温泉と野営


「大分歩いてきたな」


俺たちはボアー肉を食べた後、再び街に向かっていた。

日も傾いてきたし、そろそろ休むかな。とりあえず…発動。


「よし、もう少し歩いたら今日は休もう」

「そうだね。だいぶ暗くなってきたしね」


それから数分後。


「あれ?ナオヤ、なんか煙が見えるよ!」

「本当だ!ちょっと行ってみるか!」


そう言って俺たちは駆け出す。


「温かい…。これ温泉だよ!」

「なんて偶然だ!こんなところに温泉があるなんて!今日はこの付近で休もうか!」

「そうですね!」

『なんだシス。何か言いたいことがあるなら言っていいんだぞ』

『別に…』


そんなわけで、俺たちは野営の準備に取り掛かった。


『さすがに、そのまま野宿は嫌だからテントのようなものを出してくれないか』

『分かりました』

「アイラ、ちょっとまってて」


そう言いながら、俺はバッグを探る。

あった。


「これを使おう」


そう言って取り出したのは…。


「「えっ」」


プレハブ小屋だった。


『ちょっとシスさん?』

『なんでしょうかマスター?もしかしてお気に召しませんでしたか?』

『うん、お気に召したんだけどこの状況はお気に召さない』

『言っていることの意味が分かりません』

『分かってるよね。分かっててやったよね』


マジでどうするんだよ。普通、こんなの持ち歩かないだろ。そもそもこの世界にこんな建物が存在するのか?


「ナオヤ…。これはなに?」


うん、誤魔化そう。


「これは…。そう俺の村で作られているテントなんだよ。村人全員がこれを持ち歩いて生活しているんだ」


失敗した。


『マスター。さすがに無理があると思います』

『うるさい。分かってるよ。てか誰のせいだと思ってるんだ』

『マスター』

『違う』

「そうなんですか!さすがナオヤの村ですね」


嘘だろ…。騙されてるよ。


『馬鹿な女ですね』

『やめろ。お前が言うな』

「とりあえず中に荷物を置こうか」

「そうですね」


そう言って俺たちは、プレハブ小屋の中に入っていく。


「ここでいいか」


俺は、バッグから取り出した寝袋を床に置いた。


「これもナオヤの村で作られているんですか?」

「あぁ、そうだよ」


なんかもう吹っ切れたわ。


「すごいですね!ナオヤの村に行ってみたいです!」


無理。だって世界が違うんだもん。


「そのうち連れて行ってあげるよ」

「ありがとう!」


アイラは、俺の村に行くのがよほど楽しみなのか、笑顔でガッツポーズしていた。


『あ~ぁ、どうするんですかマスター。彼女本気にしてますよ』

『気にするな。なんとかなるでしょ』

「それより、先に温泉に行こうか。俺はあとでいいから先にどうぞ」

「分かった。行ってくるね」


アイラは温泉が楽しみなのか駆け出した。そして、立ち止まって振り向いた。


「絶対に見ないでくださいね」


…これは、振りなのか?見てもいいのか?


『ダメです』

『ですよね』


それから数分後。


「さぁーて、みなさんお待ちかねのハプニングタイムです!今日のハプニングはこちら。アイラの入浴中にスライムが襲ってきます。それを退治に向かう俺。偶然アイラの裸が…」

『誰に言ってるんですか?それと、キモいです』

『鳥さんたちに言ってる。それと、うるさい』

「まずは魔物を生成してと、これでいいかな『発動』」

「きゃぁぁ」

「成功!」

『本当に最低ですね』

「…大丈夫か!いま行くぞ」


俺は、アイラの悲鳴が聞こえた温泉に向かって走りだす。

アイラの目の前には、俺が召還したスライムが動いていた。


「どうした!」

「魔物が…」


そのままアイラは泣き始めてしまった。


『マスター。死んでください』

「……」


本当に最低なことをしてしまった。

とりあえず俺は、アイラを守るためスライムを倒す。


「…大丈夫か?」

「…怖かった。また…、助けてもらっちゃったね」

「……」


何も言えない。そんな俺に、アイラは抱きついてきた。


「ありがとう」

『どうするんですか?』

『決めたよシス。俺はアイラを守る。何があろうと彼女に危害を加えるやつは許さない』

『マスターが危害を加えてましたよね』

『…俺は、アイラを守り続けると誓うよ』

『はぁ、応援だけはしときますね』

「アイラ、俺は君を守り続ける」

「えっ?」

「何があっても、君だけは俺が守るんだ」

「ナオヤ?」

『マスター』

『なんだシス?』

『熱いですね』

「あっ」


しまった。これでは告白みたいじゃないか。どうやって訂正しよう。

そうやって俺が慌てていると…。


「私もナオヤに付いていきます。一生ナオヤと居たいです」


えっ、どうしよう。OKされちゃったよ。


『どうするんですか?』

『いや、さすがに少女に手は出さないよ』

「ごめん…、そんなつもりで言ったわけではないんだ」

「えっ、なんでですか?私じゃ、ダメなんですか?」

「そういうことじゃないんだ。アイラはもっと大きくなってから、本当に好きな人と一緒になるべきなんだ」

「私は、18歳ですよ!」


…嘘だろ。俺と同い年じゃないか。それなら…。


「それなら付き合「分かりました。もうすこし大きくなってから考えてみます」」


違うんだ。そういうことじゃ無いんだ。


『自業自得ですね』


それから、結局俺たちが付き合うことはなく、次の日を迎えるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る