チートな俺が世界を救った件について

卯月

序章

すべての始まり


「じゃあな、直哉」

「あぁ、また明日」


そう言って、俺は中学からの親友である勇人と商店街で別れる。

何気ない日々、普段と代わりの無い放課後だった。

そう、そのはずだったのだが…。


「ここは、どこだ?」


俺は今、見渡す限りの草原…よく見れば遠くの方には木々が見える。森かな?

とりあえず、その草原の中心に立っていた。


事件は、数時間前。勇人と別れたところに遡る。


その日勇人と別れた俺は、新作ゲームソフト「ファイナルファンタジア15(FF)」を買いに、商店街を出てすぐにある駅地下の本屋へと向かっていた。


「確か今日発売されるんだよな」


上機嫌になりながら、駅前を歩いていると…。


「きゃぁぁ」

「誰か、助けてくれ!」


夕方、仕事帰りの人々で溢れる駅前で悲鳴が響いた。


「なんだ?」


俺は、悲鳴のあったほうへ向かう。

今思うと、そのとき俺はそこへ向かうべきでは無かったんだろう。

だが、向かってしまった。おそらく、そのときから運命は変わり始めていたんだろう。

なぜなら、すべてがここで終わり。そして、始まったのだから。


気が付けば、俺は悲鳴があった場所に辿り着いていた。


「なんだよ、これは…」


目の前には手や足、そして腹などから血を流して助けを求めている人、無言のまま倒れている人が大勢いた。

…生きているのか?


「地獄絵図じゃないか」


俺は、冷静に周りを見ていたが、実はかなり動揺していたのだろう。

だから気が付かなかった。気が付くことが出来なかった…。

まだ近くで、悲鳴が上がっていたことを…。


「うっ」


突然、自分の胸辺りから鋭い痛みが走った。


「なんだ…これは…」


自分の身体をみると、胸から細長い刃。カタナが飛び出し、その刀身は真っ赤に輝いていた。

恐らく色んな人の血が付いているのだろう。当然俺自身の血も…。

気が付いたときには、すでに全身が言うことを聞かなかった。


「くそ……」


俺は、その場に倒れた。カタナは引き抜かれ、傷口から血が大量に溢れ出る。


「うわぁぁ」


また誰かが刺されたらしい。そんな悲鳴が聞こえてきた。


「俺は死ぬのか?」


薄れゆく意識の中、俺は段々と怒りが込み上げていた。

許せなかった。許すことが出来なかった…。

武器も持たない、なんの抵抗もできない人々を蹂躙していく殺人鬼を。

そして後悔した。自分がもっと強ければと…。


そのまま、俺の意識は闇に飲み込まれていった。

そのとき、突然声が聞こえてきた。


『--汝、何を望む--』


可憐な声。とても心に響く、心地よい音色。

まるで、生まれる前から聞いているかのような優しく包み込む声だ。


なんだ、この声は?


『--はよ答えんか--』


前言撤回。優しさなどなかった。可憐な声に変わりはないが…。

ただ…望みだと…? そんなものは、今は1つしか考えられない。


「…強くなりたい。このままじゃ終われない、終われないんだ…。俺は、強くなる。そして、理不尽な暴力から人々を守れる力が欲しい!」

『--その望みの対価に、汝は何を差し出す--』

「それ以外なら、大切な人たちを守るための力以外なら、何もいらない。何だって差し出してやる」

『--何だってか…。そのことに恐怖はないのか--』

「ない! 俺は、無力な自分を変えたいんだ!」

『--面白い。その望み、確かに聞き届けたぞ--』


その声を最後に、意識は眩い光に飲み込まれていった。

そして、話は現在に至る。


「確か、声が聞こえてきて…。目が覚めたらここにいたんだよな」


あたりを見渡しながら、自分に起きた状況を整理する。


「あの声の通りなら、何か力が与えられているのかもしれないな」


試しに俺は、地面を殴ってみる。


ドゴォォン


「えっ?」


俺が殴った場所を中心に、広範囲に渡って大きなクレーターが出来上がっていた。


「力…。ありすぎだろ」


もし本気で殴っていたら、この星が割れるんじゃないかな?

そんな不安に駆られてしまう人がいた。てか俺だった。


「そう言えば、ステータスとかってあるのかな?」


確かめるために、俺はステータスと叫んでみる。

すると、無機質な女性の声が聞こえてきた。


『ステータスと言うものは存在しません』


ん?なんだ今の声は。

気になった俺は、その声に質問を続ける。


「あなたは何ですか?」

『私はシステム。マスターの能力の1つになります』

「システム?なんだそれは?」

『マスターの固有スキル、全知全能によって生み出された存在です。私の役目は、マスターをサポートすることです』


固有スキル、全知全能だと?

それに、サポートをするってことは、いろいろ教えてくれたりするのかな?

疑問に思った俺は、システムに問いかける。


「全知全能ってなんだ?システムは、どこまでサポートしてくれるんだ?」

『全知全能とは、全てを知り全てを操作する能力です。ただ、全てを知るには脳に多大な負荷がかかってしまうため、自動的に私が生まれました。サポートの範囲は、全ての情報の提供及び、全ての能力の管理となります』

「へぇ、…例えばどんな能力があるんだ?」

『すべてです。説明することは可能ですが、マスターの脳が処理に追いつかないでしょう』

「なるほど。索敵とかってあるのか?」

『あります。【索敵】を起動しますか?』

「あぁ、頼む」


索敵を起動したのか、俺の視界の端に半透明のマップが表示された。

青色の点が大量に動いているところが複数ある。


『マップの大きさは、任意に変えることができます。マスターであれば、かなりの広範囲を見渡すこともできるでしょう。また、敵であれば赤点、味方であれば緑点、それ以外は青点で表示されます。詳細と念じれば、その点等の詳細を表示することもできますよ。そのような設定で常時起動しますか?』

「それでお願いするよ。範囲は300mで設定できるかな?」


さすがに、それ以上の広さを索敵してもしょうがないし、何より点が多すぎて疲れるからな。


『了解しました。それでは設定を上書きします』

「自動で防衛する能力ってあるのか?」

『【自動防御】が存在します。設定しますか?』

「頼む」

『設定しました。これによりマスターは、敵意ある全ての攻撃を自動的に無効化します』

「よし、とりあえずこれでいいか」


そう言って俺は、先ほどマップで確認した青点が多く集まる場所。街に向けて移動を開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る