1章

出逢いと衝撃


「なんだ?」


能力【疾走】を発動して走っていたら、マップに複数の青点が表示された。


「確か、詳細が見れるんだよな」


俺は、その内の1人の詳細を見ることにした。


「名前はランド、職業は…。盗賊!」


盗賊たちは、俺に気付いたのかこちらに向かってきた。

テンプレ通りならこの後は…。


「よう」


俺の目の前まできた盗賊たち。

その内の1人が俺に話しかけてきた。


「なんだ?」

「金を置いていけ」

「嫌だね」


はい、テンプレきたー!

取り敢えず、金を要求されたので断っておく。

そもそもこの世界のお金持ってないしね…。

すると、さっきまで青だった点が全て赤に変わった。


「てめぇ、殺されてぇのか」


そう言って盗賊たちは、剣を抜く。


「システム…。長いな、シスでいっか」

『了解しました』

「シス、それで何か傷つけずに倒す方法ってないかな?」

「傷つけずに倒すだと!てめぇ、舐めてんじゃねぇぞ」


馬鹿にされたことに怒った盗賊の1人が斬りかかってきた。

俺はそれを、足を引くことで紙一重でかわす。

そうそう、自動防御は最後の手段なので、基本的には避ける又は止める方向だ。

基礎鍛練にもなるしな。


『はいマスター。眠らせるのが簡単だと思います』


すぐに回答するシス。まじ有能。


「それはいいな。どうすればできるんだ?」

『身体の中のマナに呼びかけるのです』

「マナってなんだ?」

「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」


盗賊の攻撃をかわしながら、シスに尋ねる。


『マナとは、精神エネルギーのことです。試しに身体の中のマナを動かしますね』


そう言って、シスは俺の中のマナを動かし始めた。


「身体が熱くなってきたな」

『それがマナです。それに意識を集中して唱えてください』

「わかった『眠れ』」


俺は、シスに言われたとおりに発動した。


「なんだ!」

「急に力が…」

「目が開けていられない…」


すると、なんということでしょう。

先程まで騒いでいた盗賊が、みんな眠ってしまいました。


『これで数時間は目を覚まさないでしょう』

「我ながらすごい力だな」


自分の力を、改めて実感してそう呟いた。

そのあと、俺はマップ上で未だに青点で表示されているところに向かった。

実は、最初から気になってたんだよな。

一番奥に倒れている盗賊の下に辿り着くと、その横に麻袋が転がっていた。


「名前は、アイラか…」


恐らく盗賊に捕まったのだろう。麻袋に名前を呼びかける。


「もう大丈夫だよ」

「んんー」


驚いたのか、麻袋のなかでアイラが暴れ始める。


「大丈夫。俺は、盗賊なんかじゃない。盗賊はみんな俺が倒したから」


その言葉を聞き安心したのか、アイラは暴れるのをやめた。


「大丈夫だった?」


袋の縄を解きながら、彼女に声をかける。


「んんー」


そこからでてきたのは、目元を腫らした少女だった。

髪は茶髪のロングヘアーで、顔立ちは幼い少女。

着ている服はボロボロで、何があったのか想像するのが怖いくらいだった。

また、首には黒い首輪が付けられていた。

俺はすぐに、少女の口に付けられている猿轡をはずす。


「大丈夫だった?」


もう一度、アイラに尋ねる。


「うん、ありがとう」


アイラは、まだ怯えているのか声が震えていた。

その間に俺は、彼女の手と足を縛っているロープを、盗賊から頂いたナイフで切る。

すると、アイラはおもむろに自分の首下に手を持っていき、黒い首輪に触れた。


「私、奴隷に…」


そう言って、少女は泣き出す。


「奴隷?シス、どういうことだ?」

『はいマスター。いま彼女の首についている黒い首輪は隷属の輪と呼ばれていて、それによって彼女は主に従属しなければいけなくなっています。もし主を殺そうとすれば首輪が締まり彼女自身が死ぬことになります』

「なんだって!首輪をはずすことはできないのか?」

『基本的には不可能です』

「基本的にはってことは、はずす方法があるのか?」

『奴隷商会に行けば、はずすことができますが…。マスターであれば、行かずともはずすことができます』

「俺でもできるのか?」

『はい。今から言う言葉を彼女に触れながら唱えてください』

「わかった。ごめんちょっと触れるね」


俺は、シスに言われたとおりにするため、少女に断って肩に触れた。

アイラは、始めの内は戸惑っていたが、これ以上悪くなることがないだろうと感じてナオヤに


『それでは、唱えてください』

「『我が名はナオヤ、我が権限により汝を解放する』」


唱え終わると同時に、アイラの首輪が砕け散った。


「えっ?」


突然のことに少女は戸惑う。


「大丈夫だ。君は奴隷から解放された。もう君を縛るものなんてないんだ」


そこで冷静さを取り戻したアイラは、徐々に自分の状況を理解した。

盗賊に襲われたこと。隷属の首輪によって奴隷にされたこと。

そして…。目の前の男性によって、その両方から解放されたことを。

アイラは再び泣いた。しかし、悔しいからではない。その逆の意味で、アイラは泣き続けた。

しばらくすると泣き止み、そして安心したためかからお腹の音が聞こえてきた。


「…っ!」

「……」


音が鳴ったのが恥ずかしかったらしく、俺のほうをちらちらと見てくる。

俺も何と言っていいのか分からず、無言になる。

周囲を静寂が支配すること数分。


「よし、食事にするか。…って、そう言えば何も食料をもっていないな。盗賊たちの食料でも頂くか。俺にいきなり斬りかかってきたんだし、迷惑料ってことで」


そう言って、盗賊の荷物を漁り始める。


「見つかったのはこれだけか」


目の前には、カチカチのパンにカチカチの肉、カチカチの果物があった。


「……堅いな。これなら釘も打てるんじゃないか?」

『はいマスター。釘程度なら、容易く打つことができます』

「だよねー。…じゃない、どうやって食べるんだ?」


俺たちがそんな会話をしていると…。


「さっきから誰と話しているんですか?」


突然、少女にそう聞かれた。

まずい。少女がめっちゃ引いている。どうすればいいんだ?

俺は頭の中でシスに尋ねる。


『そうですね。「俺はとても妄想力が強いため、こうしてよく1人で話しているんだ」って言うのはどうですか?』


なるほど。


「俺はとても妄想力が……」『っておい。』


危なかった。このまま言っていたら、ただの変態になるところだった。


『気付きましたね』

『あぁ、てか声に出さなくても話せるなら、早く教えてくれよ』

『…質問されませんでしたので』


なんだか、シスに遊ばれている気がする。

態度もツンツンしているし…。これでデレてくれたら可愛いんだけどな。


『デレません。マスターは変態ですか?』


…ちょっとまて。いま人の考えていることに割り込んできたよな。


『割り込んでいませんよ』


うん。割り込んでる。


『それより、意思疎通という能力だと説明すれば、納得いただけると思いますね』


誤魔化したな。

まぁ、とりあえず少女のほうを優先するか。


『ふっ』


イラッ。あとで覚えて置けよ。

俺は頭の中で言ったあと、少女に説明を始める。

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