第12話 知と身と心6

 こうして新しい生活は始まった。


初日の訓練がキツくて早々に自宅へ戻り丸一日休んだが。


しかしこっちの世界について、ちゃんと説明出来なかったのは不味いだろう。


飛行機や自動車の説明もフワフワとした事しか喋っていない。


この記憶が抜け落ちる様な現象は何なんだろう。


未だに自分の……名前も思い出した。


冷静に考えてみるとちゃんと飛行機、自動車って名称が浮かぶ。


贈ったプラモだって分かるしここは日本、記憶が戻った!


いつもの様に慌てて門に小走りし、あちらの世界に向かう。


オーマの部屋の扉を勢いよく叩いた。


 「師匠、記憶が戻りました!ちゃんと俺の世界説明できます!!!」


 「お前は礼儀を知らんのか……まあいつもそうか、んでどんな事を思い出したんじゃ?」


 「まず住んでる所は……ええと、空飛ぶ乗り物は……ああ自分の名前は!……」


 「まだ疲れが残っておるようだの、また明日な。」


 「ちょ、ちょっと待って!向こうの世界に戻ったらちゃんと思い出せたんです。色々な事、それに名前だって……!」


 「向こうに戻ったのか?何故じゃ?」


 「え、いやっえっと……休憩しに……」


 「ふむ、時間の流れが可笑しいと、そういう芸当が出来るのか、修練の量を増やすか。」


 「それは無いですよ師匠ォ……」


 「だがしかし、向こうに戻ったら記憶が戻ったのか?やはり原因は門にあったようじゃの。」


 「何に使う物とか、知識はちゃんと覚えてるんです、でも名称なりがすっぽり抜けてるみたいで……」


 「うむむ……それは全てこちらに無い物かの?」


 「そういえば、そうですね、全て向こうにしか無い品や場所ですね……!」


車は馬車なりあるから喋れたのか?


空飛ぶ乗り物や俺自身はこちらに存在してないからか?


