エピローグ ルーザーキッドと呼ばれていたけど⑤
「この私、エルヴェリン第十七王女、シェリー・ヴェルキスは、この人たちのチームに加わるわ! 何が何でも!」
「横暴だ!」
ジャックの顎が限界まで開かれるより早く、リンダが啖呵を切る。
ジャックは久方ぶりに、このハーピーの友人を、そういえば、可愛らしくも少し馬鹿だったなと思い直した。きっとリンダにとって、あらゆる権力、権威は「偉そう」の一色で表現されてしまうのだろう。
「王女って、孤独なの!」
リンダの気迫を、シェリーは王族らしく優雅に無視した。
気位故か、それとも、敵意まで黒鱗兵が弾いてくれると、信じて疑っていないだけなのか。
「宮殿で、人知れず、育てられてきたの。でも、私の姿を見たことがない人達だって、名前だけは知ってたわ。私だって、城の外の事は教えられてきたけれど、最近までは見たことなかった。これって変じゃない? 知識だけで十分なんて、知性に対する冒涜でしょう? ああけれど、幸運にも私は知ってしまった! 人生の意味は、あなた達のような人に出会えることにあるのだわ!」
王女の口ぶりは、まるで以前からフランケンズ・ディストを知っているかのようだった。
ジャックは、サン・ファルシアに王族が来ていたのを思い出す。
あのスタンド席後方の巨大なテント―――ロイヤルボックスの中からステージを見ていたのが、シェリー王女だったということなのだろう。
「王女」
隣で、ロズが呟く。
珍しく、神妙な様子である。
流石のロズも、王族を前にすれば少しは緊張するのだろうかと思った矢先。
「
ジャックは、思わず噴き出してしまった。
しかしなんと、ロズはいたって真面目だったらしく、不興を買ってしまう。
非難がましい視線が、遠慮なく浴びせられる。
ジャックは、激しくうろたえた。
ロズを大切にしようとする余り及び腰になっていたここ数日の自分が、どれほど傲慢だったのかを思い知らされた。
サン・ファルシア以降、上機嫌全開だったロズを、自分はなりふり構わず、捨て身で大事にするべきだったのだ。
「心配ないさ。だって、ほら、僕には、君だけが、その……」
ジャックは口籠る。
続けて言わなければならない言葉は、理解していた。
しかし、こんな公衆の往来で気障な振る舞いをするなんて自分らしくないぞと、羞恥心が歯止めをかけるのだった。
己を、叱咤する。
一体僕はいつから、自分に固有の性質を鑑みながら女の子と会話するような男になってしまったのか。自分らしさなど、足かせになることの方が多いと知っているのに、どうして、勇気が出てくれないのか―――。
想いが空焚きされ、熱ばかりが膨らんでいく。
―――いつも君が僕の心を読んでくれたなら、ずっと安心させてあげられるのに。
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