最終章 ファイナル・ディスト③

 アウトロを奏でながら、ジョニーは友らの元へ歩んで行く。

 ランウェイの上に左右から差し出されている観客達の濡れた手が、誘導灯のように輝いて見えていた。

 

 ずっと、嘘をついていたこと。

 その全てを許してくれとは、言えなかった。

 ただ、こうしておめおめ帰ってきた男の飾らない全てを、もう一度だけ、チームメイト達に受け止めて欲しかった。


 情けなさを全て開けっ広げにしたうえで、自分を求めてくれなどと訴えるのは、想像していたよりもずっと、恥ずかしいことだった。しかし、どれほど大人になっても、決して捨ててはならない駄々なのではないかと、今のジョニーなら思うことが出来た。


 ジョニーが、メインステージに辿り着く。

 

 仲間達を、浮遊したフランケンの下へと招き入れる。

 まとめて抱き寄せようとして、失敗した。

 こちらから手を伸ばす間もなく、まず、リンダが首下にしがみ付いて来た。ペッパーの太い腕に、背中を叩かれる。レイラが真正面から詰め寄ってきて、面倒見の良さの滲みでた説教を捲し立ててくれた。

 前後左右からの強い力に揺られ、自分の足で立たなくとも、ジョニーはバランスを保っていられる程だった。

 

 見栄が去ると、こうも簡単に無力さえ、愛おしくなってくるものなのだろうか。

 

 ―――悪かった。勝手に隠し事をして騙した挙句、追放されて、一番大事な時に、お前達を放り出して。

 

 そう開きかけた唇のすぐ隣に、リンダの唇が押し当てられる。


「あの時は、助けてやれなくて、ごめん……! 帰ってきてくれて……もう二度と、会えないんだって、私……」

 

 ジョニーの頬骨から口の中へ、リンダの声が甘く伝道してくる。

 

 ペッパーが、濡れ張り付く前髪をシールのように剥がしながら、快活に笑った。


「ジョニーのお陰で、ここまでこれたんだぁ」

 

 言外に、「だからもう何も言わなくていい」とおどけ、八本の足で爪先立ちになってみせる。

 

 自分が今立っているのが、歌唱祭の舞台なのだということは、ジョニーもすでに把握していた。

 ワゴンの中で暗闇に包まれ、少し闇が薄くなったかと思った時にはもう、ステージの上で、ギターと一緒に尻餅をついていた。

 ジョニーの体感時間としては、地球に飛ばされてから再びニューアリアへ帰還するまでの間に、半日も経過してないように思われていたが、自分が帰ってきたのは、追放されてから数日経った後のエルヴェリン、ということらしかった。

 自分のいない間に、フランケンズ・ディストの面々が過ごしたであろう時間を思うと、胸が痛んだ。

 

 それでも、今ジョニーの目の前には、全ての最良の結果だけがあった。

 

 緑の少年に目を向ける。

 初めて、ジョニーがこの世界に召喚された時と同じ、貝殻が連なったチェーンを、腰から下げていた。

 

 だが、あの時とは何もかもが違う。

 静かな微笑を浮かべ、堂々とジョニーと向かい合いながら、ジャックは言った。


「どうやって……」

 

 皆まで言われずとも、何を聞きたいのか、ジョニーには分かっていた。

 何故、エルヴェリンに再び戻ってこられたのか。フランケンの姿は、一体どういうことなのか。

 

 ―――俺にもわからない、お前らが俺を連れ戻してくれたんじゃないのか。


 ジョニーは、逆に問い返そうとした口を、慌てて閉じた。

 ここはステージ、質問の応酬が似合う場所では無い。

 ただ、首を横に振って見せた。

 それだけで話は終わる。

 野暮な事情は流れて行く。


「やるじゃねえか」

 

 ジャックの肩を、優しく叩くだけにとどめる。

 今こうして、もう一度会えなかったなら、きっと一生、引きずることになっていただろう。

 

 価値の全てを剥ぎとられた少年が、自分の力で立ち上がり、日の当たる場所まで歩いてきたのだ。

 左手首に、白い傷跡を残したまま。

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