魔族討伐
俺たちはリリーを連れてゴートさんの家に向かっていた。
『そう言えば俺も結界とか張れないのか?』
先ほどの話の中で気になったことをシスに聞いてみる。
使えたら便利そうだしね。
『可能です。今発動しますか?』
『いや、まだいいや。取りあえずできるか確認したかっただけだしな』
そろそろ自分の能力ぐらい把握していかないとな。
それにしても、ほんとにチートな能力だよな。
時間にしてコンマ数秒でシスとのやり取りを終えた俺は、何事もなかったかのようにリリーと歩き続ける。
「もし、私が逃げたらどうするの?」
突然リリーが、そう訊ねてきた。
「試しにやってみるか?」
「…逃げません、すみません。カップ麺ください」
少し言葉に威圧を込めたら、リリーは即答した。
言葉で解決するって良いことだよね。和解大事、暴力ダメ絶対。
ちなみに発言の後半は無視だ。
『…』
『っん?どうしたシス?』
なんかあったのかな?
しかし、シスからの応答は無かった。
「っとついたな。ここだ」
それからすぐにゴートさんの家にたどり着いた。
『見張りはまだいるのか?』
『はい。隠蔽スキルを発動していますが、マスターに見えるように設定します』
シスがそう言うと、すぐに視界の端。ちょうど屋根の上に男の姿がぼんやりと見えるようになった。
「あれか…。どうしようか?」
ここで俺の脳内に複数の選択肢が表示される。
『1.殺す
2.惨たらしく殺す
3.弄り殺す』
『やっぱ殺すしかないか…。ってシスさん?俺の脳内で遊ぶのやめてもらえませんかね?』
『ちっ』
『えっ?』
『…?』
いや、シスが疑問系なのはおかしいだろ。
俺とシスが家の前で無駄話をしていると、男が俺たちに気づいたようだ。
どうやら一般人を装って俺を殺すつもりらしい。
男はさりげなく俺の背後に近づいてきた。
…という俺の妄想虚しく、まっすぐに攻撃してきた。
「リリー様、お離れ下さい」
そう言いながら、俺に蹴りを放つ。
「速いっ!」
そう言って俺は壁に叩きつけられる。
「っく。…強すぎる。これが魔族か…」
『茶番ですね』
『うるさい』
「弱いな…。この程度の相手なのか」
男は勘違いしてくれているらしく。顎に手を置きながらそう呟いた。
「さぁ、リリー様こちらに」
男はそのままリリーを守るように、自分の背後に移動させる。
リリーは俺の茶番に気づいたらしく、後ろで笑っていた。
「次は…俺の番だ!」
茶番を続けながら、ちょっと力を込めて男を殴る。
「ぐぁぁぁ」
「あっ、やりすぎた」
男はそのまま街の外壁まで飛んでった。…あっぶつかった。
取りあえず俺たちは、男が飛んで言った方向に向かった。
「…やるな、…お前何者だ?」
「俺は俺だ。お前こそ何者だ?」
「…俺はザキだ」
「お前がゴートさんを監視しているのか?」
名乗らせておいて名前で呼ばない。呼んであげない。
「そうだ、俺が監視し何かあれば魔王に報告していた」
「監視が俺たちにバレた訳だが今後どうするんだ?」
「ふっ、俺は魔族だ。魔族である以上、負けは許されん。最後まで戦うまでだ!」
『だってさ。…シス、洗脳よろしく』
『了解しました』
俺は、シスに言われたままに詠唱を唱える。
「なんだこれは?」
男(ザキ)の周りに赤い魔方陣が現れる。
「くそっ、洗脳の魔法かっ!」
どうやら俺のやろうとしていることに気づいたようだ。
そのまま男(ザキ)は逃げようと、詳しく言えば上空に跳ぼうと足に力を込める。
「させるか『眠れ』」
「っな!なんだ…と…」
男(ザキ)は眠ってしまった。
そしてそのまま魔方陣の輝きは強まっていき、洗脳が完了した。
まぁ、洗脳といってもいろいろあるのだが。今回は隷属機能つきだ。
これでいつでも利用できるな。
「さてと『目覚めよ』」
「んっ」
睡眠魔法を
「命令する。今起きたことは忘れ、今後魔王には何もなかったことだけを継続して報告せよ」
「分かりました」
男(ザキ)は、それ以上は何も言わずにこの場をあとにした。
「すみません。…これで良かったですか?」
「えっ?ナオヤ、誰に言っているの?」
俺は、誰もいない通りに向かって声を掛ける。
「ああ、ありがとう」
「えっ!」
そう言って通りの端からゴートさんが姿を現した。
どうやらリリーは気づいていなかったらしい。さすがはギルマスだな。
「しかし、なんで気づいたのかのぉ」
「はははっ」
俺は笑って誤魔化す。
「しかし、これでわしも自由になったわけじゃな」
「そうですね」
「今後は、何かあったらいつでも頼ってくれていい。いつでも協力するぞ?」
「はい、よろしくおねがいしますね」
「ところで、そちらの女性は?」
っあ、リリーのことすっかり忘れていた。
アイラのことも含めて、後で話さないとな。
俺たちは話を一旦切り上げて、ゴートさんの家に向かった。
チートな俺が世界を救った件について 卯月 @uzuki2016
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