第二十二章 ギフテッド⑤
部屋の外。
閉まりきった、ドアの前。
高城は息を飲んだ。
見間違いだと断ずるべきだったが、出来なかった。
しかし、もう一度ドアを開けて確かめる気にもなれなかった。ニューアリアの空気が自分の身体の中にまだ残っていて、それが錯覚を見せたのかもしれない、という恐れも残っていた。
背後から、声をかけられる。
「高城!」
死人に出会った気分だと言えば、傷つけてしまうだろうか。
寧ろ心に傷を負ったのは、そんな思案がよぎった高城の方だった。
振り返る。
久しぶりだなと、声をかけてしまいそうだった。
エルヴェリンで暮らし始めたばかりの頃。
自分は自由だ、思う存分破天荒に生きてやると息巻いた。
しかしその後に待っていたのは、全く逆の生活だった。
管理官からは幾度となくどやされたが、高城の基準で言えば日常を送っていたに過ぎず、その中でまるで教師のように振る舞い、フランケンズ・ディストを鍛えた。
自分を変えるはずが、いつの間にか人を変えることに腐心していたのだ。
そうだとばかり、思っていたのに。
「どうだった」
エルヴェリンで高城は、情けない姿をチームメイトに曝け出し尽くした挙句、世界から追放された。
己の欺瞞に対する、当然の報い。
ならば、あの世界にて果たせなかった全てに対する無念は、一人で抱え込むしかないと思っていた。
なのに。
革ジャン、モヒカン、スキンヘッド。
かつてのバンドメンバー三人が、高城を信じて疑わない表情で、そこに立っていた。
彼らと、まだ一緒に音楽をやっていた頃。
高城は常に、仲間達へ勝利を持ち帰った。
やってやったぜ、と答えることだけが、自分の仕事だと思っていたのに。
「……駄目だった」
高城にとっては、数カ月ぶりの、再会。
これまで見せることの無かった一面を、披露することになった。
これまで通りの振る舞いなんて、出来やしなかった。
愚かな自分を、高城は悔いた。
いつも強がって、弱さを見せないでいた。
ガッツポーズをルーチンにするため、死に物狂いだった。
最後に三人と別れた時の自分のままなら、例え面接中に殺されかけていたって、そのことを悟らせなかっただろうに。
「俺は、駄目だな。お前らがいないと……」
話したくて、堪らなかった。
扉の向こうが異世界に繋がっていたこと。
そこで出来た、新しい仲間のこと。
自分の罪も、洗いざらい。
男四人、他に誰も居ない廊下で、固く抱き合った。
会話は無かった。
それでも、高城はかつてのバンドメンバー達のこんなにも安らぐ顔を、初めて見た気がした。
自分も今、同じような表情を浮かべているのだろうか。
『今日からお前、俺の
そんな言葉をかけた日の思い出が、四人の肩と肩を伝い、ぐるぐるといつまでも回り続けた。
自分は変わってしまったと、思っていた。
それなのに。
らしくないぜ、とは誰からも言われなかった。
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