第十六章 フランケンシュタインの解体②
ジョニーは初めて、ジャックの同族を見た。
二人は、ジャックと同じ、緑色の肌をしていた。
続いて、この診療所唯一の医者が、部屋の中に入ってきた。
老いた
フランケンズ・ディストの面々は揃って、ジャックの父親と母親を、ただ黙って見詰めていたが、それでも一人一人、全く違った感情を、ジャックの両親に向けているのが分かった。
医者とジャックの両親が、固く抱き合う。
「息子は、息子の容体はどうなんですの 先生!」
「息子は、助かるんですか!」
「安心せい。ゴーディ、マルガ。助かる。必ず、助かるからのぉ」
三人は、親しい知り合いのようだった。
ジョニーはそこに、親和がかえって孤独を浮き彫りにすることもあるのだということを学んだ。
『リンダ、レイラ! 綺麗な布、家中から持ってこい! フウ! ジャックを、持ちあげるのを手伝ってくれ! ペッパーは、誰でもいい、人を呼んでくるんだ!』
家の中で悲鳴を交わしながらジャックの処置をしている途中に、ペッパーがこの犬人の医者を連れてきたのだ。
その際、医者はジャックの様子を見ながら、呟いた。『たまたまわしが近くを診療しとって、よかった』。その言葉が本当に意味するところを、ジョニーは今、理解したのだった。
「そこにおる若者らに感謝せい、ゴーディ。彼らが、浴槽で倒れておった息子さんを見つけておらんかったら……口に出すのも恐ろしいことに、なっておったろうよ」
ジャックの父親……ゴーディが、ジョニー達一人一人と視線を合わせていく。
ゴーディの表情には、驚きが浮かんでいた。
息子の窮地に、同年代の若者が五人も集まっている。
そのことが、まるで信じられないかのようだった。
フランケンズ・ディストの内、ゴーディの知っている人物は、一人だけだった。
「……ペッパー君、か」
ゴーディに話しかけられたペッパーが、慌てて挨拶を返す。
ジャックの家に行ったのは久しぶりということだったから、ジャックの両親にも、長いこと会っていなかったのだろう。自分だと気がついてもらえなかったらと、ペッパーは自分から挨拶を切りだせなかったのだ。
ゴーディはペッパーの存在から、他の四人とジャックとの関係も、見当をつけたようだった。
「なら、君たちも……」
続く言葉は決まっているはずだった。
しかし、ゴーディはその先を言い淀んだ。
ジョニーは、ジャックが時々垣間見せていた寂しさが家系によるものだったということに気付かされ、胸が苦しくなった。
「ダチだよ」
ぶっきらぼうに、リンダが言った。
こういった際に、嫌みなく痺れを切らすことが出来るのは、彼女の才能である。
「そう、か……」
『全員がかい?』
さすがにゴーディもこの期に及んで、そんな質問はしなかった。
ただ、自分の息子の為、これだけの人間が集まってくれた事に対し、望外の喜びを感じているということだけは、隠し切れていなかった。
「ジャックと……日頃から、仲良くしてくれて、ありがとう。君たちがいなければ今頃、ジャックは……本当に、何と礼をいえばいいか」
夫妻は、冷たい病室にジャックが一人きりで寝かされていると思っていたのかもしれない。
ジャックの自殺未遂を、夫婦二人だけで背負い込む覚悟だったのだろう。
そんな中で、友人達が、ジャックを助ける為に奔走したという事実は救いになってくれただろうか。
ジャックと違い、ゴーディの外見は豪気な性格を想像させたが、息子の友人達に話しかける様子は、何ともたどたどしく、不器用なそれだった。
息子の自殺を前に、気丈でいられる父親などいるはずもないが、その態度は、どこか弁解じみて見えなくもなかった。
だからかもしれない。
逆鱗を刺激された者がいた。
「礼なんざ要らねーんだよ!!」
リンダが感情を爆発させた。
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