第2話

第二章 国家と戦争


──今日もよろしくお願いします


 おはようございます。よろしく。今日はお題が難しいから、どうなりますか。


──まず革命について教えてください。


 革命というのはまず不満から始まるのであって火のないところに煙は立たない。米が高いとか貴族が威張っているとか生活感情からして気にくわないことがある。それは煎じつめると経済の体制つまりマルクス経済学でいうところの下部構造の問題なんで、それに上部構造である共産主義とかのイデーが乗っかる。上に乗っかるのはどういう思想でもいい。例えばイラン革命がありました。あれはイスラム教の宗教革命ですけど、僕らのころはナチスがあってあれが右翼だか左翼だかわからなかった。どっちとも取れる。そんな内股膏薬みたいな印象がありました。だからナチスも革命なんです。革命の恐ろしいのは、お神輿は何でもいいんです。起きてさえしまえば題目はどうにでもなる。


──では先生にとって戦争とは何ですか。


 戦争というのは根本的に金儲けであって規模が大きいほど効率がいいし儲けもいい。規模を大きくするには一致団結するわけですから国家というものが出てくる。ギリシャもカルタゴと戦争するなかで都市国家が同盟した。ドイツもイタリアも戦争を通じて国家になった。カトリックはイスラムとも戦ってましたしルターのはるか以前から宗教改革の動きがあった。内と外で二重に戦っていた。


──国家=暴力装置という議論はどうでしょう。

 

 国家が本質的に暴力装置なのではなくて戦争という関係において国家が規定されるから暴力的にふるまうのです。戦争が暴力的なので国家も暴力的になる。生存競争、殺し合いだから当然です。平和時には国家も表面上は非暴力的です。ただし平和のなかにも常に戦争状態がある。それを指して国家が本質的に暴力装置であるというのは文脈を無視している。犬が人に噛みつくから犬は暴力的だ、という論法であって犬が噛みつくに至った経緯を考えない。金儲け、利権争いの道具に国家が暴力装置として利用されるのであってその逆ではない。なのに左翼は前提と結論を転倒させる。それが一連の欺瞞の始まりなのです。


──欺瞞とは何でしょう。


 戦争に目をつむって国家を語るのは時間が止まっているような、そういう静的なモデルです。現実は戦争によって国家が分裂したり統合したりというダイナミズムがある。古来ユートピアが幻想的なのは戦争がない世界を想定してるからです。血なまぐさくない。人間は殺し合いをする動物だという認識がない。アメリカで銃の所持が合法化されていることをよく考える必要があります。開拓史においては銃は生存の意志の表れでもあったのです。それと金の匂いもないです。苛烈な生存競争の裏で得する奴がいる。これが戦争を語るときのアルファでありオメガだと思います。


──先生のお考えでは戦争はこの世から無くならないということでしょうか。


 無くなりませんね。闘争精神といえば聞こえはいいですが人間はお互い殺しあう本能があるのです。オリンピックみたいなああいう様なガス抜きでは血に飢えた本性は中々満足いかないと思います。戦争は国家を対立させ歴史を前進させる駆動力でしたし、これからもそうでしょう。これからますます経済的な困難に直面するとしていよいよ行き詰まった時解決として戦争が起こります。今度戦争が勃発した場合は核抑止力は効果があるかどうかは分かりませんが日本が大変な苦境に立たされることは間違いありません。


──戦争反対の努力は無駄なのでしょうか。


 戦争を回避する為には世界経済が安定して順調であるようにコントロールすることが必要です。然し経済特に金融市場は弱肉強食の世界です。一部の機関投資家が暴れ回っている。各国の金融政策が肝要ですが特に日米の金融政策が歩調を合わせて難局に当たることが必要です。戦争反対というイデーはそれ自体は結構ですが実質が伴わないと効果が薄い。元マルキストとして言わせてもらえば下部構造が上部構造を決定するのです。


──先生は現実的ですね。


 僕は若い頃共産党に入党して主に農村部のオルグとして活動していました。それであることがきっかけで政治犯として逮捕されて獄中でカントの「純粋理性批判」を読んで人間がここ迄明晰に思考出来るのかと感動しました。それで思考実験の様な小説を書き続けています.ちっとも筆が進みませんが。恐らくは完結しなくまま僕は世を去るでしょう。話が逸れましたが僕は文学においては少なくとも理想主義者だと思います。首尾一貫してないと批判されようが僕は文学は言語芸術として純粋であるべしと考えていますのでそれが思想信条にそぐわないとしても全く矛盾しないと考えています。


──今日はここ迄にします。先生明日も宜しくお願いします。


 頭の方はしっかりしてるつもりなんですが体の調子がどうもね。明日はどうなっていることか。情けないけど仕方がない。兎も角明日も宜しくお願いします。

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