 「だが小童、オヌシ最初に来た時にスマーホと叫んでおったではないか?スマーホやらはこちらにもあるのか?」


 「いや、絶対に無いと思いますが……」


スマホだけではなく、ゲーム機もこちらに無いハズなのに名前を覚えている。


無い物が抜け落ちているならば、それらの名前が分かるのはおかしい。


悩んでいると、ふと2つの共通点を見つけた。


 「両方共、こっちで壊れたんだ……」


 「ん、なんじゃと?」


 「こっちでスマホを、壊したんです、2回目のお土産に持ってきたゲーム機、これはおもちゃですがこちらには無い、スマホみたいに爆発して壊れた品なんです。」


壊れた物が名前が判明するとしよう、ならば自分が壊れれば、名前がこっちでも……分かるのか。


 「……」


 「つまり、お前が死ねば名前が思い出せるようになるのか、よかったのう。」


 「……多分、死んだら名前を思い出せないんじゃないかな……」


考えたけど口に出したくない事を言ってくれた。こうして思案していると何かオーマは思いついたようだ。


 「よし、壊してみよう!ちょっと来い。」


 「嫌です、絶対に、嫌です!」


 「残念だが小童じゃない、あの騎士人形じゃ。」


そう言い残して部屋の中で消える、俺も後を追った。


 前に入った時と同じ部屋。


違うのは机に飾ってある人形と、書きかけの書物と本、夜光石ぐらいだ。


 人形を手に取り、俺に渡してくる。惜しむ視線を感じる。


 「じゃあ、やってみてくれ。」


 「本当にいいんですか?分かりました、行きますよ、フンッ」


手に部品が刺さらない様に、気を付けながら人形を砕いた。


白っぽい部品がバラバラと零れ落ちる。


 「……何か、分かったか。」


白い人形、組み立て式のおもちゃ、昔に作った品だ。


つまり何も思い出せていないのだ。


その事を使えるとがっくりと肩を落とす老人が居た。


 「今度新しいの持ってきますから、そうがっかりしないで。」


 「約束、じゃぞ?はぁ、続きをやるか……」


 「何かしてたんですか?」


 「ああ、ちょっと写本をな、もうそろそろ仕上げないと今度の交換に間に合わなくなる。」


写本ってあの見本を参考に複製する作業かな、何を書いてるんだろう。


覗き込んで内容を読んでみる。


 「えーっと、『いだいなるしそは、みちをしめした』なんですこれ?」


 「小童、字が読めるのか!?」


 「ええ、まあ……」


これが異世界語とはにわかに信じれないが、いつも使っている文字が羅列してある。


 「それを早く言わんかい!オヌシやはり貴族か何かか?」


 「そんなんじゃないですって、多分平民です。」


 「だろうな、まあ良い小童も手伝え、読めるならある程度は書けるだろう。」


こうして条件に写本の手伝いも追加された。


紙の質が悪く、羽ペンなんで使った事も無いので悪戦苦闘した。


 朝起きると訓練、朝食関連、洗濯、掃除、、授業、昼食関連、実験、訓練、夕食関連、写本と中々に大変な一日だった。


最初は物凄くキツい毎日だったが、世界をまたぐ裏技を使い、なんとか回していた。


魔法と言う未知の領域に踏みこめると信じて毎日頑張っていた、のだが。


 「いつになったら魔法を使う授業になるんですリーベスさん!?」


 「まだ体作りもできてないし、魔力の巡りも悪い、まだまだよ。」


 「うう……クソう……」


 一般常識や魔法の歴史は教えてくれるけど、全く魔法を使った授業がない。


オーマも土だらけにしてくるだけだ。


おまけに今日はリーベスさんの機嫌が悪い。


その、なんと言うか、こっちにも下着の概念はあったって事だ。


今日も体に魔力を循環させる授業にいそしむ。


最初の授業で教えてくれた魔法の初歩の初歩、魔力を上手く操るための慣れらしい。


やってることは、ひたすら体に魔力の通り道を空想し、瞑想するだけだが。


 「いつまでこれすればいいんですか?体に循環させるって言ったって……」


 「いいからやる!大丈夫徐々に良くなってきてるから。」


 「本当なんですか……」


悪態をつきながら瞑想を続ける。本当にこれで魔法を扱えるようになるのか。


 「今は我慢の時よ、もうそろそろ……昼食の準備に行くわよ。」


 「わかりました、今日は何作りましょうかね?」


 「……なんでもいいわよ、適当につくりましょ。」


 機嫌が悪い理由その2だ、最近俺も台所に立つ事が多くなった。


リーベスさんは決して料理が下手な訳じゃない、やる事が両極端なのだ。


火や水の魔法の加減は素晴らしいのだが、ちょっとだけ焼き過ぎたり、薬味を多く入れすぎるだけなのだ。


俺が味付けや火加減等を見たり、最初のお土産の粉3種類と、追加で持ってきた鉄平鍋、油、包丁が役に立ち、食事環境の大幅な改善が出来た。


その事をリーベスさんが気に入らないのだ。


今まで台所を任せれていたのにとヒシヒシ背中に使わってくる。


簡単や料理が出来上がる頃になると、オーマがテーブルに待ち構えてる。


 「今日の飯はなんじゃ小童!」


 「いつもの様に簡単なスープですよ、慌てて喉の詰まらせないように。」


 「年寄り扱いするでないわガキが!早く持ってこんかい!」


 「へいへい。」


以前に比べて飯時の明るさが違っている、それが余計にリーベスさんの反感を買う。


 「静かに!今から用意するから。」


 「わかった、すまんな……」


 こうして静かに食事が始まる。


今思うと最初に夕食をごちそうになった時は、肉らしき品もあったが、ここの所ずっとそれらは無い。


やはり肉類は高級品なのだろうか。


 「そういえば肉とか魚とかあまり使いませんね、やっぱり貴重なんですか?」


 「そうねぇ、やっぱり気軽に食べる事は少ないわ、特別な時に食べる位かな。」


 「昔と比べ、魔法等の技術発展の恩恵で飯事情は良くなっておる、それに伴い肉は貴重になった、魚もここらじゃ良い物はとれないしの。」

 

 「魔法とかで狩りは出来ないんです?」


 「やろうと思えばやれる、しかし大型の獣を狩る事は禁止されておる、許可が無いとダメじゃ。鳥や小さな獣を狙おうにも、魔法対象が小さすぎるので、遠くを狙うのが難しく向いてない。大規模な魔法ならなんとかなるが、いかんせん効率がわるい。」


やはり難しいのか、弓矢を使って小動物を狙うのは難しそうだし、魔法を使って狩るのも面倒そうだ。


俺は前々から思っていた事を提案する。


 「なら、俺が鳥を狩ってきてもいいですか?」


少しでもこちらの暮らしを良くしたい、

毎日スープばかりでは飽きるのだ。

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