第14話 知と身と心8

 朝起きて稽古の準備を整える、石で囲まれた地下室の寝床にも大分慣れた。


門を潜りのんびりと支度を整え、オーマが来るまで外で体をほぐしていると、二階の部屋辺りに人影がチラつく。


ガラス等付いてない窓から、伸びをしているリーベスさんが見えた。こちらには気づいてないのか油断しきった顔で朝日を浴びている。


朝から良い物は見れたと気持ちの悪い笑みを浮かべながらニヤニヤしているとオーマが姿を表す。


今日の魔術訓練は投擲の練習だ、オーマが泥団子を山の様に積み、それをひたすら投げる。


突然現れるゴーレムに向かって、走りながら、座りながら、寝ながら、片手で、両手で、兎に角投げる。


オーマは横目にそれを見ながら、パチパチとプラモデルを作っている。この前砕いてしまった代わりに、新しいのをこちらの世界で組み立てようとしたのだが、自分で作るとオーマが言いだしたのだ。


幸い言語や文字は俺と同じらしいし、字が読めなくても図を見れば組み立てられる親切な商品なので、特に考える事も無く道具とプラモを渡した。


外で作るのは大変そうだが、どこからか粘土の机椅子が出現し、オーマの回りには何故か風が吹いていない。


後から年寄りなので手元が心配になったが、難なく組み立てている。


感心して眺めていると、ゴーレムが泥団子を投げ返してきた、慌てて訓練に戻る。



暫くヘトヘトになりながらも泥合戦をしたら終了の合図と共にゴーレムが消える。


終わった事を確認すると川へ飛び込み、汗と土を落とす、そんなに深い川じゃないので、泳ぎの練習みたいに寝転がりながらジャブジャブと汚れを落とす。


さっぱりしたのでオーマに仕上げをお願いする、こちらを見る事なく手を向けると、水が体や服から離れてゆき、乾いたイーが出来上がる。


食事の準備を始める前にスリングショットの練習をしようとすると、オーマが呼び止める。


 「まだまだ足りんが、まあいいじゃろ。飯が終ったら地下室で待っとけ。」


 「なにか実験するんです?あ、もう門を半分潜ってアレは嫌ですよ!?」


 「簡単な適正検査じゃ、お前の得意系統を調べておかんとリズが困るであろう。」


 「なんのです?」


 「お前は今までワシと何をやっておったか?」


 「えっと、体を鍛えて立派な戦士に……えっまさか……!」


 「もうそろそろ術を触ってもいいじゃろ、ワシこれ作るし。」


 「いっ」


 「いやったああああああああああああああ!!!」


やった、やっとだ。毎日毎日泥に塗れながら体を酷使し、謎の実験をさせられ、

家事に仕事の手伝いと何がしたかったのか忘れる位の日々だった。


まあそれも何だかんだ楽しかったが。


ウキウキと朝食を作り、あっという間に平らげる。


 「師匠早く、早く地下行きましょう!あ俺下で待っときますね!!!」


 「落ち着かんかい馬鹿もんが、ワシらが食べ終わるまで待っとけ。」


 「はいっ!」


 「そうよね、今まで座学と体術しかやってなかったもんね。」


リーベスさんは少し引きながら庇ってくれる。


 「ちゃんと属性の話は覚えてるか小」 「炎、水、風、土、4種類の基礎属性があり人には最低でも1つの得意属性があるんですよね!それを専用の魔術道を通して発現させて得意属性を調べるんですよね!?」


 「……ちゃんとリズの授業を聞いておるの、大体そうじゃ。」


この日をどんなに待ち望んだか、早く特異な能力を操りたい。


 「ちなみにワシは水と土の2種が得意じゃ、凄いじゃろ!」


 「私は水、大体の人は水か土のどちらか」 「生まれや住んでいる場所で決まってくる」 「もういいから。」


一刻も早く知りたい、炎とか風とか珍しいのがいい、なんか強そうだし。


余りにも落ち着きが無いので渋々とオーマ達は食事を終え、片づけを後回しにして地下室に向かった。


オーマがゴソゴソと魔道具を探してるのを凝視しながら待った。リーベスさんが忠告してくれる。


 「とにかく集中して力を巡らせる事を考えるのよ。落ち着いて集中、魔法を使おうとか考えちゃダメ、分かった?」


 「……はいッ!」


深呼吸を数度し興奮を抑える、いつも授業でやってた体に流す瞑想をする。


毎日やっていたおかげか自然と心が収まってきた、これなら大丈夫、と思う。


オーマが魔道具を見つけて俺に手渡す、ガラス玉より二回り程大きい乾燥した木の実みたいな道具だった。


 「芽吹きの種と言う。それに魔力を流すのを念じろ、瞑想と同じじゃ。ただし循環させるのではなく貯めるように。」


種をゆっくりと握る、目を瞑り種に流す様にゆっくりと意識する。


 「急に入れるのではなく少しずつじゃ、何か変化があれば静かに申せ。」


返事はせずに集中する。


暫く瞑想を続ける、種が少し湿った感じがした。


 「師匠、種が濡れてる感じ


---パチンと小さな弾ける音がした、目を開け種を見たが特に変化が無い。


困惑しているとオーマが近づき、種を握ってない逆の手を掴む。


オーマの手から何やら力が感じ取れる、これが魔力なのだろうか。


 「今、オヌシの体にワシの魔力を少し与えた。もう一度、今度は素早く大きく流してみよ。」


オーマはリーベスさんと一緒に距離をとると催促してくる。


種を強く握り、次はどうなってたのか注目して一気に力を流す。


まばゆい光と共にバチバチと聞きなれない音が鳴る。


思わず足がもつれ転んでしまう。これは、まるで……


 「雷、か。」


オーマは重苦しく呟く、一時の間誰も言葉を発しなかった。



四種のどれでもない基礎属性、雷が俺の得意属性だった。

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