第10話 知と身と心4
肩で息をし喉に砂が張り付きせき込む。体中も泥だらけ、手足は鉛の様に重い。
イーは相手を睨み付ける、敵なのかもわからない泥人形に向かって。
人型だが足は無い、地面を滑るように動く。姿勢よくこちらに向かってくる様はとても不気味だ。
2本の長く巨大な腕での攻撃は凄まじい。拳も固く、盾でまともに受けたらひとたまりもない。
気休めに盾を構えながら精一杯かわす。鈍い風切り音と共に砂塵が舞い、視界と空気が一層悪くなる。
覚悟を決め剣と盾を握り直し、物言わぬ土の塊に切りかかる。
刃が触れても、奇妙な音と共に泥人形に埋まっていくだけだ。思わず悪態をつく。
「なっなんでッゲホッ魔法の修行がこれうゎっ!?これなんだァ!」
「口動かす余裕があるんか、ホレおまけじゃ。」
オーマが土団子をぶつけてくる、一度に10個程操ってくるので避けようが無い。
「ふっグッ……畜生ぉおおおおおお!!!」
八つ当たりも込めて土人形に突進する、待ってましたと言わんばかりに右腕を振りぬく土人形。
盾に当たる強い衝撃、そして霧散する土の腕。
すぐに新しいのが生えてきた。
「ホレまた死んだぞ、しっかりせんか。」
泥だらけの盾を握りしめ、木の剣を振り回す。
そうそう当たる事なく虚しく空を切る。
イーは魔法の修行をしていた。
倉庫を整理し、とりあえず寝る場所と簡単な目隠しは出来た。家に帰って勉強でもしてよう魔法も大事だがテストも大事、両立は大変そうだが頑張ろう。
でも……あれ?もしかしたら向こうでテスト勉強しても、こっちでは時間が経過しない。これって人より時間が凄く増えてないか?眠くなったらあっちで仮眠したり遊び放題じゃん!
問題は遊び道具が軒並み爆発している事だ。スマホの時は偶然だと考えてたけど、ゲーム機まで爆発するのはおかしい。
まあどっちにしろ電波も届かないしそんなに楽しめないか。
勉強に身が入らずダ、適当に時間を過ごしていたら夜になる、布団は買いに行かず、いつも使ってる物を持参する事に。
夜になり布団とちょっとした物をついでに運ぶ、いつもの感覚を体験しながら到着、一応声を掛ける。
「ただいま戻りましたー、これからよろしくお願いしまーす。」
「相変わらず早いの、今度こそ明日からなー。」
挨拶も適当に、寝る準備をする。一体どんな事を習うのだろう、上手く魔法を使えるかな。
床が冷たくゴツゴツして寝にくかったが、なんとか眠りに落ちた。
そして今に至る、魔法は無関係そうな戦闘訓練をやらされる羽目に。
オーマが錬成したゴーレムと無数の頃団子が土と水に戻る。
おそらく終了の合図だろう共に床に寝そり手足を投げだした。
魔法の訓練ではなかったのか。
「なんで……こんな事……するんです……魔法……は?」
息も絶え絶え、思わずオーマに問いかける。
「ワシの言う事は絶対じゃと言うとるじゃろうに、知恵だけ増やしてもだめじゃ、体が追いつかなくなる。心身友に鍛えなければ魔法なぞ上手く扱えん!」
「魔術師ってもっとこう……勉強とか沢山するんじゃ……」
「それもするに決まっておろう、だが小童、先ずは体じゃ。そんなヘナヘナでは扱えるもんも扱えん。リズが朝飯の準備をしておるハズ、とりあえず朝の分は終りじゃ。」
「嘘でしょ!??」
これを今日またやるのか、おまけにリーベスさんの料理まで待ち構えてる。
「初日じゃし朝飯の準備位は抜きにしてやる、明日から小僧も手伝うんじゃぞ?まあ、なんだ……食べれば少しは元気になる。」
オーマはバツの悪そうな顔をして小屋の中に戻る。心が折れそうになりながらも重い体を引きづって後に続いた。
相変わらずリーベスさんの料理は強烈だったが、オーマの言う通り疲労感が軽くなる。不思議でたまらない。
「あの、昨日から思ってたんですが。食事を頂くと妙に力が漲るのですが、これも魔法、なんですか?」
「ええそうよ、簡単な魔法を付与してるの。私たち特有の魔法かしらね。」
「えーっと、たしか、未知の魔法でしたっけ?」
「おおちゃんと覚えとるではないか、関心感心。だが違うのこれは水と土系統の技じゃ。」
「まだ魔法は分からない事が多いのよ、だから魔術師固有の技があったりするの、水と土は私達一族が得意とする魔法なのよ。」
「まあもしかしたら既に似た技術は広まってるかもな。呼び名も各地違ったり色々じゃの。」
「なる程……」
そう言えばオーマが魔法は無まれて間もないとか語ってた気がする。
「よし、次は情報じゃ小僧。お前の世界の事は教えてくれ!」
「分かりました、ああちょっと待ってください。後片付け手伝いますよリーベスさん。」
「え?いいってそんなに面倒じゃないし。」
「俺は家事も協力する事でこの家に置いて貰ってます。手伝わせてください。」
「そこまで言うなら……分かったわ、付いてきて。」
「はい!」
少し認められた様でうれしい、これから長い間お世話になるハズだ。最初の失態を取り戻さないと。
朝食前に訓練して気づいたが建物は川に面しており、そこそこ高い塔の様だった。
元々風車と水車を合わせた小屋だったとか、今は羽が無く、水車も取り払われている。
風車小屋の意味はそのまま住んでる場所だったのか。
水辺が近いのに地下室を作って大丈夫なのかと頭をよぎったが。
調理場で灰を掬い、それで汚れを落としつつ水で流すのが洗い物の仕方らしい。
3人分で、それ程品数も多くなく、すぐに片付いた。ボロ布で食器を拭いていると、リーベスさんが急かしてくる。
「ここはもういいから早く言ってあげて、お爺ちゃんずっと楽しみにしてたから。」
「分かりました……リーベスさん、これからも沢山迷惑かけると思いますが、どうかよろしくお願いします。」
「……うん、こちらこそよろしく。」
これからに期待、軽い足取りでオーマの元へ行こう。
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