし、ただ魔力を流すだけでなく回復しやすい状態にするのじゃよ。」
直接治すのではなく間接的に治していくのか。ゴーレムや水を操ったりするのだから、お約束の回復魔法とか存在してると思っていたが、どうやら違うようだ。
「なら大けがしたりしても【治療】は意味ないんです?」
「うむむ、完全に無意味という事はないが……まあ少しは治りが良くなったりはするんじゃないかの?少なくとも気を静めたり落ち着いて行動しやすくなるからかけて損はないかの。」
そんなに効力の強い魔法ではないのか。
「その内お前も使える様になるさ。リズ、もうそろそろいいじゃろ。」
首から手が離れる、呻いていた頃より格段に体調は回復した。
「ありがとうございます。」 「いえ、こちらこそ。」
何故かリーベスさんにもお礼を言われ困惑する。
「しかしリズ、ようやった!ちゃんと出来たじゃないか、偉いぞォ!」
「ちょっとやめてってば、恥ずかしい……」
凄い喜ぶ様を見せつけられる、よほど難しい魔法なのか。
「今回はボンってならなかったじゃないか、もう自身を持つがよい!」
「…は?ボンってなんです?」
「あはは……」
「次から小童への【回復】はお前に任せる、頼んだぞ。」
「が、頑張ります。」
「ねえボンってなんです?」
「じゃあワシは戻るからの、次は【備蓄】のやり方を教えるんじゃぞ。」
オーマはそそくさと自室に戻る、ボンってなんだよ。
「リーベスさん。」
「それじゃあ次は【備蓄】を……」
「リーベスさん。」
「むぐぅ、姉弟子の言葉は絶対!次は【備蓄】よ!?」
「……はい。」
納得いかないが納得する事は出来る。さっき実践したばかりだ。
「そんな怖い顔しないでよ……ちゃんと教えるから、いつか。」
「はぁ、とりあえず【備蓄】って何ですか?」
「魔法と言うよりこれも瞑想に近いかな?対象に魔力を注いだり引き出したりするの、【治療】も【備蓄】の一種かしらね。」
リーベスさんは何かを取り出す、が、何か思いついたのか手を止める。
「そういえばイー君、まだあのガラス玉持ってる?」
「え?あれですか、確か下に転がってたハズ。」
リーベスさんに1つ譲った後、寝る前の暇つぶしに転がしていたら、石の間に挟まった。
取り出すのが面倒になったのでそのままにして放置してたのを思い出す。
「こ、転がしている、まだあるのなら取ってきて頂戴。」
「はあ、いいですけど。」
生返事一つ返し、地下室に向かう。確かこの辺りに……あったあった、3つ共見つける事ができた。
しかし1つはがっちりと挟まっており、回収出来なかった。2つだけを持っていく。
ガラス玉を手渡す、1つは返された。
「よし、これを使って【備蓄】を練習しましょう。やる事は簡単、このガラス玉に魔力を込めるのよ。」
とりあえず種の時みたいに握ってみる、徐々にガラス玉がぬるくなるのが感じれる。
「まずガラス玉を体の一部と考えて魔力を流す、水の時みたいにグルグル、流れの渦を意識してガラス玉の中で、徐々に流れを大きくしてため込む様に流すの。行き止まりって考えても分かり易いかも。」
またグルグルか、リーベスさんこの言い方が癖なのか?
「本当は最初に【備蓄】の練習なんでけど、お爺ちゃんちゃんがね、魔力酔いを経験させたかったらしくて、ごめんね。」
「いいですよ、良い勉強になりました。」
二人でガラス玉を握りしめながら軽く会話をする。実際アレを経験すればいい薬になる。
暫く続けていると、リーベスさんが握っていたガラス玉を差し出す。
「もうそろそろかしら、じゃあ次はガラス玉から魔力を引き出しましょう。イー君のを頂戴。」
言われて同じく差し出す、ガラス玉を交換して再び握りしめる。
「人には魔力の特徴があって自分以外の魔力を吸収すると何かしら違和感?が、あるのよ。お爺ちゃんのは全然違和感を感じないのだけど。」
「へぇ……師匠はやっぱり凄いんですかね?」
「勿論よ!優秀じゃなかったら門なんて開ける訳ないじゃない!」
少し言葉を強く、リーベスさんが言いきる。
「とにかく、魔力を引き出すの。また体の一部に、今度は渦を引っ張るみたいに……」
引っ張る、引っ張る……念じながらガラス玉を握りしめる。
すると手のひらから体全体にじわじわと感触が広がる、爽やかでなんと言うか……
「……ヌルヌルしてる。」
思わず口に出してしまった。ヌルヌル、これ以外の言葉が見つからない。
「なっヌルヌルって何よ!失礼ね!?そう言うイー君は……んっんうッ!?」
突然変な声を上げるリーベスさん、思わず反応してしまう。
「なんか、ビチビチしてる。」
「そう、ですか。」
ビチビチのイーとヌルヌルのリーベス、お互い何とも言えない顔で見つめあった。
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