第11話 知と身と心5

 「よし来たか、ここでもなんじゃし部屋に行くぞ。」


 戻った俺を見るなりオーマが腕を引っ張る。相変わらず強引な爺さんだ。


玄関から近くにオーマの部屋はあった、中に入ると埃っぽく、紙が散らばっている。


魔術師の部屋と聞くからには、もっと本や謎の器具が点在してるかと想像してたが、それらの物は少ないようだ。


 「まあとりあえず座れ。」


机に向かうのと寝る事以外は不可能に思える部屋で、座る場所に悩んだ。


仕方ないのでベットに腰かけた。


 「聞きたい事が山程あるが、とりあえずお前が住んでる場所かららじゃ。」


 「いいですよ、俺は……えっと、アレ?」


 「おいおいまたそれか!?勘弁してくれ!」


いやちゃんと覚えてる、向こうで生活した事はしっかりと頭にある、だが地名が全く出てこないのだ。


 「えーっと……治安はかなり良くて、食べる物にも困らず、平和な国です……何かもっと具体的に聞いてください。」


 「それを小僧が言うのか、今は置いといてやる。そうじゃのぅ、お前の国はあの土産の品が豊富に採取できるのか?」


 「え?塩胡椒とかですか?んー、沢山あると言うか、多くを他の国から輸入してますね。主に空、海から、ああ島国なんです。」


 「ソラとはなんじゃ?場所か何かか?」


 「あっ……まあいいか。空、上です空」


天井を指差しながら簡単に答える。


 「ソラ…そら…空…は?ソラって空か!??飛ぶのか??!空を!!??お前飛べるのか???!」


 「ちょ、ちょっと掴みかからないで、違います乗り物!空を飛べる乗り物で色々運ぶんです!」


両肩を揺さぶられ、唾を浴びながら否定する。流石にこの情報は不味かったか。


 「そおかぁ、空、空かぁ……凄いなぁ。」


飛行魔法とか無いのだろうか、我に返ったオーマが呟く。


 「小僧の、世界では皆が空を移動してるのか?」


 「皆が全員飛び回ってる訳ではないです。車が多いかな?鉄の車です。」


 「鉄の車とな?馬が大変そうだの。」


 「馬は殆ど移動の役目はしてませんね……油で動けるように出来ています。」


 「魔物が何かを使役しているのか?もしくはワシが使った土くれみたいに。」


 「完全に道具の分類と思います。魔物、こっちに居るんです?」


魔物の下りは聞こえてなかったのだろうか、黙って考え込んでしまう。


暫く沈黙が続き、ふと嫌な予感が。慌てて口にする。


 「俺の許可なく、絶対に向こうの世界に行かないでくださいね!絶対です!」


 「ああ分かっておる、まだ行かぬ。」


予想に反して聞き分けが良い、戸惑いながら付け足す。


 「今師匠に行かれると、とても面倒な事になります。しっかりと準備してから一緒に行きましょう。」


首だけ振るオーマ、ここまで静かだと不気味だ。


 「とりあえず今日はここまでにしよう、リズを手伝ってあげてくれ。」


 「わ、わかりました。」


気持ち悪いオーマを後にして部屋を出た。


 「あら?もう終わったんだ。今日一日ずっと喋ってるかと思ってた。」


 テーブルを拭きながらリーベスさんが訪ねてくる。簡単に事の顛末を説明すると、目をパチクリさせながら驚いた。


 「イー君の住む国って凄いわねえ……」


 「魔法があるこの世界も凄いですって。ああ思い出した、これって使えますかね?触媒の話を聞いて持ってきたんたんです。」


オーマの勢いに飲み込まれ、渡しそびれてしまった新しいお土産を取り出す。


今回持ってきたのは小さなガラス玉だ。机の引き出しにしまわれていたのを数個を手の平で広げた。


息を飲む音が聞こえ、リーベスさんを窺う。どうやら気のせいだった様だ。


 「ふうん、とっても綺麗ねそれ。何なの?」


