第13話 知と身と心7

 「オヌシが、狩り?満足に体も動かせん小童が?冗談じゃろ。」


酷い言いぐさのオームだが、こちらには秘密兵器がある。

紙袋にしまってあるのを食事前に持ってきてたのだ。


 「狩りに使えそうな道具を持ってきました、これです!」


袋から取り出して2人に秘密兵器の箱を見せる。今回持ってきたのは……これも名前が出ない、いい加減にしてほしい。


 「すりんぐしよつと、い……ぐる……何じゃこれ?」


 「これの名前分かるんですか師匠!?」


 「古式人語でここに書いてあるじゃろ、小童が持ってきたんじゃから……また例の痴呆か?」


慌てて箱の表面を見る、スリングショットイーグルファイブ。

さっき思い出せなかった名前だ。


 「と、ともかくこれです、この道具で小さな石等を飛ばして鳥に当てるんです。」


疑問は置いといて箱の中身をテーブルの上に置いた。

素早く掴み盗りオーマがじっと見つめる。


 「これは……うおっと、紐が伸び縮みするのか。不思議な素材じゃのう、小型の投石器みたいじゃな。」


 「こうやって使うんですよ。」


オーマからスリングショットを奪い返す。


左手を突き出し台座を握って固定してから、右手で紐の中間支点にある皮を掴み、顎の下でまで伸ばす。


掴んでいた皮を離すと勢いよく左手方向に向かっていく。勿論紐に繋がっているから皮は飛んでいかないが、一緒に小石等を掴んでいるとそれが飛んでいく仕組みだ。


再びオーマが掠め取り、動きを真似して感心する。


一方リーベスさんは箱を手に取り、ひっくり返したりしながら訪ねてくる。


 「随分と綺麗な箱ね、良い物じゃないの?素材は、木材かしら?それにしては薄いしツルツルしてるわね。」


 「多分それは厚紙ですよ、表面は塗装してあると思います。詳しくは分かりませんが。」


 「これ紙でできてるの?フーン……」


そういえば写本した紙はもっとゴワゴワして書き辛かったな、今度一緒に安い紙でもお土産にしようかな。


 「成程な、して小童、狩りの件じゃが。」


 「これなら鳥ぐらいなら仕留められませんかね。」


 「うむう、まあいけると思うが、今はまだ駄目じゃの。」


 「えええ、なんでです……?」


 「オヌシはまだこちらの世界に慣れてない、未だにこの家の周りにしか体験しておらん。さっきも言った様に体も貧弱、身なりも珍しいと来た。」


 「ぐむむ……」


最初の時よりかは体も鍛え、武具を操れるようになったが、オーマと言う通りかもしれない。未だに自分の振った剣で自分を叩いてるし、ゴーレムの手加減が無かったら何百回か死んでる気がする。


 「まあ、今はと言うとるじゃろうに。もう一月程……いや半月位か、その時また考えてやらんこともない。」


 「まだ訓練するんですか、いい加減魔」 「当たり前じゃろ、鍛えるのには終わりが無い、ワシが納得するまでだ。」


魔法使いになりたいのにこのままでは戦士になってしまうのではないのか、知識は少しずつリーベスさんに教わってるが。


 「リーベスさんもこんな訓練してたんですか、凄いですね。」


 「リズはお小僧と違って特別じゃ!ワシの孫で才能も素晴らしい、武器なんか持つ必要は、無い!!!」


リーベスさんが苦笑いしている、今の説明で十分理解できた。


 「勿論私も体を動かして調子を整えてるわ、イー君程じゃないけど。」


 「わかりましたよこれからも続けますよハイ……さっき服装の事話してましたが、やっぱ変ですかね。」


 「変じゃな。」 「変ね。」 分かってたけど面と言われると結構キツイ。


 「その恰好じゃと人と鉢合わせたら厄介じゃの、ワシの古着でも……大きさが合わんか。」


 「ちょっと、ブカブカになっちゃうかしらねぇ。」


 「ていうか他に人って何処に居るんです?2人以外誰も会った事ないんですけど。」


朝、訓練していても一人っ子居なく、鳥ばかり鳴いている。

回りを見渡しても家らしきも一切ない。


現在根城にしている場所は、2つの川ぶつかり合って1本になった所に、ポツンと立っている元水風塔、ここに設備のある建物があるのに回りに集落が形成されてないのは何故だろうか。


 「ここから北へ暫く行くと村がある、たしかに滅多に人は来んな。」


 「そこで食べ物や生活用品を交換しているのよ、私達は写した本や魔道具を持ってね。そんなに大きい村じゃないけど隊商が偶に来るのよ。」


「そういえばもうそろそろかの?早いとこ写本を終わらせねば。」


「所で前から思ってたんですけど、なんで風車小屋に住んでるんです?隊商が来たり買い出しするなら尚更村に住んだ方が良いんじゃ?魔法を秘密にしてる訳では無さそうだし。」


得体の知れない異世界の俺に教える位だ、一族秘伝を技って訳では無さそうに感じる。


「うん、まあ……色々あるのよ。」


「ちょっとした取り決めの様な事があるんじゃ、気にせんでええ。」


あまり面白い話ではないのか、2人の反応は歯切れの悪い雰囲気だ。


慌てて話題を変える。


「そうだ、村には服屋とかあるんですか?隊商で買うとか。」


「そうねぇ、服は高いし、体格が似てる方に売って貰うとか。でも似てる人って言うと……」


「スノとかどうじゃ、あの小僧なら小童と似てるであろう。」


「でも……いいのおじいちゃん?あの人達とあんまり関わらない方が。」


「平気じゃ、気にする事はない。」


スノって何だろう、多分人名とは察するが、あまりリーベスさんは乗り気じゃないらしい。


「何か都合が悪いなら別に服は……」


「平気と言っておるだろうに。飯も片付いた、早く皿を洗ってワシの部屋に来い、本を完成させるぞ。」


そう言うとオーマはそそくさと自室へ足を運んだ。


俺達も片づけに取り掛かる。結局リーベスさんには、スノや何故村に住まないのかは聞けなかった。

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