第3話 再就職

「お、おい、魔法少女が俺以外にもいるなんて聞いてないぞ!」

(私も初めて知った)

突然、二人目の魔法少女が登場した事に驚くアルバコアと彼女の中に住まうマグロ。

(まさかこの地に二人目の魔法少女がいると……いやまて……そもそも魔法少女とは何だ)


「お、おい! どういうことだ!」

 脳内マグロの思わぬ答えにアルバコアは思わず声を張り上げた。

(あ……あぁ、何故か私の記憶に……モヤが……だが信じてくれ。私はお主の味方だ)

「はぁ! 信じられるかよ。まあいい、とりあえずこいつを何とかしろ!」

(自分の力を信じよ)


「うぅ……とにかくやるしかねえ」

 アルバコアはダークネスと名乗った黒の魔法少女に向き合う。

「こ、こいよ、カッコつけて黒服とか着やがって! 俺は最強の魔法少女だ」

 その様子をみたダークネスは無表情のままアルバコアを見つめ――そして知らぬうちに彼女の背後に立っていた。


「お前も、黒いだろ、服」

 そして、そこでアルバコアの意識は途切れた。


――――――


 次にアルバコアが目覚めたのは暗い路地裏であった。

「うぅ…………いったい俺は……」

(私も今目覚めたが……むっ、大変だ。知らぬ男がお主の上にまたがろうとしている)

「なっ……」

 見ると知らない浮浪者らしき汚い男がアルバコアを犯そうと襲い掛かってきた。


 アルバコアが浮浪者を殴るとそれは壁に飛んでいきぶつかって、頭から血を流し動かなくなった。

 この街では命など軽いもの――アルバコアがかつて過労死しかけていたことからわかるように。

 ましてや浮浪者ならなおさらだ。

「は……はは……お前が悪いんだ……」


 とは言え、そのままではアルバコアは彼によって汚されていたであろう。

 この街は弱肉強食なのだ。

「うぅ……起きて早々……そういえば金は!」

 アルバコアが周囲を見回すがお金がはいったカバンらしきものはない。

(すまない……持って行かれたみたいだ)


「くそっ……いや……待て……そういえば寒いな……夏なのに……って!」

 ここでアルバコアは更に重要な事に気がつく――彼女は裸だったのだ。

(変身が解けると服がなくなる……ようだな……)

「なんとかしろ!」

(うーむ……そうだな。魔力で私服を生成しよう)


 脳内マグロがそう語りかけるや否やアルバコアの体は魔力で作られた私服で覆われる。

「最初からそうしろ……まったく……」

(すまない)

 

 アルバコアは悩む。

 そもそも、魔法少女とは何なのか。脳内のマグロすらもはっきりとそれを知らない。

 そして、更なる問題は――金。

 金がないのでメシも買えず家賃も払えない。

 そもそも、今までの自分は死んだ扱いになるだろうから今まで借りていたボロアパートは解約されるだろう。


「くそっ……あの変な黒い奴さえ現れなければ……」

 そう独りごちながらアルバコアは動かない浮浪者のポケットを漁る。

「おっ……これは……一万円」

 浮浪者が一万円も持っているわけがない――おそらくは、もともとアルバコアのモノ。

 ダークネスは慈悲か一万円だけは残してくれたようだ。


「よし……これなら……いける! いくぞ、パチンコ屋!」

 アルバコアは希望の満ちた表情を浮かべながら近場のパチンコ屋へと歩き出した。


 ――――――


 タバコの鬱陶しい臭いと耳が壊れそうになるほどの爆音が響く典型的パチンコ屋の内部。

 欲望渦巻く混沌空間にてアルバコアは苦々しい顔でパチンコ台を睨んでいた。

「くそっ……なんかサイコキネシス的力はないのか!)

(うむ……常人より強いという事以外何があるかはわからぬ……すまない)


 アルバコアはパチンコ台へドンドンと八つ当たりする。

「オキャクサマ台パン……対象年齢ガイにつきアナタはデテイッテください」

 今更アルバコアに気がついた店内の警備用徘徊アンドロイドがアルバコアを追い出す。

「くそっ……まだ千円残ってるのに……これで逆転できたはずなのに……」


アルバコアはパチンコ中は尿を我慢していたので、近所のコンビニ『ダイコク』のトイレに向かう。

「うぅ……くそっ! それにしても女のオシッコはめんどくせえ……」

 用を足した後、アルバコアはここの鏡で初めて今の自分がどんな容姿をしているかを知る。

「ほ……ほえぇ……び、美少女」


 私服こそダサいものであったが整った顔と若くて柔らかい肌。

 そして見た目年齢は女子中学生程度のものであった。

「は……はは……まあきたねえおっさんよりはいいな、いや最高だ!」

 アルバコアは周りの奇怪に思う目も気にせずにスキップしながら店を出ていった。

 

 ――――


「よし、おっさんと寝て大金をゲットだ!」

(ほう……まあ自由にするとよかろう、私はいつでもお主を応援する)

 アルバコアはこの少女の体を使って一稼ぎすべくオーサカの中でも特に退廃的なミナミの歓楽街にやってきた。

 彼女はとりあえず近場にいたホストっぽい白スーツの男に後ろから声をかけた。


「あ……あのぉ……私とぉ……いいことしなぁい?」

 アルバコアは緊張しつつも媚び媚びのギャルっぽい言葉で話しかける。

 白スーツの男がゆっくりと振り向く。

「おお……お前は……可愛い子ちゃんじゃねえか」

 だが、その男は若いホストではなかった。


 サングラスをかけており顔には大きなキズのついている中年――その時点でアルバコアは少しやばい空気を感じていたが今更引き返すこともできない。

「ね、ねえ……私と……しよ?」

「ほう、中々にいい肌してるじゃねえか」

 男の値踏みするような視線がアルバコアに突き刺さる。


 その時点でアルバコアはそもそもよく考えるとおっさんと寝る苦痛に耐えられるのかと今更になって心配になってきた。

「いいぜ、じゃあ出す金についていってやるから耳を貸せ」

 男はそっとアルバコアの耳元で囁いた。

「お前……魔法少女だろ? 見てたぜ、昨日の工場での事」


 アルバコアは恐怖し、人目も気にせず魔法少女筋力で殴りかかろうとする。

「うぉおお!」

 だがその白スーツはアルバコア渾身の一撃をいともたやすく回避した。

「はん、やはり素人か。そんなんじゃ本職のヤクザには勝てねえぜ」

「うぅ……くそぅ!」


(大丈夫か……?)

 脳内マグロが心配そうにアルバコアを気遣う。

「なんとかするしかないだろ! くそ、お前が無能なせいだぞ!」

(すまない……本当に申し訳ない)

「うぅ……俺は無敵の魔法少女じゃなかったのか。おっさんに体を売って金を手に入れることすらできないのかよ!」


「ほぉ……金が欲しいのか? そういえば昨日話に聞いたところ金を強奪したようだが、それはどうしたんだ?」

 白スーツの男がニヤリと笑う。

「うるさい、関係ないだろ!」

 怒り散らすアルバコアを見て、男はははぁーんと笑った。

「もしや……黒い魔法少女に全部とられたのか?」


「あぁ……ってなぜ、知ってる!」

 驚くアルバコアに白スーツの男はネクタイを整え言い放った。

「復讐したくはないか、お前から何もかも奪っていくこの世界に」

「はっ?」

(気をつけろ、何やら怪しげな空気になってきたぞ)


「そうだな、単刀直入に言おうか魔法少女よ。私達の仲間にならないか――この紅月組長、紅月義輝直々にお願いしよう」



―――――次回に続く






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