 「向こうでの子供の遊び道具みたいな物です。触媒って確かガラスもいいですよね?これはどうですか。」


 「まあ、良いんじゃない。多分大丈夫と思うわ。」


 「よかった。じゃあこれ、どうぞ。」


広げていた手を差しだす、すると急にリーベスさんが狼狽えた。


 「ヘェ!?何、くれるのこれ、いいの?」


 「これだけしかないですが。まだ魔法も使えないし、今持っていても役立ちませんので。」


 「私、コレを貰っても返す物もないわ。お爺ちゃんも受け取ってくれるハズだし……」


 「お返しなんで要りませんよ。そうだ、リーベスさんはもう既に俺にくれたじゃないですか。」


 「私、何か貴方にあげたかしら?」


 「名前ですよ、異世界のイー君!って。だから逆にこれはお返しです。素敵な……名前ありがとうございます。」

 

 「えええ……じゃあ……1個だけ、1個だけでいいから。」


 「そうですか、なら1個だけ。」


恐る恐るリーベスさんがガラス玉に触れる。何とか受け取ってもらえて良かった。


 「ありがとうイー君!大事に使わせて貰うね!!!」


 「は、はい。」


ガラス玉を光に晒し、握ってからの喜び様は凄い。幸せの感情を振りまいている。


単なるガラス玉でここまで喜んでくれて、尚且つこんなリーベスさんを見られたのは、こっちにもも大きな収穫であった。


 2人で笑いあっていると、オーマがのそのそ姿を現す、大分調子が元に戻ってた。


 「何やら騒がしくしておるの、どうしたリズ?」


 「なんでもない、なんでもないわお爺ちゃん。」


慌てて握っていた手を隠すリーベスさん、特に気にする様子も無く、オーマは用件を思い出す。


 「リズよ、小童にこちらの常識と技の知識を教えてやってくれ。


 「え、別にいいけどお爺ちゃんが教えた方がいいんじゃない?」


 「ワシは、ちょっとやる事が増えた。何初歩的な部分だけでいい、よろしくな。」

 

 「冗談抜きで向こうの世界に行かないで下さいよ、もし勝手に行ったら俺はもう来ないし、門を塞いでしまいますからね!」


魔法使いがこっちの世界に存在してたら一大事、慎重にならねば。


 「分かっておる、安心せい。それは絶対にしない、絶対にな。」


そう言い残すと、オーマは地下室に降りていく。信用できないので後をついていく。


地下室に降りたが暫くしたが、オーマは門を調べるなかりで潜ろうとはしない。

不安になりながらも上に上がった。


 「そういう事らしいので……よろしくお願いします姉弟子!」


 「ええ、良くってよ!フフフ!」


なんだか良くわからないテンションになりながら2人でまた笑いあった。

楽しい授業になりそうだ。


 この世界と魔法の知識を少しずつ学びながら、時間はあっという間に過ぎていく。


再びリーベスさんの食事の試練を乗り越え、掃除と洗濯をしながら夕食前の特訓となった。


 朝、対峙したのは別の形のゴーレムだった、中型犬の様な相手だ。しかも……5体も居る。


呆然としつつオーマとゴーレムを交互に見る。


何故がオーマは殺気立ってる様に見え、最初に腕をつかまれて以来の感覚だ。静かに語りだす。


 「相手が自分より小さな時もある、数も1対とは限らん。今回はそれじゃ、では行くぞ。」


淡々と語るオーマ、彼の回りには泥団子が20個以上漂っている。


 「あの、師匠?ちょっと数が多い様な……」


 「お前、お前リズに抱き着いて、押し倒したそうだの。違いないか?」


 「は、えちょ、アレは事故ですって!」


 「認めたな?死ねぇ!」


 「死ねとか最初に言わない約束うがああああああああ!??」


一斉に襲い掛かる泥達の合図で、本日二度目の魔法の修行が始まった。

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