第2話さらば職場よ

「ひ……ひぃい……助けてくれ!」

 突然の事に怯える工場長であったが魔法少女アルバコアはためらわない。

「死ね」

 アルバコアが工場長を壁にもう一度投げつけると彼は動かなくなった。

「はぁ……はぁ……これでよかったのか……?」

 アルバコアは今までの恨みがつのっていたとはいえ工場長を安易に殺してしまったことを少し後悔する。

(気にするな、お主はもはや普通の人間ではない。枷に縛られる必要などないのだ)

 脳内マグロが陽気に語りかける。

「はは……そうかよ…………よし……だったらやってやる……やってやるぜ!」

 アルバコアは工場長の胸ポケットをあさり中から財布を取り出した。

 中には数枚の一万円札。


「よし!」

 それらを自分のものにしたアルバコア。

(ま、まて……いや、その、あれだ。もっといい力の使い方があるのではないだろうか)

 それを聞いて彼女の頭脳がキラリと更なる金策を思いつく。


「工場の金が入った金庫だ……おぉ……いいな、さすがはマグロだ。DHAが詰まってて頭がいいぜ」

 アルバコアはそそくさと立ち去り、金庫のある工場長の部屋へと向かう。

「誰だおま――ぐばぁ!」

 目的地へと向かう途中に現れた誰かは魔法少女筋力で吹き飛ばした。

 生死は確認していない。


「すまん」

 アルバコアは軽く謝りながらも数秒後にはそのことを忘れて金のために長い廊下を駆け抜ける。

(どうだ、魔法少女の力の味は?)

 いつも通りフレンドリーに語りかけてくるマグロに魔法少女アルバコアは同じく念話で返す。

(最高だぜ!)



―――――



 そして、しばらくしてアルバコアは工場長の部屋の前にたどり着いた。

「鍵は……」

 電子ロックのかけられている部屋。

 入るには鍵が必要だ。

「ぶっ壊す!」

 だが魔法少女にそのような理屈は通用しない。


 魔法少女筋力を前にしては底辺工場の扉程度は豆腐に等しい。

「鍵は俺の筋肉だ!」

 扉の破壊音があたりに響き渡り、非常ベルが鳴るが魔法少女アルバコアには関係ない。

 彼女はズカズカと部屋に立ち入る。


 中には成金趣味を象徴するような金のクマの像や謎のミミズ文字の書道掛け軸が飾られていた。

 アルバコアはそれら換金に手間のかかるものを無視して部屋奥にある金庫をこじ開ける。

「おぉ……すばらしいぜ、最高だ!」

 中には大量の札束。

「いただきまーす」


 札束を見て喜びに震える魔法少女がそこにはいた。

(よかったな、お主がよろこんでくれると私も嬉しく思う)

 だがここで問題が発生した事にアルバコアは気がついた。

「どうやって運ぼう……」

 大量の札束を運ぶ手段を持ち合わせていなかったのである。

(近くをよく見てみるとよい)


 棚の上にかつて工場長のものであったのであろう高級の革バッグがあった。

 すべてを詰めることはできなさそうであるが、よい感じの額を運ぶことは可能であろう。

「へっへっへ……今までのお返しさせてもらうぜ」

 アルバコアはゲスな笑顔を浮かべながら札束をカバンに詰め込んでいく。


「よし……まあこれだけあればいいだろう」

 金庫に入っていた量の約半分。

 だが当分は遊んで暮らせる。

 アルバコアはこれから何をしようかと妄想を巡らせる。

 風俗、スロット、酒、メシ、ゲーム、楽しみはいくらでもある。

「貴様か、泥棒め!」

 警備隊が突入してくる。


「ふん、弱者め。私は魔法少女だぞ、人間が勝てるわけないだろ」

(いいぞ、もっと見せつけてやれ9

 警備隊がアルバコアに銃を向ける。

「止まらねば撃つ」

 だがアルバコアは彼らの前に、ゆっくりと堂々として歩いていく。


「繰り返す、とまらねば――ぐぼぉ!」

 アルバコアは近場にいた警備隊の一人を殴り倒す。

「はっ、雑魚め」

「う、撃て!」

 驚いた警備隊の皆がアルバコアに向かって発砲する。


 だが、アルバコアは凄まじい速さで手を動かし弾丸を弾き飛ばす。

(おぉ……すごいな、さすがは魔法少女アルバコア)

「はん、生意気だな! 俺は魔法少女だぞ!」

 アルバコアは凄まじい速さで移動し、次々と警備隊のメンバを殴り倒していく。


「お前たちには見切れまい!」

「ぐばぁ」

「や、やめろぉ!」

 そして、魔法少女アルバコアに敵対する者達はすべていなくなった。

「よし」

(よくやった、偉いぞ)

「ははっ、お前のおかげだぜ――謎のマグロさんよ)

 そして強盗の如き行為を行ったアルバコアは現金の詰まったカバンを持って堂々と元の職場から去っていったのである。



――――――



「ははっ、これで遊び放題だぜ!」

 アルバコアはウキウキの笑顔でスキップしながら誰もいない夜道を通り繁華街へと向かっていた。

「ありがとうな、ほんと。これで底辺脱出だぜ!」

(まあこちらもお主の中に住まわせてもらってるわけであるからな、家賃みたいなものだよ)


 脳内マグロもどこか嬉しそうに笑う。

「さーて、なにしようかなぁっと」

 もし警察が来たとして誰が自分を捕まえられようか。

 またボコボコにして、もしかしたらオーサカの王にすらなれるかもしれないと――新人魔法少女は無邪気な妄想を繰り広げていた。


「ふんふんふん……俺は王様、最強魔法少女ぉ! ひゃっほぉーい!」

 だがその時である、アルバコアの目の前に一本の剣――いやクナイが飛んできて、彼女の前の地面に突き刺さった。

「あっ、な、なんだよ、あぶねえぞ! 誰だおまえ! どこだ!」


「我がの名はオーサカの正義を守る魔法少女――ダークネスだ」

 はっ、とアルバコアが見上げると電柱の上にそれはいた。

 黒服の上に黒マントを羽織ったその少女は明確な殺意をアルバコアに向けていた。













 

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